脱北者を受け入れる意味5―日本との縁か難民か

日本に定住を希望する脱北者に必要な措置を考えるとき、まず私は、拉致被害者と中国残留邦人を思い浮かべる。
拉致被害者支援法」(北朝鮮当局によって拉致された被害者等の支援に関する法律、03年施行)という法律がある。http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H14/H14HO143.html
《国は、帰国被害者等が本邦に永住する場合には、(略)これらの者の自立を促進し、生活基盤の再建又は構築に資するため、拉致被害者等給付金を、五年を限度として、毎月、支給する。》(第五条)
《国及び地方公共団体は、帰国被害者等が日常生活又は社会生活を円滑に営むことができるようにするため、これらの者の相談に応じ必要な助言を行うこと、日本語の習得を援助すること等必要な施策を講ずるものとする。》(第六条)
《国及び地方公共団体は、帰国被害者等の居住の安定を図るため、公営住宅等の供給の促進のために必要な施策を講ずるものとする。》(第七条)
《国及び地方公共団体は、帰国被害者等の雇用の機会の確保を図るため、職業訓練の実施、就職のあっせん等必要な施策を講ずるものとする。》(第八条)
《国及び地方公共団体は、帰国被害者等が必要な教育を受けることができるようにするため、就学の円滑化、教育の充実等のために必要な施策を講ずるものとする。》(第九条)
その他、NGOが脱北者受け入れで要求している項目がだいたい網羅されている。「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」(三浦代表)などNGOは、以下のように受け入れ制度を作るよう提言している。
http://hrnk.trycomp.net/news.php?eid=00058

日本は家族を入れて2万人超の中国残留邦人の永住帰国を受け入れた。形としては、受け入れ体制はあったのだが、それがあまりにも不十分だと不満が爆発、いま各地で残留邦人たちが政府を相手取って裁判を起こしている。
この結果だろう、「帰国者支援法」が改正され、今年から国民年金満額支給などの新たな支援策が取られることになった。http://www.mhlw.go.jp/bunya/engo/seido02/index.html
中国残留邦人は国策の犠牲者なのだから、拉致被害者と同等の配慮をすべきだという考え方がある。満蒙開拓団は、国策で大陸に送られた存在だったし、ソ連が攻め入って来たときの「棄民」として放り出された事情などを考えると、この考え方には説得力を感じる。
ただ、非常に不十分ではあっても、残留邦人には国の受け入れ体制が存在した。脱北者には全くない。日本の空港に降り立ったときから、自己責任である。面倒を見るという親戚などほとんどいないから、NGOがその日の宿と食事からアパート入居など生活のスタートを世話することになる。
「初期費用だけで50万円はかかりますね」とNGOスタッフは言う。どこもお金も人材もない小さな団体で、パンク状態だ。
「壮大な拉致」としての帰還事業で北朝鮮に渡った「帰国者」には、中国残留邦人と似た要素がある。
とくに、7000人近い日本国籍者とその子弟は、「邦人保護」の対象とみることができる。邦人が、全体主義の異国で、人権を激しく侵害されているのである。
「世界人権宣言」をあらためて読むと、北朝鮮の体制はこのすべての条項に完全に違反していることに気づく。http://www.mofa.go.jp/Mofaj/Gaiko/udhr/1b_001.html
在日朝鮮人帰国者の故郷は日本だ。飲めば「帰国者」たちが歌うのは、美空ひばりであり、思い出すのは幼馴染の日本の友だちである。脱北して韓国に住んでいる「帰国者」と話したことがあるが、「本当は日本に帰りたかった」と言っていた。
日本がこういう人を受け入れないでどうする。
では、日本とゆかりのない脱北者の場合はどう考えればよいのか。これについては、いろんな立場がある。NGOの姿勢も異なっている。
脱北者の保護、支援をやっている主なNGOとしては以下がある。
北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会http://hrnk.trycomp.net/
「脱北帰国者支援機構」http://www.kikokusyashien.com/003.html
北朝鮮難民救援基金http://www.asahi-net.or.jp/~fe6h-ktu/toppage.htm
「RENK−救え!北朝鮮の民衆/緊急行動ネットワーク」http://www.bekkoame.ne.jp/ro/renk/
前の二団体が対象にするのは「帰国者」と日本国籍者であり、後者二団体は、「帰国者」以外の脱北者も含む。
北朝鮮人権法」では、保護、支援すべき対象は、驚くことに、日本に縁のあるなしにかかわらず「脱北者」一般なのだ。これは日本が非常に遅れている難民支援につながる考え方である。
(つづく)