ベルリンと北京−その2

きのうのベルリン五輪の記事、最後がすごい。
駐独大使の息子としてドイツに滞在していた武者小路公秀(きんひで)氏(大阪経済法科大学)の、「ナチス礼賛やユダヤ人差別は、幼いなりに疑問だった。ドイツも日本も急激に戦争の流れにのみ込まれていった違和感を忘れられない」という言葉で終わるのだ。
この人、チュチェ思想国際研究所の理事までしている親北朝鮮人士である。
北朝鮮政治犯収容所は、ナチスの収容所をその苛烈さでしのぐ。それを支配の核とする全体主義国家、北朝鮮を礼賛する人が、ナチスを批判するというのだから、ブラックジョークそのもの。ちょっと寒気さえ覚える。
かつて、オウム真理教について発言してマスコミにバッシングされ、社会的に葬り去られた学者がいたが、チュチェ思想礼賛者は今でも大新聞に堂々と登場できるということらしい。
奇しくも、きのうの同じ朝日新聞の国際面に、中国の深刻な人権状況を憂える記事が載っている。「迫る五輪 増す抑圧―『人権』主張は国家転覆扇動罪」という北京、坂尻信義記者の記事だ。
オリンピックが近づけば中国も開かれた国になるだろう、などという甘い観測とは逆に、五輪が迫るにつれ人権弾圧がどんどん激しくなっているというのだ。
中国政府は五輪誘致にあたって「人権状況を改善する」と国際的に約束した。ところが、人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、国家政権転覆扇動罪が拡大解釈され、同容疑を名目にした逮捕が06年から07年にかけて2割増加したという。特に坂尻記者は「北京五輪開催で国際社会の注目が集ることを人権状況の改善につなげようとする取り組みへの弾圧」を問題視している。黒竜江省では「五輪より人権を」と署名集めしたら逮捕されたという。
「経済」発展は自動的には「人権」改善に結びつかないことを示す、よい例だ。もちろん私は、北朝鮮に経済発展させれば人権弾圧しなくなるなどと言う議論を念頭においてこう書いている。いや、中国の経済発展は、逆に困った事態さえ生んでいる。大市場となった中国には、主要先進国が遠慮して、人権で厳しい注文をつけにくくなっているからだ。
記事は、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア部長の「国際社会が北京五輪に絡んだ弾圧に沈黙すれば、その弾圧に青信号を出したのと等しい」という正論で結んでいる。
ちなみに、これを書いた坂尻記者は、国際報道で優れた業績を挙げたジャーナリストに贈られる「ボーン・上田記念国際記者賞」の06年度の受賞者だ。私は05年はじめ、彼がワシントン特派員のとき現地で名刺交換したことがあり、記事に出た名前を懐かしく見た。
これからの中国の人権状況に注目したい。