警察という組織に対する私のイメージを変えたのは「裏金」だった。
04年に講談社文庫から出た北海道新聞取材班『追及・北海道「裏金」疑惑』を読んでおどろいた。警察では国と都道府県から下りてくる捜査費、捜査用報償費、旅費などがいったん全額「裏金」となり、そのうえで辻褄あわせの領収書など出金証明書のでっちあげを行なっていたというのだ。
電話帳などで勝手に人名を選び出して、警察から協力費を受け取ったという受領証の「捏造」もしていた。受領証を書いたとされる人を実際に調べると、みなお金の授受の事実を否定し、電話帳の記載が古かったのかとっくに亡くなった人だったりもしたという。
多くの警官も偽の書類作りに協力させられ、辻褄あわせを担当する係りに預けてある印鑑が勝手に使われ、白紙の受領証に署名をさせられたという。会計監査も裏金システムを前提におてもりで行なわれる。これが50年代から延々と、全国の警察で恒常的に行なわれていたというのだから、驚き、また怒りもわいてくる。警察の経費は国民のお金である。
警察の裏金問題は、03年に内部資料がテレビ局と共産党に流れてはじまった。火をつけたのは同年11月23日のテレビ朝日の「ザ・スクープ」。道新はその直後から動き出し、03年11月から600本以上の記事を載せた。本を読んで、警察の闇の深さに慄然とするとともに、タブーとされてきた問題に切り込んだ記者たちのすさまじい執念に圧倒された。日本のジャーナリズムも捨てたものではないことを示す立派な業績だ。
道新のこの調査報道は、04年の日本新聞協会賞(編集部門)、日本ジャーナリスト会議(JCJ)大賞、菊池寛賞、新聞労連ジャーナリスト大賞を総なめにした。
実は、長崎県警の大宅さんも、裏金の偽領収書づくりのためのカラ出張の報告をさせられていた。しかも、あのやらせ摘発にからんでである。大宅さんは、拳銃摘発の捜査で名古屋や大阪に5回出張したことにするよう上司に指示された。その際、会計検査があったときのための口裏合わせのため、カラ出張した同僚の名前、新幹線の発着時刻、宿泊したホテル、入った喫茶店、それぞれの金額などを上司のいうままに細かく書き取っていた。そのときのメモが今回の取材で出てきた。メモの末尾には「会計検査員から質問されたらこのように答えること」とはっきり書かれている。動かぬ証拠である。
では裏金はどう使われるのか。
捜査のための経費は捜査の現場に回っていかない。これが大問題である。大宅さんは、「捜査は自腹ですよ。家内にも苦労かけました」と当たり前のように言う。それが常態化していたのだ。
証言によれば、幹部の宴会などの飲み食いや遊興費、そして大きいのが「餞別」だという。特に本部長など大幹部になると転出のさい、数千万円もの「餞別」が贈られるという。
元北海道釧路方面本部長の原田宏二さんは、03年、裏金疑惑が表面化したさい、裏金の存在を暴露した。北海道は四つの「方面」からなり、その本部長は県警本部長と同格とされる。まさに大幹部である。
私たちは、今回の特集取材で、原田さんにジャーナリストの大谷昭宏さんと対談してもらった。
(続く)