グレートジャーニーをやり遂げた私たちの課題

 26日の夜、スーパームーン皆既月食は雲がかかって見えなかった。残念。
 私たちが「宇宙人」であることを自覚できるいい機会だったのに。

 久しぶりに晴れたので自転車で街歩き。
 空き地が野草の花盛りだ。

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アザミ

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オオキンケイギク

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ホタルブクロ

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 きのうの「風人塾」トークイベント《気づきの宇宙史138億年》で第5回「人類のはるかな旅、グレートジャーニー」を話した。

 ヒトが生まれてから現在までを俯瞰してみると、我々とは何なのかを考えさせられる。話の一部を紹介してみたい。

 

 人類がチンパンジーとの共通祖先から分かれたのがおおよそ700万年前とされる。

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類人猿の系統樹(山極寿一氏)


 その後、猿人、原人、旧人などと呼ばれる、さまざまなヒトの種が登場しては消えていった。いま確認されているだけで20数種、まだ見つかっていないのを入れると、アフリカ大陸に100種くらいのヒトが生まれたのではないかと言われている。

 1978年、タンザニアの火山灰の中から350万年前のヒトの足跡が発見された。はっきり直立二足歩行していることがわかる。

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 探検家の関野吉晴さんは、チリの最南端から逆にグレートジャーニーをたどってフジテレビで『グレートジャーニー』のシリーズとして放送された。人類発祥の地がゴールとなるが、関野さんがゴールしたのが、ヒトの二足歩行が確認されたこのタンザニア・ラエトリの遺跡だった。

 この足跡は、アファール猿人のものだとされる。脳の容積は400~500立法センチと小さく、ホモ・サピエンス(1350立法センチ)の3分の1ほどで、チンパンジー(400立法センチ)に近い。まず二足歩行が先で、脳の容量はその後長い時間をかけて大きくなっていったことがわかった。

 直立二足歩行で何が違ってくるのか。
 手で棒などを握ってものを破壊したり敵と戦ったりするためだとの説もかつてあり、それは映画『2001年宇宙の旅』に反映されている。他のサル集団に水場を奪われたサルたちが、突然現れた黒い石板に触れたところ、表情にある変化がおきる。そのサルたちは、動物の太い骨を手にして水場を奪われた集団に闘いを挑み勝利する。雄たけびとともにサルが骨を空高く放り投げると、それは宇宙船へと変わってヨハンシュトラウスのワルツが流れる。終盤の印象的なシーンだ。

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2001年宇宙の旅」の1シーン

 しかし今は、二足歩行で空いた手は、仲間や家族に食物を運ぶのに使われたという説が有力になっている。

 これと関連するのだが、二足歩行以外のチンパンジーとヒトの違いに犬歯の大きさがある。

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 チンパンジーのオスは犬歯=牙がとても大きい。オスだけである。これはメスをめぐるオス同士の戦いが熾烈なためで、その結果、相手を殺すこともあるという。

 ヒトは、群れのなかがさほど敵対的にならずにすみ、大きなキバはいらなくなったと解釈できる。家族へと食べ物を手にかかえていそいそと帰っていくヒトのオスの姿を想像すると、ちょっと微笑ましい。

 サルはメスの授乳期間が長く、その間は発情しないので、数少ない発情中のメスをめぐるオスの競争が激しくなる。それに対してヒトのメスは授乳中でも性交可能で、いわば常時発情中なのである。これがオス同士の軋轢の程度が大きく異なるベースになっている。

 ホモ・サピエンス(正確にはホモ・サピエンス・サピエンス)=現生人類の化石は、エチオピアの約19万5000年前の遺跡から出土したのが最古とされてきたが、2017年にロッコで30万年前のホモ・サピエンスの人骨が見つかったという発表があった。

 それまではホモ・サピエンスの骨は、アフリカの東部と南部でしか出ていなかったが、モロッコといえばアフリカ大陸の北西のはずれ。ホモ・サピエンスはアフリカ全土に広まっていたようだ。

 ホモ・サピエンスの一部が、アフリカからアラビア半島に最初に出たのは10万年前ごろと言われている。そこから地球の隅々にまで広がっていった子孫が私たちだ。

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ホモ・サピエンス=新人がアフリカから出る直前、ユーラシアには少なくとも3種のヒトがいた

 この遥かな旅、グレートジャーニーを世界地図でみると、感慨深い。

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 かなりの速さで東南アジアへ。オーストラリアには早くも6万5千年前に到達したとされる。アフリカからアラビア半島に出てからわずか3万5千年だ。

 ヨーロッパに向かったグループはクロマニヨン人と呼ばれるようになる。別の移動の波はシベリアからベーリング海峡をわたってアメリカ大陸を縦断、チリの南端まで到達する。 

 苦しいこともたくさんあったろうし、怪我や病気、飢餓で移動中に命を落したものも多かったろう。よくもまあ、これほど移動をつづけたものだ。
 どうしてこんなに移動を続けたのか。これについては大きく二つの考え方があるようだ。

 一つは「あの山の向こうに何が待っているだろう」と進取の精神、あくなき開拓心で旅に出たというもの。もう一つは、コミュニティからはじき出されたり、食いっぱぐれたりして、もとの場所にいられなくなったという説。関野さんは後者で、むかし農家の次男、三男が家を出ていかざるをえなかったこととダブらせている。強いられた移住説た。

