サンフランシスコでの聖火リレーは、もう「醜態」としか形容できない。
予定ルートを突如変更し、さらにバスに乗せて聖火を運んだ。「裏道を隠れて聖火リレーして、何の意味があるの?」市民のこの一言につきる。いまや聖火が象徴するのはメンツだけだ。
聖火リレーを「成功」させようと中国がやっきになるほど、チベット問題がますますアピールされてくる。こういうのを悪循環という。
アメリカ下院は9日の本会議で、チベットでの中国政府の弾圧を厳しく批判するとともに、中国政府とダライ・ラマ14世との対話などを求める決議を、413対1という圧倒的多数で採択した。
きのう10日、欧州議会は、中国政府がダライ・ラマ14世との対話を開始しない限り、五輪開会式をボイコットするようEU各国首脳によびかける決議を採択した。著名人の聖火リレー不参加も出始めた。
聖火の周りに、中国が派遣した防衛隊が10人も走り、抗議する市民をけちらすなどという主権侵害をよくヨーロッパの国が許すものだと首をかしげていたが、やはり世論は厳しかった。
同日、福田首相は、「世界中が楽しむべき聖火リレーですから、暴力ざたは好ましくないですね」と一言。そもそも、なぜ妨害行為が起きているのか?政治家がそれに触れなくていいのか。
一方、オーストラリア首相は、北京大学で講演し、流暢な北京語で、五輪ボイコットには反対するとしながらも、チベットは「重大な人権問題」だと指摘した。招待された国に行っても、最低限のことはきちんと言っている。
聖火リレーをめぐる事態は、日本人にチベット問題の存在を知らしめる結果となった。日本の大マスコミは中国への遠慮で、チベット問題を正面から扱ってこなかったが、今回ようやく報じるようになったからだ。
きのう成田ではアメリカへの旅の途中に立ち寄ったダライ・ラマが記者会見。その様子がテレビニュースで流れた。これまで、彼の音声つきの映像は日本ではあまり流れていなかったから、ダライ・ラマの肉声をはじめて聞いた視聴者も多かっただろう。そして、ほとんどの人は驚いたと思う。
一つには法王の主張に。「中国はオリンピックを開催するにふさわしい国だ」「聖火リレーを暴力で妨害してはならない」「チベット独立は求めていない、自治を要求しているだけだ」・・・。拍子抜けするほど穏健な主張だ。
もう一つは法王の人柄、態度に。法王の気さくさは、日本人の目には「はしゃぎすぎ」と映りかねないほどだから。
会見会場に入ってきた法王に、一斉に浴びせられるカメラのフラッシュ。まぶしそうに「フラッシュはやめてください」と手を上げて制する法王。フラッシュがやんだ。すると法王、にやっと笑って「皆さんの顔を見たいからね」と言って会場を沸かせた。
また、頭の両側に指で角を立てて、「中国は私を《悪魔》だと言いますが、そうですか。みなさんが判断してください」と言って、ヒャーッハッハッハ!と大笑いした。翌朝、指で角を立てる法王の写真を一面トップで載せた新聞もあった。
これじゃ、ただの《変なおじさん》じゃないか。
(明日に続く)