原発事故とコスト3−菜の花プロジェクト

takase222011-05-20

またまた、ぎょっとするニュース。
震災翌日の3月12日未明には、放射能の拡がり方を予測するデータが官邸に報告されていたのに、政府首脳にも国民にも知らされなかったという。
枝野幸男官房長官20日の記者会見で、福島第1原発事故による放射性物質の拡散状況を示す予測データが、東日本大震災発生翌日の3月12日未明に首相官邸に届いたにもかかわらず、菅直人首相や枝野氏、危機管理監らに報告されていなかったと明らかにした。
 枝野氏によると、放射性物質の飛散状況を予測する緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)のデータは、12日午前1時35分ごろ経済産業省原子力安全・保安院から官邸内の危機管理センターにファクスで届いた。しかし、そこから首相らが指揮をとる幹部の部屋には伝わらなかったという。
 枝野氏は「その時点で報告があれば、避難指示にあたっての参考になっていた。大変遺憾だ」と述べた。「結果的に重要な情報でないと判断したとしか考えられない」とも語った。
 枝野氏は近く立ち上げる原発事故検証委員会で検証するテーマになるとの認識も示した。首相は官邸がデータを受け取った後の12日早朝に自衛隊ヘリで福島第1原発を視察している》(日経)
SPEEDIのデータは、首相の視察行動が安全かどうかの判断には生かされたのかもしれない。
チェルノブイリ事故に関する情報を当時のソ連政府はひた隠しにした。
情報統制を常とする共産党政権時代であり、しかも原発情報は軍事機密扱いだった。
命にかかわるその情報隠蔽は、ウクライナベラルーシなど被災地域の住民の中央政府に対する憤激と不信につながり、5年後、91年のソ連邦崩壊を準備したと言われる。
ソ連情報隠蔽はもちろん意図的なのだが、今回、福島の事故直後の重要情報が公開されなかったことはなぜなのか。単なるケアレスミスなのか。「検証」しなければならないことばかりだ。
さて、きのうの続き。
ここナロジチでは、日本のNGOの支援で「菜の花プロジェクト」という実験が進行中だ。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20110424
福島原発の事故以降、マスコミにも取り上げられて急に注目を集めている。
菜種は水に溶けたセシウムを吸収するが、そこから採った油には放射性物質は含まれない。そのナタネ油でバイオディーゼルを生産し、第2ゾーンの人々に仕事をつくり、同時に高い化石燃料の輸入の負担を軽減する。汚染された土壌を改良すると同時に現地の経済的振興に寄与する一石二鳥、三鳥のプロジェクトだと現地での期待は高い。
だが、現地駐在の竹内さんに聞くと、簡単な話ではなさそうだ。
菜種の根が吸い上げる放射性物質はごく一部だという。また、すでに25年の時間が経って放射性セシウムは土壌深く浸透してしまっているとも聞く。
さらに、放射性物質を吸い上げた茎や葉をどう処理するのかという問題も未解決だ。
《吸着度合いは植えられる土の質によって異なるが、ナロジチでの効果の分析などを担当している国立ジトーミル農業生態学大学によると、栽培後の土壌で水溶性セシウムの減少が確認された。しかし、事故から25年近くが経過したことで放射性物質が地表から内部に広がり、セシウムで約20センチ、ストロンチウムで約40センチの深さに浸透していた。さらに放射性物質が土壌の粒子と固く結合し、吸収されにくい状態になっていることも分かった。
 同大のニコライ・ディードフ准教授(53)は「土壌の放射性物質の絶対量を減らすにはかなりの時間がかかるだろう。ただ、ナタネで水溶性のセシウムを吸収させたあとに小麦やライ麦を輪作で植えていけば、汚染の少ない作物が収穫できる」と指摘した》(毎日新聞4月13日)
写真はディードフ准教授。いろんな植物サンプルを手に、どんな放射性物質がどの種類の作物に入り込みやすいかを説明してくれた。
支援する日本のNGOは、年数がたつと浄化が難しくなることが分かったので、福島の事故の被災地は、放射性物質が土壌の表面にある今のうちに手を打つべきだという。
ナロジチ地区では農地の95%が耕作禁止に指定されているという。菜の花プロジェクトは放棄されたコルホーズの土地を借りて実験している。
打ち捨てられた広大な農地が地平線まで広がる風景を見ていると、思わず「もったいない!」とつぶやいてしまった。
(つづく)