 先ほどの地図にあるように、アフリカを出たヒトはホモ・サピエンスが最初ではない。ずっと前に、人類のいくつかの種はユーラシア大陸に広がった。北京原人ジャワ原人、ネアンデルダール人などがそうだ。
 ただ、オセアニアアメリカ大陸にまで渡ったのは、ヒトの仲間のなかでホモ・サピエンスだけ。我々の祖先は、南極以外の全大陸に住みついた。そして、最終的にいま地球で生き残ったている人類は我々だけだ。

 ホモ・サピエンスだけが生きのこることができたのはなぜか。

 そこに私たちの生物としての特質がかかわっているのではないか。
(つづく)

 

氷河期に近づく地球

 コロナ・ワクチン摂取の「無料クーポン券」が私にも届いた。

 夜、ネットで予約しようとしたら、私の知っているクリニックはみな6月いっぱいまですでに予約済み。7月の早い日時をと選んでいるうちに、どんどん予約不可のバツ印に変わっていく。
 私と同じくらいの高齢者たちが、ちょうど今パソコンに向かっているらしい。どこか空いていないかと当たっていくと、1ヵ所だけガラガラのところが見つかったので、すぐ2回分の予約を入れた。これで私はぎりぎり6月中にファイザーのワクチンを2回打ち終わる予定だ。
 しかしなぜ、このクリニックだけが空いているのか。ちょっと不安だが、ワクチンはどこでも同じなんだから大丈夫だろう。
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 人類のグレートジャーニーの話を27日にやるので、氷河期のことを調べていた

 1万3千年前まで地球は氷河期だった。北極地方から氷床が南下し、いまの米国の五大湖周辺、英国やドイツあたりも氷に覆われていたという。

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ニューヨークのセントラルパークにある「迷子石」。氷河が置いていった巨石で、氷河期にはこのあたりも氷の世界だった。

 最も寒い時期には、氷床の暑さが3000mにもなり、地球上に液体の水が減少して海面が130mも低くなったとされる。日本列島は朝鮮半島やサハリン沿海州とつながっていた。人類の移動の経路を探るうえで大事な情報になる。

 おさらいで、以前録画した科学番組「地球事変 氷河期」(2015年9月)を観た。

 そこでは、地球に次の氷河期が迫っていると主張する研究者が3人登場した。みなその道の権威で、この認識はオーソドックスなもののようだ。

 気候変動の振幅は、「ミランコビッチ・サイクル」(セルビアの地球物理学者が提唱した理論による周期変動)で寒冷期と温暖期が繰り返されると説明されてきた。近年さらに研究が進んで、過去100万年の間に8回の氷河期があり、10万年の氷河期の次に約1万年の温暖な間氷期、その次はまた10万年の氷河期という繰り返しのパターンがあったことがはっきりした

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10万年の氷河期と1万年の間氷期の繰り返しパターン

 いまは温暖な間氷期で、すでに1万3千年続いている。そろそろ氷河期に向かっても不思議ではないことになる。
 「いまの問題は温暖化ではなく、氷河期が近づいていることだ」という主張をベースに温暖化による気候危機説に異を唱える研究者もいる。そのあたりどうなのか、とても関心がある。
 番組に出た研究者のコメントはこうだ。

 まず、「アイスコア研究所」のジェームス・ホワイト博士。この研究所ではグリーンランドの地下100mまで氷を採取し、100万年近い地球の気候を分析してきた。ホワイト博士によると、氷河期がいつくるのかは計算することができるという。

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ホワイト博士

 それは「地球の公転軌道によって、氷期の始まりと周期は決まっているからです。」
 「次の氷期はいつか。実はすぐそこまで迫っているのです」。
 ところが「温室効果ガスが予測を非常に難しくしています。その量があまりにも多すぎるため、いつ氷期に突入するか分からないのです」。
 「いずれ氷期は必ずやってきます。地表の多くが氷に覆われ、穀物が育たないほど寒くなるでしょう。つまり暮らし方を根本から変えなくてはなりません。非常に困難なことなのですが、寒冷化は、何世紀もかけて進むので、その間に適応していけば良いのです。人類なら十分適応できると思います」。
 と、最後は希望を与えるコメントだった。

 温暖化は氷期への移行を見極めるさいの攪乱要素と考えられている。また、今進行中の温暖化はスピードが速すぎて、人類に「適応」の余裕を持たせない点、破壊的なダメージを人類に与える可能性がある。

 氷河期と人類の関係について研究している人類学者、ブライアン・フェイガン氏は、温暖化が次の氷河期を急激に招く恐れを指摘する。
 氏が注目するのは、大西洋の深層海流だ。

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 仕組みはこうだ。北極地方で海水が冷やされ凍結すると、凍った部分は周辺の海水に塩分を排出する。その塩分を引き受けた海水は比重が大きくなって沈み込み、より暖かくて軽い海水を南方から引き込む。この大きな循環によって、アフリカ北部や大西洋に面する欧州、米国東海岸の気候を穏やかにしてきたという。
 温暖化で北極近くの氷が溶けると、この流れが止まる可能性がある。そうなると、米国、欧州が一気に寒冷化する恐れがあるというのだ。
 では、どうするのか。

 「過去を振り返ると、人類の適応力は非常に高いと分かります。全力を傾ければ、気候変動にも適応できるはずです。ただし、どれだけ本気になれるかが問われています。この問題は何よりも優先すべき課題です。戦争などしている暇はありません。人類の存亡がかかっているのです」。

