先が見えないアフガン2

先日、知り合いから手紙が届いた。その冒頭、季節の挨拶はこうだった。
《熱暑がないまま立秋を迎えた今、滞納した税金を納める様に蝉がかまびすしく鳴いていますが、夜になると虫の音が聞こえ始めています》
そのとおりだ。「滞納した税金を納めるように」とは身につまされるがうまい表現だ。こないだ、蝉時雨の降るなか並木道を歩いていて、そういえば今年は蝉が鳴くのが遅いなと思ったところだった。
さて、きょうはアフガンの投票日だ。
今回の選挙は誰が勝っても《落としどころ》が全く見えない。
友人のジャーナリスト、常岡浩介さんは、この春、アフガンを取材した。タリバンの強い地域にも入り、タリバン幹部にもインタビューした。以下は常岡さんの話だ。
タリバンが勢力を復活させたのは、アメリカ軍による掃討作戦だという。見境のない激しい砲爆撃で大量の非戦闘員に犠牲が出ている。また、配慮のない家宅捜索などで、住民に侮辱感と恨みを植えつけている。親族、友人を殺されたたくさんの若者が自ら望んでアメリカとの戦いに銃を取っている。
さらに、タリバンは軍事だけでなく、政党政治、行政の分野でも着々と力を伸ばしている。
例えば、タリバンは「表の顔」を持って公然と立候補し政界進出を図っている。タリバンのある「元司令官」もその一人だが、地盤は激しい戦闘が続くタリバン実効支配地域だ。便宜的に「元」と名乗っていても実態はタリバンそのもの。彼の選挙戦を支えるのは武装した若者たちで、多くは米軍の空爆で親や親族を殺されている。各地で行政のトップが「タリバンに州政府のポストを用意する」と語り、住民もタリバン支持を公言している。
注目すべきは「イスラム党」だ。閣僚を4人、州知事17人を送り込む政権与党の大勢力だが、組織の事実上のトップ、ヘクマティアル元首相はタリバンと連携して英米軍と戦闘を繰り広げている。つまり、表では与党、裏ではタリバンと結んでいる。違いは、タリバンが外国軍もそれに協力するアフガン人もともに攻撃するのに対して、イスラム党は外国人だけを攻撃対象にするという点だけだ。
今回の大統領立候補者をみても、タリバンとの「和解」を掲げる候補が目立つ。これはタリバンの実効支配力の大きさを示している。
オバマ大統領は、対テロ戦争の重点をイラクからアフガニスタンへ移すと公約して、3月末には新戦略を発表し、米兵2万1000人の追加派遣を決めた。しかし、以上の情勢を見ると、アメリカが対テロ戦争の泥沼から抜け出すことは難しいといわざるをえない。
私ははじめ、これ以上血が流れるのを見たくないから、アメリカの傀儡政権でもよい、このまま「安定」してくれないかと思った。しかし現状は、どんなにてこ入れしてもアメリカの望む形での「安定」はなさそうに思われる。
将来、事実上タリバンがコントロールする政権が成立し、アメリカはこれを「タリバンではない」と宣言して撤退するなどといった、漫画的な終わり方さえオプションの一つになるのではないか。
そこで、この戦争に日本がどう関わるかを考えなくてはならない。
《日本は、治安・テロ対策と人道復興支援を「車の両輪」として「テロとの闘い」に取り組む中で、アフガニスタンについて、これまで計20億ドルの支援を表明し、治安、インフラ整備、基礎生活分野、農業・農村開発等の分野で約14.6億ドルの人道復興支援を実施してきました。その中では、08年12月現在、約30名のJICA専門家が同国に派遣され各種技術協力を行ってきており、現在約140名の日本人が活動しています。また、07年からは、リトアニア主導を含む8つのPRT(地方復興チーム)と連携しつつNGOや地方行政機関への無償資金協力事業を計41件実施してきました。》(外務省のホームページhttp://www.mofa.go.jp/MOFAJ/press/release/21/1/1186108_1090.html
このPTR文民支援チームをさらに増やしていこうとしているのだが、あくまで「テロとの闘い」の一環であり、無能な現政権への協力である。いくら「良かれ」と思っての行動でも、結果としてそれがより多くの血を流させる可能性もあるのだ。
《米紙ワシントン・ポストとABCテレビが19日発表した共同世論調査で、アフガニスタンでの対テロ戦は米国にとって「戦う価値がない」と考える国民が51%と半数を超えたことが分かった。7月の調査時に比べ6ポイント増加。20日アフガニスタン大統領選挙についても、新政権に効果的な統治は期待できないと悲観的な見方を示す人が64%と多数を占めた。》(日経新聞20日
アメリカ国民の過半数がアフガンから手を引こうと考えるにいたった現在、日本がどういうスタンスでアフガンにかかわるか、根本的な問題を我々は突きつけられている。