ウクライナ取材の現場から5

10月19日(木)。
 朝、通訳が「深夜のミサイルはここから20kmの町、コンスタンティノフカに4発落ちて、学校と集合住宅6棟が破壊された」とテレグラムに掲載された写真を見せてくれた。工場、学校、病院はじめ生活に必要な施設を狙うのがロシアのやり口だ。

 きょうは市民が射撃訓練する場所を取材しようと出発したのだが、途中のチェックポイントで止められた。私たちはウクライナ国防省のプレスカードをもっているのだが、ここから先はプレスも通さないと言われ引き返すことに。数週間前には通れたという情報でやってきたのだが、前線近くの状況は刻々変わる。

 そこで予定を変え、ロシア軍が占拠した後にウクライナ側が反攻して取り戻した地域に行く。ドネツク州スヴィアトヒルシク地区は、「丘の大聖堂」が有名な保養地で、丘や森がつづく。これまで地平線まで平原が広がる景色しか見て来なかったのでとても新鮮だ。

美しい丘の大聖堂。有名な観光スポットでもあるが、ここも一時ロシア軍に占拠された。白壁に弾痕が残る建物もあるという。

森林や湖の広がる保養地が激戦の地になった。

 ロシア軍の戦車を止めようとウクライナ側が自ら橋を破壊し、戦史に残るような激戦になったという。いまもロシア軍の主力戦車T72はじめ破壊された軍用車両が何台も道路わきに残されていた。

破壊されたロシア軍のT72。去年夏、ロシア軍の大敗北でこの一帯が「解放」された。

2人のウクライナ兵が、ロシア軍戦車の残骸から金属片を探しにきた。金属を細かく切って火薬と混ぜると殺傷力が増すという。武器弾薬が不足気味で自ら爆弾を作っていた。ドローンに載せて落とすのだという。

 住民が戻りつつあり、ロシア軍に占拠されていたころの話を聞こうと話しかけるが、ほとんどの人に取材拒否される。ここは親露的な感情を持っていた住民も多く、警戒心が強いのだという。一人のおばあさんが顔を写さない条件で応じてくれたが、周りをうかがいながら、声を潜めて「まだ裏切者がいる」とささやくように言った。聞いている私も怖くなってくる。

住民が戻りつつある。屋根のブルーシートが破壊の跡を示す。

リマンという町の雑貨屋。ロシア軍占領下では店を閉じて家に籠っていたと女主人。年老いた両親がいて避難できなかったという。

「裏切者がいる」と声を潜めて訴える女性。真剣な顔つきにぞっとする。親ロシア派の活動家はロシア軍の撤退とともに去ったが、今いる住民の中にも「内通者」がいると彼女は信じている。

 かつて日本でも、ダムや原発の建設で住民が分断され、親族同士でさえ敵対するようになった集落もあったなどと連想した。戦争で破壊されるのは物理的なものだけではない。

つづく