「天安」沈没事件によせて1

takase222010-05-21

映画「クロッシング」を配給した「アジア映画社」の朴社長を囲んで新大久保の「チング」という店で飲んできた。井筒監督の週刊現代の「クロッシング」評はひどいと盛り上り、「クロッシング」上映館が20館まで増えたと聞き、みなで祝福した。
タイの「内戦」と言ってもいい事態(4月から合わせると60人以上が死亡している)を書こうと思ったが、朝鮮半島の緊張に対して専門家の先生方の的外れな議論にあきれて、こっちを書く。
3月末に起きた韓国哨戒艦「天安」沈没の原因発表は、非常に説得力があった。
あれだけ動かせない物証があれば、国際社会も「北朝鮮のしわざ」と納得せざるをえないだろう。
発表によれば、「天安」は魚雷による水中爆発で発生した衝撃波とバブルジェット効果により、切断、沈没した。攻撃に使われたのは「CHT―02D魚雷」で、「音響航跡および音響手動追跡方式を使用し、直径21インチ、重量1・7トンで、爆薬は250キロ・グラムに達する重魚雷」だという。
これに対して、北朝鮮は例によって猛反発した。
朝鮮中央通信によると、北朝鮮の国防委員会報道官は20日、声明を発表し、韓国海哨戒艦沈没の調査結果について、『政治、軍事目的の捏造劇だ』と批判。制裁が行われた場合、『即時に全面戦争を含む各種の強硬措置で応じる』と警告した」(日経)
今回の北朝鮮の行動をどう解釈するかだが、ある新聞の社説はこう書く。
「動機は不明だ。金正日総書記への忠誠競争が暴走した結果なのか。軍の威信を高め、後継体制づくりに利用しようとしたのか。昨秋、北朝鮮艦艇が海上の事実上の境界を南に下って韓国軍に撃退されたが、その報復との見方もある。いずれにしても異様な国家の異様な行動である」(朝日21日)
「異様な国家」って、とっくに分かってるんですけど・・・
ほとんどの社説が「緊張を高めてはならない」と主張する。これ以上、むちゃくちゃなことをやられると困るので、「まあまあ、なんとか」というふうに北朝鮮を扱ってきた過去を踏襲するしかない。中国は別な意図で動いているが、民主主義国家はふつう緊張状態を回避する方向で動くことになる。だから北朝鮮はいつも、どんなに暴れても、そのあと融和局面が向こうから転がり込んでくるのだ。
新聞は、なぜ北朝鮮がこんなことをしでかしたのかの分析で混乱する。これもいつものことだが。
いま北朝鮮は、国際制裁で苦しく、デノミの大失敗もあって、援助が必要なはずだ。それならうそでも大人しくしていればいいはずなのに、孤立を招くこんな行動をどうしてやったのか?
その解釈は、もう百花繚乱というか、むちゃくちゃ。さきの朝日社説だけで4つもある。
他にも、アメリカとの平和協定を締結するための「挑発」(例えば小此木慶応大教授)など、ありとあらゆる解釈が乱れ飛んでいる。魚雷一発発射して、これほどの多様な解釈があるとは、結局「分からない」と言っているのと同じだ。
(そして、ほとんどの解釈が的外れだと思う)
新聞をざっと見ると、「まさか」というフレーズにならんで「やっぱり」という言葉が目立つ。「分からない」ことが常態化しているのだ。
このブログでは、何度も、北朝鮮は他の独裁国と違う、政策誘導は効かない、つまりアメとムチを使って、北朝鮮の行動を変えることは難しいと言ってきた。こちらが善意ならば向こうも妥協してくることを前提とした太陽政策がなぜ失敗したのか、我々はまだしっかり教訓を学んでいない。
ナチズムを分析したアーレントの古典「全体主義の起源」は、北朝鮮に対する我々がいま読んでも実に新鮮である。
《譲歩(太陽政策ですね―高世)と大きな国際的威信(国連および6者協議かな―高世)とを用いて全体主義国を正常な国際関係に引きもどすことはあらゆる正当な期待にもかかわらず何としても不可能だったし、われわれは敵の世界に囲まれているというイデオロギーに根差した全体主義国の主張が正しくないことを行為によって証明して見せようとするすべての試みは徒労に終わった》(第3巻149ページ)
後半は、平和協定を結んでもダメということを意味している。
北朝鮮は、敵に囲まれていると脅えて核兵器を開発するのだから、こちらが敵対していませんよと行動で示せば核を放棄するはずだ・・・と主張する人がいますね。そういう人に読んでもらいたい本です。
それから、明日、朝鮮総連の大会なので注目しましょう。この事件をどう扱うのか。これは朝鮮学校無償化論議にとって非常に大事だと思う。
(つづく)