原発事故とコスト2-ナロジチにて

takase222011-05-19

菅首相が18日の会見で、記者に再生可能エネルギーの全量買取制度と発電・送電の分離についてつっこまれ、こう答えている。
《全量買い取り制に関連して、送電や発電の分離といった指摘だが、これも今回の事故ということだけではなくて、自然エネルギーというのはどちらかといえば大規模な発電所は難しい技術であり、いわゆる地域分散型の発電ということになる。その場合にどういう、従来は大きな発電所を持っている電力会社自身が、自分のそうした大きな発電所に合わせた形の配電システムをつくってきたが、自然エネルギーを大きな割合で受け入れる時に、どういう体制が必要になるのか、あるべきなのか、そういうことについては現時点、事故の調査といった時点でそこまで踏み込むことは難しいが、今後のエネルギーのあり方、まさにエネルギー基本計画などを考える中では、当然そういうことについても議論が及んでいくことになるだろう。またそうすべきだと考えている》
菅という人は、深く考えないパフォーマンスでの言動が多いから、割り引いて聞くとしても、世の中の趨勢は大きく変化しそうな気配だ。
きょうのニュース。
東電が3月11日の津波福島第一原発を襲う写真を17枚発表した。
しかし、なんで今ごろになって??
《東電は写真の公表が被災から約2カ月後となったことについて「情報を収集して整理する中でこうした写真があることが分かったため」と説明した》(毎日新聞
私は、うっぷんばらしで東電を叩くことはよくないと思うし、早く原発の状況を安定化し、被災者にできるだけ手厚い補償がなされるように東電が動けばそれでいいという立場だ。
しかし、この間、隠しておいた大事なことを、まるで「もう隠しておけないから」あるいは「世間から非難されそうだから」公表するさまを見ていると、東電は「当事者意識がない」と批判されるのがよく分かる気がする。
さて、本題。
17日の日記で、福島第一原発事故放射能に汚染された地域の汚染地図が作られ、《チェルノブイリ原発事故の強制移住対象レベルだけで、約800平方キロに上ることが分かった。東京都の面積の約4割、琵琶湖の約1.2倍に相当する》との記事を紹介した。
これはウクライナの土地の4区分と同様、《土壌中の放射性セシウム137の濃度》を基準にしている。
ウクライナの第2ゾーンの「無条件移住区域」が1平方キロあたり15キュリー以上で、ベラルーシも同じ値で「無条件移住区域」に指定している。
1平方キロあたり15キュリーとは、1平方メートル当たり55万5千ベクレルに換算される。(15キュリー=555ギガベクレル)
セシウム137の蓄積濃度が1平方メートルあたり60万ベクレル以上に汚染された地域は約800平方キロメートルに及んでいた。この地域はほぼ、警戒区域計画的避難区域と重なる。チェルノブイリ原発事故で、強制移住の対象になった55.5万ベクレル以上の地域の約10分の1にあたる》(Asahi.com5月11日)
チェルノブイリ事故の「無条件移住区域」にあたる汚染をこうむった面積が、これほど大きく広がっているとは・・・
こうなるとますます、チェルノブイリの経験を学び教訓にすべきだということになる。
さて、きのうの続き。
原発から60km西方に位置するナロジチ町は第二ゾーン「無条件移住区域」。
町民の身分証明書(パスポート)を見せてもらうと、ちゃんと「カテゴリー2」と書いてある。
第2ゾーンに住む人々には政府から「補償」が出る。例えば、電気・水道・ガスなどの公共料金が半額になる、食料手当が給付される、2週間の休暇が許される、公務員の給料に増額されるなどの優遇措置がある。
政府は、移住させるべき人々を予算不足で移住させられない。そこで、次善の策として移住待機者への「補償」を行っているのだが、これはこれでお金がかかるわけである。
役場に行ってみた。議会の副議長のプロコペンコ氏に話を聞く。
「ここに住み続けたいと思う住民も多くいるので、生活を向上させたい。子どもの数も増えている。学校生徒(8年制)は10年前の300人から500人になり、幼稚園には150人の園児がいる」
「第2ゾーンでは、経済活動はもちろん生活することも本来禁じられている。第3ゾーンになれば経済活動は自由にできるので、投資を呼び込むためにも、区域のカテゴリーを変えるよう政府に要請している」
ゾーン分けの変更は、選挙でも争点になるそうだ。
第2ゾーン指定から第3または第4へとレベルを下げることで経済開発を促進しようという意見がある一方で、第2ゾーンのままで補償を手厚くしてもらおうという立場、いやそんなことより一日も早く移住させるよう政府を突き上げるべきだという意見もあるという。
汚染地のいらだちは、ゾーン分けを政治的争点へと変えていた。【写真は菜の花プロジェクト実験農場に立つNGO駐在員の竹内さん】
(つづく)