NTVのニュースゼロで弊社制作の「認知症」の特集が予定されていて準備していたら、午後おそく、北朝鮮が韓国の延坪島(ヨンピョンド)に砲撃したとのニュースが入る。結局特集は「とび」に。
韓国は自制するはずなので、すぐには事態がどんどん拡大するとは考えにくいが、いつもどおり、これは米国への「ラブコール」だとするものから、はては沖縄県知事選で米国を有利にする工作だとするものまで、実にさまざまな解釈が出ている。
少なくとも言えるのは、これは偶発的な事件ではないこと、また海上境界線がどうしたという局地的なものでもなく、中央からの指示に基づいた攻撃だということだ。
北朝鮮は3月に韓国の海軍哨戒艦を撃沈。先日、ウラン濃縮施設を初めてヘッカー・元ロスアラモス国立研究所長に見せ、世界にプルトニウム型だけではなくウラン型原爆も開発できるぞとメッセージを送った。
きょうの砲撃は、この一連の流れにあると思う。
挑発をしてくるのは、アメリカに「こっちを振り向いて」という「ラブコール」だという表現は誤解を招く。
年表を見ると、北朝鮮は、激しい挑発行為のあとでアメリカや韓国から妥協を引き出している。いわゆる「瀬戸際政策」を北朝鮮が採り続けるのは、この実績と教訓からである。北朝鮮は何も変わっていない。
ただ、このところの挑発の程度は、以前よりもずっと高くなっている。
後継体制の移行期という要因はありうるが、全体としては、体制危機が進行していると解釈できると思う。体制内部での緊張が高まっている可能性が高い。
「ベルリンの壁」崩壊を誰もが予測できなかったように、北朝鮮のような全体主義体制の崩壊はいつ、どのような形で起きるか分からない。
日本の政治家は、もう政局の泥沼で遊んでいる場合ではない。朝鮮半島がいざとなったときの備えをしっかりとしておいてほしい。
ちなみに以下は時事が伝える識者の見方;
《重村智計早大教授の話:朝鮮半島危機の雰囲気を醸成して米国と直接交渉したいとの狙いだ。食料、経済事情が悪く、追い詰められている北朝鮮は、米国と直接交渉して制裁解除や支援を得たい。そのために、軽水炉やウラン濃縮施設を公開して核危機を演出したが、日米韓が応じないので、危機のレベルを高めざるを得なくなったのだろう。
韓国軍を脅す目的で、海上に向けて撃ったつもりが島に砲弾が届いて被害が出てしまった可能性もある。そうだとしても砲撃自体が休戦協定違反ということは認識しているはずで、意図的と言える。あくまで日米韓が対話に乗ってこなければ、北朝鮮は今後、核実験に踏み切るしかなくなるかもしれない。
ただ、米国もこのまま事態が進展しなければ、北朝鮮と接触し、北朝鮮の意図を確認するとともに、核放棄した場合の制裁解除や支援、国交正常化への道筋などを示さざるを得なくなるのではないか。一方で、韓国が態度を硬化させるのは間違いない。中国も北朝鮮をコントロールできていないことが明らかになり、メンツ丸つぶれだ。来春ぐらいまでは6カ国協議の再開は難しいだろう。
伊豆見元・静岡県立大教授の話:今回の南北朝鮮の砲撃戦が一線を越え、本格的な軍事衝突に拡大する可能性は当面ないと思う。北朝鮮の攻撃は波状的ではなく、韓国側も抑制的に対応している。
ただし北朝鮮が砲撃をした真意については、同国の公式発言があるまでは予断を許さない。というのは、25日に韓国で予定されていた南北赤十字会談で北朝鮮は、同国が要求していたコメと肥料に対する回答を得るはずだったからだ。
また、砲撃戦を最近のウラン濃縮問題と結び付けて考えるべきではない。北朝鮮は米国を2国間協議に引きずり出すことが最大の目的だから、今回の動きは矛盾する。いずれにしても日米韓は事態のエスカレーションの回避を最優先させなくてはならない。
李英和・関西大教授(北朝鮮専門)の話:今回の砲撃は、北朝鮮軍部の「内輪もめ」が第1の原因だ。9月の労働党代表者会で李英鎬軍総参謀長が異例の昇進をしたことに対して、軍部内で不満と反発が相当高まっている。これらを抑え込み、軍の統制を引き締めるために同総参謀長が韓国との緊張感を演出したのだろう。
北朝鮮側には、ソウルを砲撃する意図もその能力もない。韓国の情報機関も「北朝鮮内部の問題」という見方を取っており、比較的冷静に受け止めているようだ。
第2の原因として、韓国内の親北勢力を刺激する狙いがある。親北勢力は現在、北朝鮮の3代世襲に対する批判が高まる中で沈黙している。戦争の危機をあおり、北朝鮮との対話や支援への機運を再び高め、同勢力に李明博政権への圧力を強めさせる戦略だろう》