所信表明演説への疑問

takase222010-06-13

どこを歩いても紫陽花を見る。もう梅雨も近いようだ。
月曜夜のNHK−BSでやっている「地球ドキュメント ミッション」という番組がある。貧困や格差、人権の抑圧、環境など、さまざまな課題解決に挑む人の壁をどう突破するのかをドキュメントとスタジオで考えていくという趣向で、二人の女性キャスターの顔触れがとても新鮮だ。
ひとりはサヘル・ローズさん。
彼女については、このブログでも何度か触れたが、イラン出身、想像を絶する辛い体験を経て、いま日本でタレント活動をしている。彼女が去年出した『戦場から女優へ』という本は、人間への信頼を呼び覚まして感動的だ。若い人たちお薦めだ。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20090609
スタジオでもいいコメントをして、安心して見ていられる。彼女にはどんどんメジャーになってほしい。そして、イランに愛情あふれる孤児院を作るという夢をかなえるよう祈っている。
番組のもう一人の女性キャスターは、ヒューマンライツウォッチ日本代表の土井香苗さん。
若いころから世界の紛争地に飛び込んで、人権擁護活動をしてきた人である。
先日、彼女自身の活動を番組で取り上げていた。
カメラがヒューマンライツウォッチの事務所に入っていく。と、入り口近くに、映画「クロッシング」のポスターが貼ってあった。
そう、ヒューマンライツウォッチ日本は、北朝鮮の人権問題をしっかり取り上げているのだ。今年の活動の重点は、チェチェン問題を抱えるロシアと北朝鮮だという。
これまで、某国際人権団体の日本支部が、北朝鮮による拉致問題を取上げることに躊躇う傾向があったことと対照的である。
弁護士で作家の木村晋介さんに聞いたところ、弁護士の団体で、北朝鮮による日本人拉致問題は、長くご法度だったという。決議を出すどころではなく、討論テーマにすることも難しかったそうだ。それを聞いて、「人権」をかかげる弁護士たちが、21世紀になってまで、古い左翼感覚でいるのかと驚いたものだ。
それが一昨年、変化を見せた。脱北者救援を行う「北朝鮮難民救援基金」が東京弁護士会人権賞を受賞したのだ。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20090112
菅直人首相は11日、所信表明演説で、拉致についてこう語った。
《拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的解決を図り、不幸な過去を清算し、国交正常化を追及します。拉致問題については、国の責任において、すべての拉致被害者の一刻も早い帰国に向けて全力を尽くします》
このくだりで不安を覚えた。なぜ、「拉致問題の解決なくして正常化なし」の一文がないのか。拉致問題を正常化の前提にすることは、国民運動と世論が圧力をかけて政府に認めさせた重要な成果だった。ここは譲れない一線のはずである。政府は大丈夫なのか。
せっかく、民間の人たちが事態を前に進めようとしているのに・・・。