福島県庁にて-南相馬市長日本のマスコミを叱る

takase222011-10-13

きのうの昼、福島県庁にいた。
南相馬市の市長、桜井勝延さんに会いたいと連絡したら、県庁に行くからそこで会いましょうとなったのだ。
桜井さんは、アメリカの雑誌、タイムが「世界で最も影響力のある100人」を紹介する毎年恒例の「TIME100」の2011年版で、オバマ大統領などと並んで選ばれたことで知られる。日本人は桜井さんのほか、南三陸町の公立志津川病院の医師、菅野武さんが選ばれた。

桜井さんと2階のホールでお茶を飲んでいたら、ぞくぞくと原発事故でやられた市町村の首長がやってきた。これから陳情があるのだという。
一緒のテーブルでいろいろ話を聞いた。その話はあまりに面白いので、おいおい書くとして、まず、桜井さんに、いきなり「私は日本のマスコミは信用していませんから」と言われたことから書いてみよう。

桜井さんが怒っているのは、大事なときに、日本のマスコミはみな逃げた、という事実だ。
「世界中から私にインタビューしに来ましたよ。アメリカは主なテレビは全部、新聞もニューヨークタイムズワシントンポストも通訳つれて南相馬市までやってきました。ヨーロッパも、イギリス、フィンランドスウェーデンデンマーク、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、全部は覚えていないけどたくさん来た。アジアも韓国、中国、台湾、香港、シンガポール数え切れないほど取材を受けたのに、日本のマスコミは何ですか。まず、いち早く支局が逃げたんです。そうして、ある社は原発から50km、ある社は60kmと決めてそれより中には記者が入らないという。だから私のところには取材に来ないわけです。フリーランスは来ましたけど、名のある大マスコミは来ない。外国の記者がどんどん入っているのにですよ。日本のマスコミは意気地なしです。彼らに何が分かるんですか」

NHKが原発の映像を流したときに「30km離れた所からの映像を放映しています」とわざわざテロップで流していたが、あれは恥かしがっていたのではなく、むしろ近づかないでちゃんとやってますよと誇らしげに出していたのである。「コンプライアンス」である。

私は、いろんなところで、「テレビって、ホントのことを放送していないんですよね」とごく当たり前のように言われる。この感覚は私も共有しているから、反論できない。
しかし、これは大変なことだと思う。100年に一度の国難に、この時こそ大きな役割を期待されるはずのマスコミが「信頼できない」と言われているのだ。
桜井市長が言っていることが日本のマスコミの体質を象徴していると思う。
みんなが知りたいことは、普通の人が入れないところにあるはずだ。マスコミが、一般人より先に逃げてどうする?
燃え盛る火に立ち向かっていく消防士とたとえたくはないが、必要なら危ないところに飛び込んで行くのが我々の職業倫理というものではないか。
桜井さんの隣に座ったのが、福島原発のお膝元双葉町の井戸川町長だ。
初対面だが、すぐに打ち解けた。というのは、7月に私に町議会に来て講演してくれと要請されていたからだ。日程があわずにまだ実現できないでいるが。井戸川さんは、私のDVD「チェルノブイリの今 フクシマへの教訓」を大量に購入してまわりに配ってくれているという。

「おれ、放射能直接浴びたんだ」という。
3月12日のこと。双葉町の厚生病院の前で、町民の避難を指揮していたとき、ドカーンと爆発の音がした。1号機の爆発である。「5分くらいして、空からぱらぱらホコリみたいなのが降ってきたんだ。もろに死の灰を浴びたんだね。そのあと、現場にいた人、おれも含めてみな喉が痛くてね。それから脛毛もみな抜けたんだ」。
井戸川さん、ズボンをめくって、つるつるの脛を見せてくれた。
「おれ、前は毛深かったんだけど、すっかり毛が抜けてしまったんだ」
ちょっと待って。
それって、まさか急性症状?
ストレスでしょう?
(つづく)