チベットの事態で、アメリカの俳優リチャード・ギアが吼えている。
BBCラジオに対して《「中国が適切な対応をせず、これまでのやり方を改めず、事態を認識せず、情報への自由なアクセスを認めないなら、われわれは断固として五輪をボイコットしなければならないと思う」と述べた。また、「われわれが、あたかも万事順調で誰もが幸せだなどという態度を取り続けるなら、それは非良心的だ」とも語った。0315〔AFP=時事〕》
ギアは、14日のCNNニュースにも出て、スタジオと掛け合いでこんな話をしている。(写真)
《60年近くチベット人はずっと抑圧され続けてきた。チベット人がいくら平和的な人々でも、残酷な抑圧が続けば「爆発」する。ダライラマ法王はノーベル平和賞受賞者であり、国民にも非暴力を訴えている。平和的なデモを暴力的に弾圧するのは許されない。中国が世界列強(ワールドパワー)になろうとするなら、こんなやり方はやめるべきだ》
ギアによれば、アメリカ大統領の有力候補は民主・共和両党とも、みなチベット問題に大きな関心を持っているという。
《オバマは私に直接、「チベット人の気持ちはよく理解できる」と言った。ジョン(マケイン)もはっきりダライ・ラマを支持している》
ギアほどになると、有力政治家に直に働きかけられるのだ。この影響力はすごい。日本に、時事問題にきちんと態度表明をして政治家にも働きかけるスターはいないのか。
何年も前から、「オリンピックを利用して中国をもっと民主的な方向に舵を切らせる」という「戦略」が期待を持って語られたが、効果がでていない。逆に、この間の中国の膨張、経済大国化によって、主要国はいま、涎をたらしながら中国に擦り寄るばかりだ。英国ではオリンピック選手に、中国を刺激しないという誓約までさせようとした。前代未聞のことである。
《英オリンピック委員会(BOA)が、北京五輪の代表選手に「人権問題など政治的発言は慎む」との契約書に署名を求めるという方針を、批判を受けて即座に撤回した。人権団体、「フリー・チベット・キャンペーン」(本部・ロンドン)のアン・ホームズ代表代行は産経新聞と会見、「BOAの当初方針は恥ずべきことだが、批判しないことが対中ビジネスの対価なのだから驚かない。人権問題に関し発言の自由が認められない現状は不名誉な限り」と語った。産経(ロンドン 木村正人)2月24日》
一方、チベット問題に大きな関心を持つ英国のチャールズ皇太子は、北京オリンピック開会式に参加しないことを明らかにした。新聞の投書欄では、政府より皇太子の態度に多くの支持が寄せられているという。
日本の新聞社説は、産経が「従来の民族政策を胡政権は根本的に見直すべきだ」とストレートに中国の政策を批判したほかは、ほとんどが五輪成功を祈りながら「中国のためを思って申し上げます」というスタンスだ。
朝日は『流血の拡大を止めよ』で「手荒な対応はかえって中国の評判を落とすだけだ」・・
東京は『対話の道を閉ざすな』で「対話の進展は中国の名誉回復と五輪成功に役立つ」・・
毎日は『北京五輪にダライ・ラマ招け』と変化球で「北京五輪を、災いを転じて福とする機会にすべきだ」・・
日経は『天安門事件を連想させるチベット情勢』で、「中国はいまや世界経済のけん引役で、国際的に孤立するようだと影響は大きい。人権への配慮を欠いた中国当局の高圧的な対応を憂慮する」と書く。こっちが困るからやめてくれという、正直な企業家の意見であろう。
しかし、とにかく平穏になればそれでよいのだろうか。民族抑圧をやめさせるには、何らかの「決着」が必要だ。それなしには、「不穏な情勢」が一時的に抑えこまれても「問題」は残ったままだ。
ダライ・ラマは、独立を求めない、北京オリンピックの成功を祈ると穏健な発言を繰り返しているが、チベット人コミュニティでは、これに対する不満が噴出している。
《インドに亡命しているチベット人民間活動団体(NGO)5団体の代表者が17日、ダラムサラで記者会見し、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世が北京五輪開催を支持していることに「失望している」と明言し、ダライ・ラマが唱える中国との対話路線についても「修正が望ましい」との考えを示した。(読売0318)ダラムサラ(インド北部)=永田和男》
「人権」を犠牲にした「平和」では意味がない。チベットで「手荒な対応」がなくなればすむという話ではない。