痛風との闘い

9月18日―ニューヨークで取材。ボストンに移動。

きのうは持病との格闘の一日だった。
午前2時過ぎに寝たのに6時前に目が覚めた。足に痛みがある。嫌な予感に跳ね起きて見ると、左足の親指の付け根が赤くはれて熱をもっている。
痛風の発作だ。
これから会社に行って準備をして午後4時には成田から飛行機に乗らなくてはならないのに、まずいことになった。発作がひどくなると歩くことも困難になる。
痛風とは、尿酸が体の端っこの関節にたまって炎症を起こす発作だ。尿酸は名前どおり、もっぱら尿から排出される。だから汗をかいて尿量が減る夏場は要注意だった。原因は体質が大きいとされるが、ストレスも関係しているらしい。患者のほとんどが男性だという。
最初に痛風の発作が起きたのは、10年ほど前、カンボジアで「よど号」ハイジャック犯が偽ドルに関係して捕まった「スーパーK」事件の取材をした後だった。バンコクに出て、打ち上げで臓物料理をつつきながらビールをたくさん飲んだ。後で知ったが、臓物にもビールにも、尿酸になるプリン体がたっぷり含まれていたのだった。激しい運動の後は特に要注意らしく、ゴルフの後ビールを飲んだ人がよく発作を起こすそうだ。私もそのとき、プノンペンの炎天下の取材で疲労困憊していた。
バンコクを夜発つ飛行機に乗ってから、機内で右の手首がしくしく痛くなった。痛みは少しづつ強くなり、成田に着いたころは熱を持ってジンジンという強い痛みになっていた。思わずうなり声が出るほど痛い。もう我慢できないと病院に行った。受付で名前を書こうにも痛くて鉛筆が持てず、ぶざまだが左手で書くしかなかった。手を下げると血液が降りて痛みが増すので、2〜3日右手を吊っていた記憶がある。
テレビ取材の出張では、カメラのほか、照明器具、三脚、バッテリーと充電器、各種マイクやケーブルなど大量の荷物と共に移動する。ビデオテープだけで20キロになることも珍しくない。これを今回はカメラマンのK君と二人で運びながら、空港では税関や超過重量の手続きなどをこなさなくてはならない。今回はシカゴで別便に荷物を乗せかえる作業もある。通風がこれ以上悪化したら大変だ。
17日は敬老の日で祝日だ。やっている医者がいたとしても、もう時間がない。こうなったら自力で発作を封じ込めるしかない。
水分をたくさん摂って尿量を増やすことに集中する。そしてもう一つ大事なのは、尿をアルカリ性にして尿酸が溶けやすくすることだ。本には、尿をアルカリ化するためには、重曹のほか、酢や果物など酸性のものを摂るとよいと書いてある。
私はかつて、リトマス試験紙をたくさん買ってきて、1ヶ月ほど、排尿するごとにアルカリ度を測定したことがある。身近にあるものでは、梅干や柑橘系ジュースなどがよいことは確認できた。
ちなみに測定期間中、効果抜群のものをたまたま発見した。食べすぎでキャベジンを飲んだところ、次の排尿時に強いアルカリ性が出たのだ。調べると、キャベジンの主成分は「炭酸水素ナトリウム」つまり重曹だった。
さて、善は急げ。適当な痛み止めがないので、とりあえずバンテリンを患部に塗る。台所に駆け込み、冷蔵庫を開けるとアセロラジュースがあったのでまずこれを飲み、次に梅干を口に含んで大量の水を飲む。
会社で出張の準備をするあいだも水をがぶ飲みする。飛行機の中では、オレンジジュースと水を、キャビンアテンダントにかわりばんこに「おかわり」してはトイレに行くというのを繰り返す。ひっきりなしにトイレに立つので、通路側の席でよかった。酒は尿酸の排泄を妨げるから我慢するしかない。
おそらく、一日で5〜6リットルは水分を摂っただろう。おかげで、会社に行くときにはビッコを引いていたのが、アメリカに着いたときは、痛みがほとんど消えていた。
自力で発作を抑え込むのに成功した。万歳!