脱北者を受け入れる意味9―ちょっといい話

脱北者の支援をしているNGOから聞いた、ちょっといい話がある。
日本に来た脱北者から、はじめて大学に進学する者が出そうだ。
全く日本語ができない状態から、大検を受け、さらに大学へと進むのだから、並大抵の苦労ではなかっただろう。ジャーナリストの石丸次郎氏の『サンデー毎日』の連載でも、以下のように紹介された。
《大阪に住む脱北者のハナさん(仮名、26)の大学進学が実現しそうなのだ。彼女は司法書士事務所に勤めながら高卒認定試験(大検)に昨年合格。まったく触れたことのない日本史や古文漢文に悪戦苦闘しながらも、独学で合格をかち取った。
学費も生活費もすべて自力で準備しなければならないため、負担の少ない大学を探していたところ、青山学院大学関西学院大学が、難民対象の推薦入試制度を設けていることを知る。国連難民高等弁務官事務所UNHCR)が試験をして選抜した難民の学生を、学費免除で受け入れる制度だ。ハナさんのような脱北者は、UNHCRによる正式の難民認定を受けているわけではないのだが、脱北者のほとんどは、難民認定申請をする機会すらなかったことが考慮されて、願書が受理された。競争率3倍の試験を突破したハナさんは、来春から関西学院大法学部に入学する運びとなった。》

私は、日本の大学に「難民枠」があるということを初めて知った。これをもってしても、脱北者は国連認定難民なみにみなされていることがわかる。
それからもう一つ、11月9日、脱北者同士の結婚式があった。脱北者が日本で知り合って結婚するというのも、多分初めてだろう。どんな二人かというと、これも石丸次郎さんの記事から;
《新郎のグンさん(仮名、25歳)は18歳だった7年前、母とともに鴨緑江を渡って中国に脱北した。母は60年代に大阪から北朝鮮に帰国した元在日朝鮮人である。2人は一度逮捕されて北朝鮮に強制送還されるが再び脱北、中国で潜伏生活の後に3年前に日本入りした。新婦のリョンさん(仮名)は、祖母が在日朝鮮人の夫について北朝鮮に渡った日本人妻で、昨年2月に日本入りをしたばかりの21歳だ。
閉ざされた北朝鮮とはまったく別世界の日本に来て、2人にはさぞかし戸惑いが多かったと思うのだが、日本社会への適応は早かった。今では不自由なく日本語を操るようになり、新郎は韓国食品を扱う貿易会社のバリバリの営業マン、新婦はブティックの店員として働いている。》

この結婚式については、「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」機関誌『かるめぎ』82号《特集:がんばる脱北帰国者》に写真入りで紹介されている。http://hrnk.trycomp.net/karumegi.php?eid=00064
新しい人生をここ日本で切り拓こうとする脱北者たち。こういう人たちを知ると、しっかりした受け入れ態勢を整えることで、彼らの願いにこたえたいと思う。
また、「こんな国に生まれなければよかった」などと簡単に言う日本の若者たちに、「日本に住みたい」という一心で、命をかけて国境の川を渡る人たちがいることも知ってもらいたいと思う。
(とりあえず、おわり)