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フェイガン氏

 急激な温暖化、それに続く氷河期。人類には課題が山積みだ。
 戦争なんかしているヒマはない。

ビッグヒストリーの先に

 イスラエルパレスチナの戦闘は、21日からとりあえず停戦となった。

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UNICEF より

 パレスチナ側で243人(66人は子ども、39人は女性)、イスラエル側で12人が死亡、多数の負傷者が出た。ガザ地区では激しい砲爆撃で各地の街並みが瓦礫と化し、数万人が住む家を失ったとみられる。
 この地域の問題は、アメリカが動かないとはじまらないのだが、イスラエルとの特別な関係から国連安保理が停戦を求める声明を出すのに反対し続けた。
 このかんのバイデン政権は、ミャンマー軍部とパイプがあるからと制裁に二の足を踏む菅政権にダブる。

 日本での報道はいつもながら、「どっちもどっち」で、パレスチナ問題がどうして起きたのかはすっかり忘れ去られている。「そもそも」論からやらないといけないのだが、さてどうすればいいのか。無力感に襲われる。
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 お知らせです。

 新しいコスモロジーをつくるために、シリーズで開いているオンラインイベント「焚き火のある風人塾」は今週27日(木曜日)、第5回を迎えます。
 今回は『気づきの宇宙史 138億年』の「 ⑤人類のはるかな旅 グレートジャーニー」。いよいよ人類の地球拡散の旅です。27日(木)21:00からです。ご関心のある方はぜひご参加ください。

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 私たちホモ・サピエンスはおよそ20万年前アフリカで誕生しました。その一部はアフリカを出て、ヨーロッパ、アジア、アセアニア、さらにはベーリング海峡を越えて南北アメリカ大陸へと世界中に広がっていきます。日本列島にも私たちの祖先たちがぞくぞくとやってきました。
 この偉大な旅、グレートジャーニーは、地球のすみずみにまで人類の多様な文化を花咲かせると同時に、地球環境を激しく変えていきました。
 地球全体を見渡す大きな視点から、私たちヒトの立ち位置を考えていきます。

 シリーズ企画ですが、初めての人にも分かるようにお話しますので、お気軽にご参加ください。
bonfire-place.stores.jp/items/60a740e07c42ee4d1339124f

 このコスモロジー・プロジェクトは、もともとは、私は何のために生きるのか、など、いわゆる「ビッグクエスチョン」に向き合うためにはじめたものだ。
https://takase.hatenablog.jp/entry/20120104

 これまで人類が依拠してきた宗教的コスモロジーが崩壊し、多くの現代人が生きる「軸」を喪失するするなかで、現代科学にもとづいたコスモロジーを作ろうと模索している。

 138億年前の宇宙の誕生から現在の私までを、宇宙史、地球史、生命史、人類史、世界史、日本史などと分断せずに、通しで見ていく。大きな視点からは、これまで気づかなかったものが見えてくる。その「気づき」を大事にし、積み重ねていくことで新しいコスモロジー、人生観を得ていければと思っている。

 NHKに「ファミリーヒストリー」という番組があって、ご先祖の人生をたどっただけで、多くのゲストは泣いてしまう。ご先祖はこんなに苦労して子育てして、そして今の自分があるんだな、と感動。先人に感謝し、これからの人生を大事に生きようと思う。
 3代前、4代前を振り返ってこれなのだから、138億年を振り返ったら、もっと巨大な感動になるはず、と思うのだが(笑)・・あとは私の語りの技術による。

 大きなスパンで現在を見ていくというのは、いま一つの流行になっている。最近、「ビッグヒストリー」という言葉を聞くようになった。ビッグバンから現在までの歴史を研究する新しい学問分野とされている。

 マイクロソフト社創業者ビル・ゲイツがデヴィッド・クリスチャン(『ビッグヒストリー』の著者)のレクチャーに感動して、1千万ドルをぽんと出して「ビッグヒストリー・プロジェクト」を立ち上げ、世界に広めようとしている。

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 日本の大学で講義に取り入れるところもあり、桜美林大学では「ビッグヒストリー学科」ができている。

 こういうのが出てきたのには理由があると思う。
 一つは、この世の中どうなっているのか、混迷するなか、大きな視点で見ることが求められてきた、ということ。

 もう一つは、これまでにないような大きな視点で見ることができるだけの科学の達成があり、その知見が急速に拡大していることだ。
 太古から、宇宙ははじまりがなく永遠に存在していると考えられてきたのに対して、宇宙には始まりがあり、小さな一点から膨張してできたとするビッグバン理論が登場したのは、第二次大戦のあと。そのビッグバンは138億年前だったと確定したのが8年前だ。現代科学はものすごいスピードで進んでいる。

 科学が進むと、学問分野の行き過ぎた細分化で全体が見えなくなっていることに反省が生まれてくる。「ビッグヒストリー」では自然科学と人文科学が垣根を取り払って、宇宙物理学から考古学、遺伝学、発達心理学まで学際的にやっている。
 
