中東に和平で介入していいのか

日本は、民主党政権になって、アフガンへの関わり方を変えた。
新テロ特措法の期限が切れる今年1月で、海上自衛隊がやっていた米軍などの艦船への給油活動をやめた。その代わりにと出してきたのが、巨額の「民生支援」だ。
去年11月10日、政府はアフガニスタンパキスタン支援策に関する閣僚委員会を開き、アフガニスタンに対し、2010年から5年間で50億ドル(約4500億円)の民生支援を行うことと隣国パキスタンへ10億ドル(約900億円)の支援を実施することを決定した。
給油中止の代わりにお金で勘弁してね・・・。アメリカへの顔色をうかがった大盤振る舞い。アフガンの何をどうすればいいのかを考えた結果ではなく「金額ありき」だったのだろう。
先日書いたように、アメリカにはアフガンで勝ち目はない。日本は、その勝ち目のないアメリカに寄り添うわけである。政治家だけでなく、日本国民も「アメリカの機嫌を損ねてはいけない」ということが議論なしの前提になっている。これでは「戦略的外交」などできるわけがない。
日本がどうすればいいのかを考える前に、脳みそを柔らかくするため、思い切りラディカルな発想を紹介したい。
講談社Ratio(09年1月)に、酒井啓子さんと伊勢崎賢治さんによる巻頭対談「アフガン、イラクに国際政治は可能か」が載っている。
酒井啓子氏(東京外語大学教授)は私の尊敬するイラク政治研究の第一人者で、以前サンデープロジェクトでもスタジオに来ていただいた。伊勢崎氏は、東チモールアフガニスタンで紛争処理にあたり、武装解除などを行った平和構築の実践に携わった経歴を持つ。
ここで酒井さんが思い切った発言をしている。
アフガン問題の根っこには、タリバンを生み育てたパキスタンがあるとの認識を伊勢崎氏が示した後、酒井氏はこう言う。
《酒井:
歴史をさかのぼると、パキスタンが急速にイスラーム化したのは1977年のムハンマド・ジア=ウル=ハクの軍事クーデターからですよね。軍事政権が自己正当化をするためにイスラーム化を進め、宗教指導者を取り立てていきました。これがパキスタンの抱える長年の混乱であり矛盾の元です。でも、アメリカにとってパキスタンは反共政策の拠点でしたし、今は対テロ戦争の拠点ですから、軍政であろうとイスラーム化が進もうとアメリカは目をつぶってきたわけです。つまり30年以上にわたってずっと見て見ぬふりをしてきた問題なので、パキスタンの現政権が何をしようがどこまで本格的にできるのかはあやしい。というより、本格的にやったらパキスタンが壊れてしまいますからね》
《革命は造反有理ですから、武器を持って反対勢力を制圧して何が悪い、正義を掲げた革命なんだから、途中で止めるなと考えますよね。ここに国際社会が介入するのは、非常に極端な言い方をすれば、フランス革命が起こって混乱しているのを、まわりで必死に止めようとしている旧態依然とした対仏同盟のようにも見えるわけです。もちろん革命の過程で恐怖政治なり殺戮なりが起こることもありますが、そういった人道的な観点を脇に置いて考えれば、もしかしたら途中で止めないで飽和点まで行ったほうがいいのかもしれない
《酒井:
いま伊勢崎さんがやっている平和構築の考え方では、革命の過渡的な混乱は是としませんよね? 革命が落ち着くまで待って、ある程度の正統性を持った政権が生まれるのを期待するよりも、革命をどこかで止めて、おかしな方向にいかないようにまわりから一生懸命支えていく。
伊勢崎:
はい。レジーム・チェンジは平和構築ではありません。平和構築というのはそういう意味では反革命ですね。
酒井:
中東を見ていると、「我に理あり」と思って革命しようとしている人たちを力で止めようとしても止められないような気がします。だから中東ではまだ平和構築の話まで行かない。そこは本当にジレンマです》
イスラエルのもとでパレスチナが悲惨な状態にあって、パレスチナが「けしからん」と怒っているのを「止めろ」というのはやっぱり理不尽だと思いますから。あそこで「平和を」なんて言えない。平和を、と言っている間に圧倒的な軍事力でイスラエルが占領地を破壊していくわけですから》
日本人は「平和」が最高に素晴らしいと無前提に思っている。その枠組み自体も問い直す考え方である。