インサイダー疑惑と記者の「報酬」

NHK記者のインサイダー疑惑が問題になっている。
NHKは昨年3月8日午後3時のニュースで、牛丼チェーン「すき家」などを展開するゼンショーが、回転ずしチェーンのカッパ・クリエイトをグループ化するというスクープを報道。疑惑の記者たちは、放送直前にシステム端末で原稿を閲覧すると、ネット取引でカッパ株を購入した。カッパ株は8日の取引で1720円で取引を終えたが、ニュース放送直後にゼンショーがグループ化を公表。翌9日には、同株は一時1890円まで上昇した。記者たちはカッパ株を翌日に売却したことを認めているという。原稿は放送22分前の同日午後2時38分から報道関連の職員なら誰でも閲覧可能だった。記者たちは、金融商品取引法(旧証券取引法)違反のインサイダー取引の疑いで、証券取引等監視委員会の任意調査を受けた。(読売新聞より)
法律がうんぬんという前に、取材で得た情報で私利に走ったのでは、記者という職業が信頼されなくなる。
この事件につらい思いをしたのが池上彰さん。かつてのNHK「週刊こどもニュース」の編集長だ。きのうの朝日新聞夕刊の連載コラム「新聞ななめ読み」で、後輩の不祥事を嘆いている。自分たちの戒めにもなるので、ここに紹介したい。
池上さんはここで、「仕事の報酬とは何か」について論じている。記者という仕事は、労働の対価としての給料だけではない報酬を受け取っているという。
《世の中のためになる仕事をして、多くの人たちから感謝される。これも「仕事の報酬」です。
 記者の場合、取材して、他の多くの人が知らない情報をニュースとして伝える。このワクワク感、これだけで「仕事の報酬」を十分受けているはずなのです。
 記者が書いた原稿で政治や行政、社会が動き、世の中がよくなっていく。記者冥利に尽きるではありませんか。これが「仕事の報酬」です。給料をもらった上に、この「報酬」まで受け取れれば、他に何を望む必要があるのでしょうか》
このもう一つの「報酬」を「仕事のやりがい」とも呼ぶのだと池上さんは言う。
私たちが迷ったとき帰るべき「初心」も、ここにある。