 とんでもなくおもしろい、ラッキーな時代に生まれ合わせたと思う。

 ところで、『ビッグヒストリー』の結論はこうだ。

 太陽は赤色巨星に、その後収縮して矮星となり、惑星としての地球は終わりを迎える。宇宙は広がりつづけ、遠い将来、生命、惑星、恒星までもが崩壊して死の世界に還る。
「この陰うつな未来像から今日の宇宙に立ち戻って考えれば、ある意味非常な満足感を覚えるだろう。なぜなら、こうした未来予測の観点からするとそれほど歳をとっていない宇宙(もちろん138億年という宇宙の年齢は私たちにとっては、とてつもなく古いと思われるが)に、それが緑あふれる春の時期に、すなわち宇宙が恒星、惑星および生物、さらには人間さえも含む複雑な存在を生みだすのに必要な、多大なエネルギーと物質的な成分その他もろもろに満たされている時期に、私たちが生きていることを知るのだから。恒星、惑星、生命、そして人間を生みだすゴルディロックス条件は、いま静かに存在しているのだ!
 私たちは、宇宙が私たちを取りまく驚異的な世界を創造するのに必要な活力で満たされた時期に、宇宙の被造物となったのだ。」

ゴルディロックス条件とは、より複雑な状況が出現するのにちょうどよい条件(熱すぎない、冷たすぎない、大きすぎない、小さすぎないなど)がそろった環境のこと)

 ここにもやはり、大いなる感謝と生への感動がある。
 さあ、さらなる「気づき」へ進もう。

入管はウィシュマさんのビデオを全面開示せよ

 きょうの畑は、インゲンのネット張り、トマトのわき芽とり(幹と太い枝の分かれ目から生える細い枝を摘み取る)そしてピーマンの摘花をやった。摘花というのは、よけいなところに栄養が行かないように花や花芽を摘んでしまうこと。せっかく咲いた花なのに、かわいそうだが、しかたない。

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ピーマンが花をつけたが、咲いた花も、花芽(小さな球)も摘んでしまう

 畑いじりをしていると、いかに自分が農業を知らないかを自覚する。
 農業とは、植物を自然に伸ばすのではなく、大きな実を成らせるという人間の都合で無理強いするのだな。
・・・・・・
 TBS「報道特集」は、きょうも入管に収容中に不審死をとげたスリランカ女性、ウィシュマさん関連の特集。来日した妹、ワヨミさん(28)とポールニマ(26)さんのウィシュマさんの遺体との対面、名古屋入管訪問、東京での上川法相との面会などに密着して取材している。

 遺体と対面したときの2人の妹さんの嘆きは、観ていてつらくなった。「愛する日本でなぜこんな仕打ちを受けるのか。こんなになるまでなぜ入管は放っておいたのか」と怒りを露わにしていた。

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遺体に対面した二人は姉のあまりの痩せ方、やつれ方に衝撃を受けていた

 ウィシュマさんは食事が摂れずに嘔吐を繰り返し、7ヵ月間に体重が20キロも減っている。面会をしていた支援者によれば、その尋常でない弱り方に、入管に何度も仮放免や点滴、入院などの医療措置を求めたという。体調の異常さは分かっていたはずだ。

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これにどう答えればよいのか

 ウィシュマさんがどんな様子だったかは、彼女が入れられていた部屋の監視カメラのビデオ映像を見ればわかる。妹さんたちはそれを見せてほしいと要求するが、入管はかたくなに拒否している。
 入管庁の「中間報告」には、「医師から点滴や入院の指示がなされたこともなかった」と記されていたが、医師の診察記録には「(薬の)内服ができないのであれば点滴、入院」と記載されていたことが判明。妹さんたちは「中間報告」に不信感をもつ。2人は、ビデオ映像を見てウィシュマさんの死の真相を納得するまで帰らないと滞在を90日延長した。闘いはこれからだ。

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中間報告。20キロもやせて、面会に嘔吐用のバケツをもって現れた人に「目立った異常は見られない」はないだろう


 入管のビデオ開示拒否の理由は二転三転している。
 まず入管が挙げたのは「保安上の観点」だ。「収容された人の中には罪を犯した者、例えばテロリストも含まれ得る。逃走を防止するため、施設の形状や巡回態勢、頻度、監視カメラの解析度など、具体的な状況は保秘の対象だ」というもの。7
 これに対し、野党側は非公開の理事懇談会での開示なら問題ないと主張。かつて刑務所内で起きた死亡事件をめぐり、衆院法務委員会でビデオ映像を公開した前例がある。

 入管庁はさらに「名誉とプライバシーの保護の観点」も理由にあげた。
 上川法相は「死亡されるまでの過程が逐一記録されている。亡くなられた方の名誉、尊厳の観点からも問題がある」(12日)と説明した。
 しかし、家族に対してもプライバシーを持ち出して拒むのはおかしい。

 18日の参院法務委員会で入管庁は、最終報告に向けて外部の識者らが調査中であることを盾に「三者の方々に先入観なしに調査してもらうことが困難になる恐れがある」という新たな理由を持ち出した。(朝日新聞20日
 ああ言えば、こう言う。かたくなにビデオ不開示にこだわる。

 それに最終報告を外部識者とともにまとめるというが、その識者の氏名を秘匿している。これでは客観性や公平性が担保されるはずがない。とにかく真相を隠したいらしい。
 そのうち、「ビデオは適切な手続きで消去しました」なんて言うんじゃないだろうな。

 元入管職員の木下洋一さんは、いま入管行政を変えようという運動をしている。私は彼の勉強会に2回参加したことがある。内部の人間だっただけあって、圧倒的な説得力があった。先日の新聞にこう語っている。

