侵略を止めることは日本の国益

 5年目に入っても終わりが見えないロシアによるウクライナへの全面侵攻。しかし最近、ウクライナの戦況に変化が見られるという。

 地上戦の前線では、ウクライナ側が優位に立つ局面が増えている。ウクライナは4月、ロシアによって奪われた面積以上の土地を奪還したが、これは2024年以降で初めてのことだという。(英シンクタンク「王立防衛安全保障研究所(RUSI)」)

 5月27日、イギリスの情報機関GCHQ(政府通信本部)のキーストバトラー長官は、ウクライナへの全面侵攻以降、ロシア軍の戦死者が50万人近くに上ると明らかにした。一方、ウクライナ側の戦死者についてゼレンスキー大統領は今年2月の時点で5万5000人と明らかにしたが、アメリカのシンクタンク「CSIS(戦略国際問題研究所)」は去年12月までに約10万人から14万人が戦死したと推計している。

 ゼレンスキー大統領は今年3月、フランスメディアの取材に対し、去年後半から今年2月までのロシア軍の死傷者数が一月あたり3万人から3万5000人に上り、ウクライナ側との比率は約1対8だと述べている。1対8はウクライナ側の政治的な意図が入った数字だとしても、これまでの戦闘でも1対3か4になっていることを考えれば、ロシア軍にすさまじい損耗が出ていることは間違いない。

 地上戦の不利を補うかのようにロシアは空爆をさらに強化し、ウクライナの市民に甚大な被害が生じている。一般市民に恐怖を植え付け、戦争終結を求める世論の圧力を強めることを狙っているとみられる。

6月1~2日の爆撃

ロシア軍は医療施設、教育施設、集合住宅などに国際法違反の攻撃を続けている

《(CNN)ロシア軍が地上戦で目立った成果を出せずに苦戦する中、ロシアの航空攻撃はここ数カ月で規模が拡大しており、これまでにない数のドローン(無人機)や高速ミサイルがウクライナを襲っている。

 2日の直近の攻撃では、ほぼ迎撃不能で空母を撃沈するほどの威力を持つ極超音速ミサイル「ツィルコン」も8発用いられた。ウクライナ当局によると、1回の攻撃で使用されたツィルコンの数としては最多。8発のツィルコンはいずれも迎撃されなかった。
米シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」の分析によると、今年初めの時点では、ロシアが発射する「シャヘド」攻撃ドローンは毎月約5000機だった。先月にはその数が8000機を超えた。》

 ウクライナは迎撃態勢を強め、毎月およそ9割のドローンを撃墜。電子戦の活用で一部の兵器を人口密集地からそらす対応も取っている。ただ、ウクライナもミサイル迎撃に困難を抱えている。弾道ミサイルと極超音速ミサイル「ツィルコン」の迎撃には高度な迎撃装置が必要だが、肝心のパトリオットシステム用のミサイルが中東で使われ、不足しているのだ。イラン戦争の影響がここにも現われている。

 現状と今後の展開、日本にとっての教訓について東野篤子氏(筑波大教授)が論じている。

《ウクライナが前線でロシアを押し戻す動きが出ているが、「耐えられていること」と、「勝てていること」は別だ。

 前線の兵士は長期間帰れず、動員数も劇的に増えているわけではない。

 ずっと「綱渡り」が続いており、「支援しなくてもいいのでは」という風潮が広がることを懸念している。(略)

 どのような終戦の形であれ、「理想的な終わり」は存在しない。失われた人命は戻ってこず、破壊された街の復興にも長い年月がかかる。

 被害を広げないためには、ウクライナが極限まで国防上の体力をつけて、ロシアに「これ以上の継続は完全に無駄だ」と認識させることがポイントになる。

 そこに至るための決定打はない。少なくとも、欧州などの同志国がウクライナ支援をやめることがないという現実を、ロシアに理解させる必要がある。

 日本では、ロシアからエネルギーを買い続けるとウクライナ攻撃のための資金へと転用されかねないという意識が、あまりにも欠如しているように思う。

 ロシアの戦費調達能力を強めると、結果的にウクライナ人の苦しみを長引かせてしまう。そのことに意識を研ぎ澄ます必要がある。

 ウクライナから得られる教訓もある。「国を守ること」と「日々の暮らし」はコインの裏表で、切り離すべきものではないことだ。

 また、「軍事か外交か」ではなく「軍事も外交も」強化することが重要だということ。二者択一の議論から日本は脱却する必要がある。

 さらに、日本では「ウクライナを支援することは正しい。ただ、もはや現実的ではない」といったような、「正しさの追求」と「冷徹に国益を重視する現実主義」を相反するものとしてとらえる論法も散見される

 だが、日本でされるべき問いは「国際社会でまた侵略が起きたら、日本の国益になるのか」だろう。

 その答えは「侵略行為が繰り返されず、安定的で平和的な世界で生き残る方が、長期的には日本にとってはるかに低コストだ」というものになるはずだ。》

7日の『朝日新聞』朝刊  ゼレンスキーの直接会談の提案をプーチンは拒否した

 東野氏に全面的に賛成。

 5月4日〜5日にかけて、ロシア極東「サハリン2」で生産された原油を積んだタンカーが、愛媛県今治市(菊間港)にある太陽石油の四国事業所に到着し、原油の搬入(積み下ろし)が行われた

 ウクライナ侵攻以降、日本はロシア産原油の輸入を事実上ストップしていたが、「中東有事によるホルムズ海峡封鎖」に直面し、政府が「供給源の多角化」を狙って主導した初のロシア産原油の緊急調達だった。

 これが当然のように無批判に受け入れられているように見えるが、そこには国際法違反のロシアへの圧力、苦難にあるウクライナ国民への連帯が欠落している。

 ロシアのウクライナ侵略がイラン戦争に隠れて見えなくならないよう、発信を続けたい。