意見広告ふたたび!2

「核」と「拉致」のどちらが大事か?
こんな問題の立て方がしばしばみられた。
けれど、「北朝鮮問題」というものは、拉致、核、ミサイル、飢餓、脱北、偽札、覚醒剤政治犯収容所・・・個別の案件を一つ一つ解決していけばいいというものではないのだ。
根っこは一つ、北朝鮮の人権の問題なのだと訴えるのが、今度のニューヨークタイムズへの意見広告の趣旨である。その文案を紹介する。これは最終的にはきっと半分くらいに削られるだろうが、我々が考える「北朝鮮問題とは何か」を知っていただきたい。
私はかねてより、「北朝鮮は独裁ではない」と主張してきたが(http://d.hatena.ne.jp/takase22/20080128)、こんどアメリカの新聞に載せる予定の原稿でも、一度も「独裁」という言葉は登場しない。そのへんを汲み取って読んでいただきたい。http://www.jinken.asia/

《私たち日本人は、
拉致された同胞を奪還し、
北朝鮮の人権問題を解決するために、
オバマ大統領へ協同行動を求めます 》

バラク・オバマ大統領
アメリカの第44代大統領就任おめでとうございます。

あなたが世界の平和と人権の推進に真摯に取り組まれることを期待しつつ、東アジアに今なお深刻な人道に対する犯罪と人権侵害が続いていることをお伝えしたいと思い、この手紙を書いています。私たちは、あなたが、私たち日本人とともに、その解決に向け、具体的で効果的な方策を採られることを切望しています。

1977年、あなたより3歳年下の日本人少女、横田めぐみさんが拉致され、北朝鮮工作船で連れ去られました。バドミントンと読書が好きで誰からも愛された13歳の少女でした。家族は嘆き悲しみ、真相を知ることなくめぐみさんを探し続けてきました。

これが北朝鮮国家による犯行の可能性が高いと知られるようになったのは、1990年代後半のことでした。2002年に小泉純一郎元首相が北朝鮮を訪問したとき、金正日国防委員長は、めぐみさんたち13人の日本人を拉致したとようやく認めました。しかし、これは解決への道のりのほんの一歩にすぎませんでした。

北朝鮮当局は、13人のうち生存者は5人だけ(24、25年ぶりに帰国)で、ほかは全員が死亡したと日本側に伝えました。しかし、彼らが出してきた死亡の「証拠」なるものはことごとく虚偽でした。また各種の調査から、日本人拉致被害者は13人にとどまらないことが確実になっています。

真相究明を求める日本の政府と国民の要求に対し、北朝鮮当局は「拉致問題は解決済み」だとしてまったく応じない不誠実な対応を続けています。拉致被害者の親たちは高齢化し、子どもたちの帰国を待ちながら次々にこの世を去っています。一日も早く、被害者を取り返さなければなりません。

多くの日本人拉致被害者は、工作員が日本人に身分を偽装するための教育など、意に沿わぬ仕事をさせられつつ、いつの日か帰国が叶うことを夢見ながら、いまも幽閉されています。

北朝鮮当局は、朝鮮戦争時の韓国人捕虜を抑留し、炭鉱などで働かせる一方で、戦争後も漁民など、判明しているだけで500名の韓国人を拉致しています。私たち日本人が粘り強くこの問題を追求するなかで、北朝鮮による拉致は国際的な広がりを持つ問題になってきました。北朝鮮が日本や韓国からだけでなく、レバノンルーマニア、タイ、マカオ、香港など多くの国や地域の無辜の人々を拉致していたことが判明したからです。

アメリカも無関係ではありません。北朝鮮による拉致被害者家族は、あなたの故郷であるイリノイ州にもいます。米国の永住権を持つ金東植(キムドンシク)牧師は、2000年に中国東北部北朝鮮工作員に拉致され、北朝鮮に連行されました。中国で脱北者を救援するため献身的に活動している最中でした。以降、彼の消息は不明のままで、イリノイ州の住民で米国市民権を持つ妻子は心痛の日々をおくっています。この問題につき、あなたを含む超党派イリノイ州選出連邦議員団は、05年、北朝鮮国連大使宛に連名の手紙を出しました。その中であなたがたは、牧師を「力のない忘れられた人々の脱出を助けた英雄」と称え、「拉致されて以降のキム・ドンシク師の運命に関し、完全な説明がキム一家になされない限り、あなたの政府が国務省のテロ支援国リストからはずされることを支持することはありません」と書いています。