 《まず指摘しなければならない問題は、巨大な権限を持つ入管の「不透明性」です。「国家主権に関わるから」という理由で、入管は外国人に対して収容や仮放免の判断基準を明確にする必要も、処分理由の説明をする必要もないとされてきました。それに対して外国人は不服申し立てをすることができません。
 このため、収容や仮放免、在留特別許可などの処分や措置があいまいに決められているのが実態です。外国人の立場に立てば、理由や基準を知りたいと思うのは当然でしょう。
 入管法改正の理由として政府が挙げる送還拒否の増加は、不透明な行政への不信感によるものが大きいと思います。収容時の司法審査や、第三者機関による透明性のチェックなど、人権を土台にした施策の方が、長期的な不法残留者の減少につながると考えます》

 私が面会した被収容者のなかには、職員から「なまいきだ」と睨まれているから仮放免されないと訴える人がいた。客観的な基準を示す必要がないから、職員の個人的な感情が判断に入ってくる可能性が高くなる。木下さんの指摘する《巨大な権限を持つ入管の「不透明性」》である。

 現在の入管行政は抜本的に変える必要がある。その第一歩として、ウィシュマさんのビデオを全面開示させたい。

東京五輪の名を伏せたバイト募集

 雨が続く。

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雨雲の下、ドクダミの白い花が咲く

 先月初旬からメダカの鉢にホテイ草を入れて産卵に備えていたが、今週はじめ、稚魚を確認した。針子(はりこ)というくらいで、あまりに小さくて見逃しそうになるが、たしかに「いのち」が動いている。孵化した針子を見るたび、「いのち」の不思議さをおもう。
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 このかん気になったテレビニュースから。

 東京五輪に、ボランティアとは別にアルバイトが「密かに」募集されているという報道。
 TBS「報道特集」(15日)の特集は観ていて気持ちが悪くなり、そのあと怒りがわいてきた。

 まず東京五輪のボランティアがまったく大事にされていない。
 ボランティアのユニフォームとアクレディテーションカード(身分証)の受け取りが始まっているが、なんと直接に受け渡し場所まで取りにいかなくてはならないという。九州にすむある登録ボランティアの女性は、「一番西の受け取り会場は静岡なんです」と困惑する。
 受け渡し会場の地図を見ると、北海道や東北はあるが、関東・東海より西は関西をふくめどこにもない。郵送してもらえないかとの問い合わせには、手渡しのみとの回答。しかも旅費は支払われない。

 ユニフォームと身分証の受け取りだけに九州から静岡に往復すれば高額の出費になるうえ、コロナ感染が拡大しているご時世、そんな遠出をしたら周りで何を言われるかわからない。このボランティアは、どうしようかと悩んでいる。

 東京五輪の運営がここまで官僚的で配慮がないのはなぜなのか。そもそも組織委員会がまともに機能していないようにも見えるのだが。

 もっとひどい話。五輪にボランティアではなく、アルバイトが募集されているという。

 ある大学生(18)が、ネットで見たスポーツイベントのアルバイト募集に応募した。時給は1500円。募集広告には「オリンピック」とは書いていないが、「“あの”大規模国際スポーツ大会」とあり、期間(7月15~31日7、8月17日~9月3日)や場所を見ても、五輪としか思えない。

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“あの”大規模国際スポーツ大会・・しらじらしいな

 面接にいくと、案の定それはオリンピックだった。大学生はそこで、五輪の仕事をやることは口外しないでと指示されたという。

 「自分が働いている内容を堂々と人に話せないのは、なんでだろうと疑問に思う」といぶかる大学生。

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報道特集」より

 しかも、彼の姉は、海外留学経験をいかして五輪のボランティアに登録している。姉に話すべきか迷ったが、うちあけると、姉は驚いて、「複雑な気持ちになる」と言う。それはそうだろう。善意でボランティアをやっているのに、となりには時給いくらでお金をもらいながら仕事をする人がいるのだから。

 ネットで五輪のバイトを検索してみたら、あるわあるわ、なかにははっきりオリンピックでのバイトだと書いてあるものも。 

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ネット上にはこの手の募集がたくさんある

 アルバイトを募集するのは、ボランティアの辞退が相次いで人数が足りないからなのか。それにしても、バイトの応募者にオリンピックで働いていることを口止めまでして隠し、うらでこそこそと陰湿に進めるやり口は、政権の体質をそのまま表している。
 きたないぞ!
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 これまでコロナをほぼ抑え込んで「優等生」とされた台湾やシンガポールで、感染が拡大している

 台湾は、国際線のパイロットから感染がぶりかえした。21日は新たに確認された感染者が315人にのぼり、国内感染者が100人を超えるのは7日連続となった。
 台湾では19日、警戒レベル「第3級」の対象を台湾全域に拡大。28日までの期間にマスク無しで外出した場合、3,000台湾元以上1万5,000台湾元以下の過料が科される。また、台湾全域の幼稚園から小中高校、大学まで全ての学校を一斉休校・休園となりオンライン授業に切り替えられる。全国の娯楽施設が閉鎖され、飲食店は、実名登録制や仕切り板の設置、検温、アルコール消毒を徹底し、難しければテークアウトに絞るか営業を停止するよう要請されている。

 対策のはやさはいつもながらだが、ここでまた、あのIT担当閣僚の唐鳳(オードリー・タン)氏が登場した。 

 台湾当局は、感染者の接触者をたどる対策として飲食店などに入る人に電話番号などの登録を義務づけている。スマホで入力したり、入り口に置かれた紙に手で書き込む方法が一般的だが、煩わしさや個人情報を知られることに抵抗を感じる人もいる。

