ウクライナ取材の現場から3

 10月18日(水)。朝冷え込んで零下。ウクライナはもう冬の寒ささ。

 ウクライナが押している南部戦線から、最近ロシアが圧力を強める東部戦線のドネツク州前線線へ移動し、砲兵部隊を取材した。

秋の気配が深い平原を前線に向けて走る。向こうからくる軍用車や救急車とすれ違う。道の両側には肥沃な黒土がひろがる

 前線に近づくと、案内の軍人からスマホ機内モードにして」と指示された。スマホが発する電波がロシア軍に探知されることでこちらの位置情報を知られないためだ。取材者として来ているのに、ここでは私たちも戦闘の「当事者」なのか。一気に緊張がはしる。

 南部ではウクライナ軍がほ撃つ砲声がロシア軍の砲弾の着弾音を圧倒していたが、ここでは半々という感じだ。しかも砲声の間隔が短く、やまない。あくまで私たちが滞在していた時間帯の印象だが、激戦ぶりがうかがえた。

122ミリ榴弾砲自走砲)。キャタピラがついて移動可能な兵器なのだが陣地化している。

榴弾砲の砲座内。家族が恋しくて仕方ないと語った砲手。スマホで家族と話せる時代ではあるが・・

遠藤正雄さんが多連装ロケット砲BM21のコマンダーをインタビュー。今の戦闘の困難さの一つはこちらが制空権を持っていないことだという。超低空飛行のジェット機が来たのはこの直後、インタビュー中のことだった。

 突然、すさまじい爆音が空から降ってきて、思わずしゃがみ込む
 超低空でジェット機3機が通過した。案内の軍人が、「友軍機だ」と言うので、ほっと胸をなでおろす。しかし、遠藤さんはロシア軍機ではないかという。ジェット機からフレア(地対空ミサイルをふせぐ)をまいたのを確認したという。フレアというのは飛行機が地対空ミサイルを防ぐためにまく、いわば「目くらまし」で高度が高いところでしか使用しない。超低空でフレアをまくのは解せないというのだ。

(注:後日、このジェット機ウクライナ軍機であることが判明した

 この出来事は、ここが両軍攻防の最前線なのだと実感させた。この一帯もまた原則メディアを入れないのだが、私たちは特別な許可で取材できた。

BM21の発射。発射すると反撃を避けて猛スピードで移動する。多い時は一日25回も撃つという。古いソ連製のシステムで、兵士らは新しい兵器が欲しいと訴える。

BM21の運転席に同乗して移動。兵士らは冗談を言ったりして普通の若者に見え、毎日誰かが命を落としている戦場の兵士だということを忘れそうになる。

122ミリ榴弾砲の砲撃。轟音とともに煙で周りが見えなくなる。耳栓を持参してよかった。砲撃の撮影の際は、鼓膜をやられないよう少し口を開けること、と遠藤さんにアドバイスされる。戦場取材のノウハウを教わった。

砲撃すれば、敵にこちらの場所を知らせることになる。反撃でやられないよう、撃った直後は走って地下壕に飛び込む。地下壕の中にもスターリンクが通じていてスマホでネットが使える。他部隊との連絡もスマホでやっていた。

 緊張の連続だったが、兵士たちはフレンドリーで、私たちと冗談を言って笑い合うこともあった。上官の前でカメラに向かって「戦争が長びいて疲れた、家族が恋しい」と率直に語る兵士も。そんな彼らにとって、スターリンクのおかげで塹壕の中から家族と話をすることができるのは大きい。このこと一つとっても、国際的な支援の重要性がわかる。

きょうは戦闘一色なので、ちょっと笑っちゃう写真一枚。ウクライナ軍の「余裕」も感じさせる。

帰路の夕暮れ。地平線まで平原がつづくなか、「あれ、山がある」と思いきや、ボタ山だった。ウクライナ東部は炭鉱がありこれをもとに重工業が発達した。通訳はいまロシアが占拠するドネツク市出身で、子供の頃、ボタ山で遊んだ記憶を話してくれた。

つづく