2006年の国連総会で採択された「強制失踪防止条約」では、拉致を含む強制失踪が「極度の重大性を持」ち「人道に対する犯罪」を構成すると規定しています。北朝鮮による拉致をやめさせ、被害者を即時解放させることは、国際社会に課せられた猶予できない責務です。

私たちは日本人同胞の解放だけを求めているのではありません。横田めぐみさんの母であり、敬虔なクリスチャンでもある早紀江さんは、06年訪米しブッシュ大統領と面会したさい、米下院公聴会で証言し、拉致問題を解決するだけでなく「ひどい人権侵害に苦しんでいる北朝鮮の人々も助けなければなりません」と訴えました。拉致という外国人への冷酷な仕打ちは、自国内で基本的人権がひどく侵害され、民衆が奴隷化されていることに根をもつものです。衛星写真で確認されている6か所の大規模な政治犯収容所には、20万人もの人々が、かつてのスターリン統治下の収容所(グラーク)をしのぐ劣悪な環境で死に直面しています。

北朝鮮当局は、度重なる国連総会の「北朝鮮人権状況決議」を無視し、事態を改善しようとしていません。この現実を前に私たちは、あらゆる適用可能な国際法にもとづく、より強制力のある措置が必要だと考えます。国際刑事裁判所ICC)の検察局は、2008年にダルフールの事態に関してスーダン大統領への逮捕状を請求しました。北朝鮮における政治犯収容所での殺人、拷問、虐待もまた、明らかな「人道に対する犯罪」であり、同裁判所がこれに対して明確な対応をするよう期待します。さらに私たちは、問題の緊急性にかんがみ、拉致被害者政治犯収容所の実態を調査するための国際的な「人権査察」を求めます。

やはりスターリン統治下と同様、北朝鮮の民衆は飢えています。90年代後半、人口2000万の北朝鮮で300万人が餓死したといわれますが、これは天災が原因ではありません。ちょうどその時期、北朝鮮の指導者は核兵器とミサイルの開発に巨額の費用と人材を投入していたのです。さらに恐怖政治のなかで、北朝鮮は偽札、麻薬、覚醒剤などを製造して日本を含む世界にばらまき、そこから得た資金を軍備拡張と金正日体制の維持に使っています。あの破産国家において核兵器開発を可能にしたのは、基本的人権の不在なのです。

北朝鮮は多くの難民を生んでいます。人々は自由と食べ物を求め、中朝国境の川を渡り、命がけで脱出しています。しかし、難民の悲劇はそこで終わりません。中国政府は、彼らを保護するどころか、逮捕しては北朝鮮に強制送還しているからです。密出国しただけで国家への反逆罪となる北朝鮮で、送還された難民を待っているのは死刑を含む厳しい処罰です。チベットやウィグルで人権を抑圧している中国政府による非人道的措置により、中国国内に10万人以上いるとされる北朝鮮難民は恐怖におののき続けています。

圧政から逃れてきた難民を助けるのは私たちの人道的責務です。アメリカは「北朝鮮人権法」で、難民の救援を規定し、すでに定住受け入れも開始しています。私たちはこれを喜ぶとともに、難民へのこうした配慮がさらに広がることを期待するものです。

私たちは民主主義、基本的人権北朝鮮に行き渡らせることが、拉致被害者を救出するだけでなく、北朝鮮の民衆への幸福をもたらすと信じます。そしてそれが、ひいてはテロ国家北朝鮮の近隣国と世界への脅威をなくす最良の道であるということも。いま世界に危機をもたらしている北朝鮮の核の脅威を真に取り除くには、基本的人権の光を北朝鮮に行き渡らせなくてはならないのです。

バラク・オバマ大統領

私たちは、人権のよき理解者であるあなた、そして民主主義を愛するアメリカ国民と手を携えて、あなたが2004年の民主党大会基調演説で語った「大いなる希望」を、人権問題の世界的課題へと広げ、実現していくものです。私たちは、アメリカをふくむ国際社会が北朝鮮の人権状況を改善するための努力を強めるよう要求します。北朝鮮を真の民主主義国に変える闘いにともに進んでいこうではありませんか。