 そこで、唐鳳氏が中心となって新しい仕組みを作った。
 QRコードに携帯電話のカメラをかざすと、訪問先を識別するための番号だけが記されたショートメッセージが画面に表示され、利用者はこれを送信すれば手続きが完了

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NHKニュースより

 メッセージは店にではなく当局の感染対策ホットラインに送られ、携帯電話会社はデータを28日間保存したのち削除する。手続きは5秒ですんで簡単だし、一定期間ののちにデータが消されるからプライバシーへの配慮もされている。

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 唐氏らは、わずか3日間でこの仕組みを作ったという。いやはや、すごいなーとため息。

 日本では、ネットを利用した新しい仕組みを作ると必ず不具合が出たりしてドタバタする。IT後進国であり、迅速で柔軟な組織運営でも遅れている。このことを肝に銘じよう。
 もっとも菅内閣は、対策らしい対策をうちださないまま、「検討」を続けてたちすくむだけなのだが。

映像でウイグル族ジェノサイドに迫る4

 やった!入管法改正案の今国会での成立断念が決まった。

 与党は当初、強行採決も辞さないというかまえだったが、事実上の撤回に追い込まれた。
 支持率急落で菅内閣が弱気になり、都議選を控えた公明党がビビったことが後押ししたが、直接の要因は入管法の酷さが市民に広く知れ渡り、反対の声が大きく広がったことだ。支援者らが反対運動を盛り上げ、収容経験ある外国人も「帰国したら殺される」とカミングアウトして反対をアピールした。

 来日中の、名古屋入管で亡くなったスリランカ女性のウィシュマさんの妹さんたちはきのう18日午後6時、法務省上川陽子法相と面談した。上川氏は「心からお悔やみ申し上げたい。最終報告が出たら責任を取りたい」と言葉をかけた。一方、これに先立ち面談した佐々木聖子出入国在留管理庁長官は「最終報告後も(ウィシュマさんが収容中の様子を映した)ビデオは開示しない」と伝えた。遺族は納得しておらず、ビデオが開示されるまで日本での滞在を延長する方針だ。(東京新聞、望月衣塑子記者)

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上川法相との面会を終え、報道陣の質問に答えるウィシュマさんの妹のワヨミさん(右)とポールニマさん(左)(東京新聞より)

 政府は法案を次の国会に持ち越すとしている。
 改正案の内容を抜本的に変えることとウィシュマさんの死亡の真相解明は、今後も要求していかなければならない。

 次の闘いへのスタートだ。
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 ウイグルでの迫害を暴露したドキュメンタリー「中国 デジタル統治の内側で~潜入・新疆ウイグル自治区~」(原題:Undercover: Inside China’s Digital Gulag)のつづき。4回目。

 

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サデルデン(男性)
「妻と連絡が取れなくなってもう2年がたちます」

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彼はサデルデン。カザフスタンに住んでいます。
妻のムヤッサルは中国にすむ両親を訪ねたさい、中国政府が「教育訓練センター」と呼ぶ施設に収容されたと見られています。3人の子どもたちは、もう2年以上、母の帰りを待っています。

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ムヤッサル

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3人の子どもたち

拘束された直後、ムヤッサルは主要施設らしき場所から短い動画を密かに送信しました。
家族へのメッセージも録音されていました。
「子どもたちをお願い。体を大切にね」

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ムヤッサルが送ってきた短い動画

カザフスタンウイグル族の人権活動に取り組むサデルデンは、妻の情報を求めて、中国との国境地帯へ向かいます。

携帯電話のカメラで目立たないように撮影しました。
「中国のSIMカードが必要なんだ。向こうに友達がいるものでね」

中国の知人に電話するには中国のSIMカードが欠かせません。
国外の番号からの通話は、当局に盗聴される可能性があります。

「もしもし、お元気ですか?」

妻を知る人に連絡がつきました。

「サデルデンです。ご家族もお変わりありませんか?」

中国の監視システムが特定の単語に反応するため、暗号を使って話します。
「ムヤッサルは?」

―「勉強」してる
「いつごろ終わりますかね?」

(電話が切れてツーという音)

「もしもし?」

勉強とは施設への収容を意味します。

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「理由も言わずに電話を切られた。彼の声からは、明らかな恐怖が伝わってきました」

国境の向こう側は、中国の新疆ウイグル族自治区で、イスラム教徒のウイグル族が多く住んでいます。

 

彼らは固有の言語や文化を守って暮らしてきました。
いまカザフスタンウイグル族が中国の親戚を訪ねるのは危険です。
拘束される恐れがあるのです

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ドイツ ミュンヘン

彼女はグリジラ。ドイツに住むウイグル族の女性です。1年半前、妹から恐ろしいボイスメッセージを受けとりました。

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妹のグリギナ
「私が実家に戻ったあと、姿を消しても、誰にも、何も言わないで。どこにいても盗聴されてる。誰もが見張られている。」

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妹のグリギナ

妹のグリギナはマレーシアに住んでいましたが、新疆ウイグル自治区に残る両親との連絡が途絶えたため、帰国することにしました。

「帰国する時、妹は約束しました。毎週、SNSの画像を更新して無事を知らせると」
「2018年1月、SNSの画像が薄暗い部屋の写真に変わったんです。私は妹を捜し始めました。
グリジラは故郷の友人から、妹が収容施設にいると告げられました。
「妹からの最後のメッセージは47秒。

