金賢姫来日で割れる評価

takase222010-07-24

金賢姫工作員が帰国した。
今回の来日については、さまざまな意見があろう。だが、拉致問題の解決をめざして最も献身的に運動している人々の間でも、驚くほどの評価の違いが出た。
まずは、「救う会」の西岡力会長。金賢姫の来日には大きな意味と成果があったとする。
《今回の訪日は大変意味があったと思っています。世論喚起という意味もありますが、それよりも、未だに北朝鮮は大韓機爆破事件を認めてないのです。金賢姫さんは偽物だと言っています。北朝鮮人じゃないと言っています。その金賢姫さんが覚えていた横田めぐみさんの特徴で横田さんのご両親が感動したこと、あるいは飯塚さんが覚えている妹の八重子さんの特徴と、金賢姫さんが現地で会った特徴が合って、だからこそ心の交流がどんどん深まっていっている。金賢姫さんが偽物だったら我々全部がだまされたことになります。
そんなことはないということで、日本政府が公式に、本物だという前提で呼び、北で聞いたことについて当事者が聞いたら、失踪する前の状況と合っているということが確認された。ここで、北朝鮮に言いたい「大韓機事件はでっち上げだという嘘はもう通じないですよ」と。
 通じなくなった嘘、金賢姫さんも言っていましたが、30年前の嘘にこだわらなくなれば田口八重子さんや横田めぐみさんが帰ってくる可能性が出てくる。そこは私と金賢姫さんの意見が一致したのですが、秘密が秘密でなくなってしまうようにすれば死亡とされた被害者が帰って来れる道ができる。そういう点で今回、金賢姫さんが偽物だという北朝鮮の嘘は、完全に、完膚なきまで否定されました。
 心と心の交流が、飯塚さんや横田さんたちにできたということが、金賢姫偽物説の嘘を暴露したことになったのです。心と心が通じたということは、偽者だったらありえないのです。つまり北朝鮮の嘘を一つ、満天下にあばくことができたということで、大変、戦略的に意味があったと思います。ですから、家族が心と心の交流ができたというのは、家族だけがよかったのではなく、そのことに本当に意味があったということを強調しておきたいと思います》http://www.sukuukai.jp/mailnews.php?itemid=2226
 北朝鮮田口八重子さんと横田めぐみさんを帰さないのは、大韓航空機事件を認められないからだという「構造」、それを崩すことの重要性を西岡さんは指摘しているが、これはその通りだと思う。
 一方、神奈川、徳島などいくつかの地方の「救う会」組織の代表が、連名で日本政府を強く批判する「緊急声明」を出した。
《日本のパスポートを偽造して115人もの韓国人の命を奪い、その罪を日本人に被せようとした彼女は、今もって日本の法令上は歴然とした犯罪者なのである。そのような人物を特例措置で入国を許可し、逮捕もしない日本政府の対応に対して我々は強く抗議をしたい。
 (略)これといった目新しい証言が得られる確証がないにも関わらず、法治国家としての大原則をなし崩し、しかも総額1億円とも伝聞する多額の税金を投入してまでこのようなパフォーマンスを行うことにどれほどの意味があるのかを問いたい。また、この一連のパフォーマンスが、これまで拉致問題の解決を支援してくれた多くの国民の信頼を損なうことにならないかと懸念するものである。
 これまで、拉致問題解決のための日朝両国政府の交渉においてルールを守らない北朝鮮を非難し制裁を課してきたわが国が、こともあろうに特例措置と称して法治国家としての道筋を踏み外すとは真に痛恨の極みである。今回の金元工作員の来日を望み、その来日のために働いたすべての関係者に猛省を促したい》
 超法規的措置で来日させた意味と費用対効果を問題にして、今回の来日自体をほぼ全面的に否定している。
 さらに、特定失踪者問題調査会は22日夜、緊急記者会見を開いた。
「来日中の金賢姫北朝鮮工作員(48)をめぐり、北朝鮮による拉致問題を調査している民間団体「特定失踪者問題調査会」の荒木和博代表は22日、東京都内で記者会見し、「政府が(元工作員に)失踪者の写真も見せず、一緒にのんびり食事をしているのは本当に許されるのか。憤りを感じる」と厳しく批判した。
 荒木代表は同日夜、元工作員中井洽拉致問題担当相らが会食する都内のホテルで、失踪者の写真などを元工作員に確認してもらいたいと要望。
 しかし、荒木代表によると、担当相は「自分がやるから」と伝言し、拒否したという。
 会見で荒木代表は「失踪者の死亡情報でもほしいという家族が、これまでに何人も亡くなっている」と涙ぐみ、「軽井沢へ行って時間を浪費する必要はないし、ヘリコプターの遊覧飛行は話にならない」と憤った。
 さらに「世論喚起の効果は認めるが、政府認定の被害者家族と会うだけの今回のようなやり方では駄目だ」と述べた」(共同)
荒木さんは、「本当に救出に必要なら」超法規的措置や多額の公金を使用することは認めるとしたうえで、以下のように評価を下している。
●最近拉致問題の動きがなく、報道も少なくなっていたときであり、金賢姫の来日によって久しぶりに拉致問題が大きく報道されたのは世論喚起の意味でもプラスであった。
●飯塚さん、横田さんのご家族に金賢姫が直接会って話をしてくれたことは良かった。少しでも情報が伝えられれば家族にとって何よりのプレゼントである。
●しかし一方で、特定失踪者については今回ほとんど顧みられなかったと言って良い。別に調査会を通さなくても可能性のあるご家族に直接声をかけるなどして面会させ、情報の確認を行うべきだったと思うが、そのような形跡はない。
●非公開の特定失踪者の写真など政府はほとんど持っていないはずである。しかし、提供を求めるどころか、それを見せることすら拒むというのは一体何のための情報収集なのか。私が行ったときに1時間半かけて会食をしていた国会議員で、拉致の細かい事情を知っている人はほとんどいない。酒を飲みながらの世間話で時間を費やすなら1時間半で何人の写真がみてもらえるのか。
●結論として今回の金賢姫訪日は情報収集及び飯塚さん、横田さん家族との面会なら大部分が韓国で済ませられることであり、厖大な予算をかけ法的な特例措置をもって行う必要はなかったと言わざるを得ない。
●また、「訪日はご家族の意向」とか「金賢姫が旅行したいと言ったからヘリに乗せた」とか、「韓国国情院の統制が厳しくて十分に話が聞けない」などとの話が出ているが、これらはどれも言い訳のように聞こえてならない。政治決断でやったならすべての責任は政治家が負うべきである。http://hrnk.trycomp.net/
政治家の本気度を問う荒木さんの気迫に共感した。
上に三つの立場を紹介したが、以上のような評価の違いは、話し合いのなかで、次の建設的な動きにつながるよう期待したい。
また、以上の諸団体はみなよく事情を分かっている方ばかりだと思うが、今回の来日を批判する場合でも、金賢姫や家族の方々が貶められないような配慮をしてほしいと思う。