声:グリギナ「メッセージがあれば送っておいて。あすの朝、友達の携帯で聞くから。じゃあお姉さん、元気でね」

「妹を近くに感じます。声を聴くたび癒やされるけれど、悲しくてたまらない」

同じころ、海外に住む多くのウイグル族が故郷の親族と連絡が取れなくなりました。
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カザフスタン

f:id:takase22:20210408171101j:plainカザフスタンを訪れた私たちは、収容された経験をもつ2人のカザフ族の女性から、施設の実態を聞くことができました。

「拘束の理由は、アメリカの対話アプリを入れたこと。
ラヒマ 12か月拘束

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ラヒマ

「施設では、ゾンビみたいに無感覚になっていき、解放される日のことしか考えられなくなる」

グリズラ 17ヵ月収容

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グリズラ

「宿舎の室内には、回転式の監視カメラが5台。教室にも同じカメラが。
鉄格子と金網だらけ。2分以上トイレにいると棒で頭を殴られる。暴力を振るわれ、どなられた。」

ラヒマ
「あの連中を許せない。精神を病んでしまった女性もいました。

グリズラ
「固い椅子に24時間座る罰を2回受けました。水を飲めるのは一度だけ。排泄もその場でさせられました。」

ラヒマ
「追い詰められて、自殺を図った若い人たちも。実際に死んだ人もいます。

新疆ウイグル自治区には両親を収容施設に送られた子どもたちもいるようです。
この写真はそうした子どものためにつくられた養育施設と見られる場所を撮影したものです。

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子どもの養育施設と思われるもの

カシュガル市職業技能訓練センター】

主要施設の存在すら否定していた中国政府は、2019年の1月、一部の施設に欧米メディアを招待しました。

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「試行を重ねたうえで、実施に至った『職業技能訓練』活動は、目覚ましい成果を上げました。
生徒やその家族、社会全体から好評を博しています。

取材のために選ばれた施設ですが、記者には政府の役人がぴったりはりついていました。

「センターでは中国語、法律知識、職業技能などの講習が行われます。」
中国のテレビは、人民を助けるための教育センターとして放送しました。

《中国のテレビ》「私は法律を守る市民です」

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共産党のおかげで施設で学び、生まれ変わりました。感謝の心を行動で示したいです」

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【ドイツ・ミュンヘン

グリジラは妹を待ち続けていました。もう一年半がたちました。

「妹の精神状態が心配です。勇敢で芯が強いけれど、施設で、人々への理不尽な扱いを見続けるのが苦痛なはず。
とても苦しい状況です。
21世紀の今、愛する家族と自由に会えないなんて」

100万人以上が施設にいるとみられていますが、いつ解放されるのかは誰にも分りません。

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グリジラの妹グリギナや、サデルデンの妻ムヤッサル、その他数多くの家族が再会を待ち続けているのです。
「体に気をつけて、連絡するから待っていて」
「姉さん、元気でね」(グリギナ)

「子どもたちはどうしてるかな。会いたくてたまらない」(ムヤッサル)

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少なくとも100万人以上のウイグル人が強制的に収容されているとされる



映像でウイグル族ジェノサイドに迫る3

 おととい、名古屋出入国在留管理局で3月に亡くなったスリランカ女性、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)の葬儀が名古屋市内で営まれ、妹2人ら遺族や関係者ら約100人が参列し、ウィシュマさんに最後の別れを告げた。

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妹2人が泣きながら、2か月経つのになぜ姉が死んだのかがわからないと訴えた

 「ウィシュマさんの妹である次女のワユミさん(28)と三女のポールニマさん(26)はこの日午前、ウィシュマさんの遺体と初めて対面。変わり果てた姿に「姉でないようだ」と泣き崩れた。2人は1日に来日した後、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため14日間の自主隔離生活に入っていた」(毎日新聞

 ドメスティックバイオレンスの被害者で保護が必要な一人の外国人女性を、刑務所より劣悪な環境に長期収容し、体調の悪化を訴えてもまともな治療やケアを与えないまま死に至らしめた。この真相究明を政府はかたくなに拒否している。

 入管法改正案は、今よりもっと入管の裁量権限を大きくするもので、とうてい認められない。断固廃案にすべし。
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 ウイグルで何が起きているかをさぐるドキュメンタリー「中国 デジタル統治の内側で~潜入・新疆ウイグル自治区~」(原題:Undercover: Inside China’s Digital Gulag)のつづき。興味深い部分をつまんで紹介する。3回目

【リアン・テクノロジー社】

新疆ウイグル自治区での政府の活動を技術面で支える代表的な企業の一つが、リアンテクノロジー社です。

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「当社は新疆ウイグル自治区の通信環境をサポート。5Gを基盤とする情報社会の構築を目指します。」(リアン社の宣伝)

当局による万全な監視体制の構築にリアンの協力は欠かせません。
新疆生産建設兵団と協力し、安全な街づくりに貢献。カシュガルでは地元の公安部門に協力。治安維持システムの構築と運用をサポート。」

取材を続けるリーは技術に関心のある実業家を装って、リアン社の幹部に面会しました。

 

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【リアン社員】
自治区の治安関連業務は国内における最優先事項です。
当社は「顔認証」技術を提供します。

(別のリアン社員)
「どんな小さな道にもカメラが設置されています。
複数のカメラで全方向をカバーする。死角はありません。
一見普通のカメラですが、前を通り過ぎるだけで、あらゆる情報を収集されてしまう。
顔に浮かぶ表情や行動までも分析の対象となります。」

データの分析について、エンジニアの男性は、

【(証言)エンジニア男性】
「分析結果に基づきコンピューターが人物を分類。
「問題なし」「要注意」「危険」の3種類に仕分けます。顔認証システムは表情を分析。緊張した人を見つける。走っている人も危険人物とみなされる。

治安機関はそうした人々を拘束、再教育施設などに収容してしまいます。」

中国政府とハイテク企業との協力関係は、それだけにとどまりません。

リアン社員
「ここのセキュリティ産業は、世界で最も洗練されています。
高度な研究開発や実験も行われています」

Q:どんな形で保安や防犯に役立てているんですか?

「これ以上詳しいお話はできません。治安に関わる情報なので」

宣伝「リアンは情報活用のためのクラウド型データルームの管理を担当。」

幹部が回答を避けたのはこの最新式のシステムに関することかもしれません。

宣伝「政府の情報システムの一層の効率化に貢献。完璧な運用管理体制を提供します」

エンジニア男性
「コンピューターのシステムが巨大な貯水池の役割をします。あらゆるデータが流れ込んでくるのです。」

AI人工知能を搭載したシステムが、怪しげな動きを未然に察知しようとする。その結果、あらゆる行動が監視されることになるのです。

「撮影した写真や通話記録、位置情報など、スマートフォンの情報は何でも収拾されます。
『一体化統合作戦プラットフォーム』と呼ばれるシステムに、ウイグル族のデータを蓄積し解析にかけるのです。
その結果、『怪しい』とされた人は拘束されます。

グレッグ・ウォルトン(サイバーセキュリティ専門家)
「この地域は、中国のハイテク企業が住民をコントロールするための新しい技術を披露する、格好の場となっています」

新疆ウイグル自治区に見られるような、最新鋭の技術と厳しい取り締まりの組み合わせは、世界中どこを探してもみつからないでしょう。」


宣伝「各国への営業を強化し、顧客を拡大します。」

グローバルなAIビジネスは、莫大な富をもたらします。中国のみならず世界で巨大なマーケットを生み出す可能性があるのです。

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社員「新疆ウイグル自治区のシステムは中国国内の各地に広がっています。自治区と隣接している中央アジア諸国では、テロ対策や治安強化役立つ「商品」の需要が高い」

エンジニア
「監視カメラ網や顔認識技術、データ管理のシステムなど、人々を抑圧する数々のツールがここで導入され、ウイグル族で実験し、完成度を高め輸出されていくのです」

社員「ありがとうございました」

グレッグ「世界的な影響もありえます。いまここでは新しい形の統治が生まれようとしています。それは先進的な予測アルゴリズムで人々を監視し、管理します。こうしたシステムが世界で輸出されれば、自由や民主主義に著しい打撃を及ぼすことでしょう。」

監視システムを強化する政府の仕事を請け負うハイテク企業はリアン社だけではありません。世界各地に進出している中国の通信機器大手ファーウェイもまた新疆ウイグル自治区で活発に動いています。

「常に変化し、一歩先を行く・・

ファーウェイは地元の公安部門に技術サポートやデータベース管理などのサービスを提供しています。新疆ウイグル自治区の安定や安全に貢献した企業という評価も受けました。
2019年の4月にはファーウェイはAIを活用した治安対策に関する事業契約を結んだと報じられました。

今起きている問題について、リアンとファーウェイに問い合わせましたが、回答はありませんでした。

カシュガル

政府がイスラム教徒への締め付けを戦略的に強める中で、ウイグル族の文化そのものが脅かされています。

2週間潜入取材を続けてきたリー。最後に向かったのはウイグル文化の町、カシュガルです。
彼はモスクを訪ねました。

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「モスクの中にイスラム教徒の姿がありませんでした。なぜモスクへ行かないのかと尋ねると、人々はこう答えました。「トラブルに巻き込まれたくない」と。

ウイグル族の文化への破壊行為は、エスカレートしているようです。カシュガルでは伝統的なウイグル族の住宅が取り壊されていました。政府の近代化プログラムの一環です。
衛星画像にはさらに象徴的な破壊行為が。

モスクなどイスラム教の関連施設が一部または完全に取り壊されているのです。

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私たちが中国政府に見解を問うと、こんな回答が返ってきました。

ウイグル族への迫害というが、事実無根である。現地でのテロ対策は、信教の自由を守り、住民の人権を向上させるために行われている。対策は法に則ったものだ。教育センターでは研修生の人権が保護され、休みも取得できる。虐待はきびしく禁じられている。対策は効果をあげ、新疆ウイグル自治区の治安は大きく改善した。すべての民族が融和し、安心して暮らしている。」

ウイグル族などイスラム教徒の次世代は絶え間ない圧力のもとで育っていきます。

ダレン「中国政府はウイグル族の社会を結び付けてきたものを壊しています。子どもたちを伝統文化から切り離し、模範的な中国市民に仕立て上げる狙いのようです。」


ウイグル族の子どもたちは教室で自分たちの言語や文化を学ぶ機会を奪われつつあるようです。

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「私の名前はサニヤ。

かつて習主席が訪問した小学校です。映像では生徒たちがうれしそうに語っています。
「ホールに貴重な写真があります。忘れられない思い出です。

習近平指導部の政策の結果、この子どもたちの親や親族の多くが施設に収容されている可能性があります。

 (つづく)