ジャニー喜多川問題を報じなかったマスコミの罪

 今週、旧友に招かれて信州に遊んだ。田植えが終わった青々とした田んぼと黄色く実った穂が揺れる麦畑が美しかった。

麦秋の信州(上田市

 そろそろ山形のさくらんぼが出てくる。私の実家近くの農家に聞いたら、今年は天候不順で収量が激減し、来年の3割しかとれないだろうという。気候変動も影響しているのだろう。この時代、農業も大変だ。

 

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 ジャニー喜多川(本名、喜多川擴ひろむ)氏による少年への性加害、いわゆるジャニーズ問題で、きょう17日、TBS「報道特集」が画期的な特集「検証・ジャニー氏性被害2度の裁判とメディアの責任」を組んだ。この問題をTBSを含む日本のマスコミが報じなかった経緯を検証した特集だ。

 ジャニー氏による性加害に疑惑の目が向けられたのは、今から60年も前のこと。

 豊島区にあった「新芸能社」にジャニー喜多川氏が入ったのは1962年。これから芸能界に出ようという若者たちが泊まりこんでいたが、性被害の疑いでジャニー氏は追いだされ、初代ジャニーズの4人を引き連れ独立した。その後金銭問題をめぐる裁判にも発展し、ジャニー氏の性被害についても取り上げられた。

私の世代なら誰でも知っている顔だ(報道特集17日OAより)

 1967年、東京地裁で行われた証人尋問には当時人気絶頂だった「ジャニーズ」の4人も出廷し、「覚えてません」と性被害を否定した。68年、東京地裁は「証拠がない」として性被害を認定しなかった。ところが、20年以上たってメンバーの一人、中谷良は、『ジャニーズの逆襲』という本で、事前に答弁の言葉は決められていたこと、裁判で「嘘の証言」をしたことを告白した。

 その裁判から20年たった88年。あのフォーリーブス」の北公次が『光GENJIへ』という本を出版、ジャニー氏から受けた性被害を赤裸々につづった。これを機に、ジャニーズ事務所元所属タレントたちが次つぎに告白本を出した

次つぎに出た告白本(報道特集より)


 そして99年10月から週刊文春が14週にわたって、ジャニー氏にセクハラ行為などがあったとするキャンペーン記事を連載。これに対し、99年11月、ジャニーズ事務所ジャニー喜多川氏は「文藝春秋社」を名誉棄損で提訴した。

 証人尋問には、文春側の証人として元ジャニーズJr.のAさんとBさんが出廷した。法廷ではジャニー氏との間についたてが置かれ二人は性被害を克明に証言した。元ジャニーズJr.で性被害を実名で告白した二本樹顕理(にほんぎ・あきまさ)さん(39)は直接にAさん本人から性被害について聞いていた。当時ジュニアたちの間でジャニー氏の性加害は周知の事実だったという。

「これ(性被害を受けること)は通っていかなければならないことだという理解になっていて、性被害にあった体験をお互いに語り合うのも普通になっていた。感覚が麻痺していた」(二本樹さん)

「社会全体で被害に遭った人たちを適切にケアしていけるようになってほしい」と二本樹顕理さん(報道特集より)


 文春がわの代理人をつとめた喜田村洋一弁護士は、裁判で二人は相当な覚悟で証言したと話す。記事の中でセクハラをされたと言った少年は10人ぐらいいたが、証言することに同意したのはAさん、Bさんの2人だけだった。他の8人は名前も出さないでくれと言った。「当時絶対的な権力を持っていたジャニーさんにされたことは二人のすごい心の傷になっていた。それを(法廷で)本人がいる前で話すのはどれほど大変だったかと思う。」(喜田村弁護士)

喜田村洋一弁護士(報道特集より)。(以前、私が制作した番組で名誉棄損で訴えられた時、喜田村さんに代理人をお願いしたご縁がある)

 二審の東京高裁は、セクハラに関する記事の重要な部分について「真実である」と認定。2004年、最高裁で判決は確定した。この裁判は日本ではほとんど報じられなかったが、米紙「ニューヨーク・タイムズ」は”In Japan, Tarnishing a Star Maker”(日本のスターメーカーに汚点)との見出しでジャニー氏の性加害について報じた。(00年1月30日)

 その3カ月後、問題は国会でも取り上げられたが、日本のメディアは依然として沈黙を貫いた。

 今年イギリスBBCが報じたことをきっかけに被害者たちが実名で次々に声を挙げた。

今月5日、3人が会見(報道特集より)

カウアン・オカモトさん(報道特集より)

 これについて藤島ジュリー景子社長は「知りませんでした」と文書でコメント。番組からの質問には応じない旨回答した。

 「週刊文春」が報じたのになぜ他は報じなかったのか。元AERA編集長で「週刊朝日」の編集部にもいた浜田敬子さんは、男性の性被害についての認識不足や芸能界のスキャンダルと軽く見る傾向があった、報じる姿勢が甘かったと反省する。さらに「ジャニーズのタレントさんに(雑誌に)出てもらうと、非常に(雑誌が)売れる。かなり部数には大きな影響を及ぼす。(出版社が)ジャニーズタレントのカレンダーを作っていたりするので、何かジャニーズのことを書こうとすると他の部署から頼むから書いてくれるなと」圧力がかかるという。

 浜田敬子さんの反省は、私にもグサリと刺さる。私自身、噂には聞いていたが、芸能界は特別で世間の常識と違うのだろうと思い、問題として取り上げる意識はなかった。反省しなければならない。

 音好宏上智大教授(メディア論)は、テレビ界では芸能界との付き合いに対する忖度が働いてタブー視されてきたという。テレビの様々な部局がジャニーズ事務所はじめ芸能プロダクションと密接な関係を持っており、経営つまりお金のことが優先されて臭いものにはフタをするわけだ。

今放送中のNHK大河ドラマも主役級はジャニーズだのみだ。視聴率対策としてはこうなるのだろう。

 メディアが報じなかったことで、最高裁判決が出たあともジャニー氏による性加害は続いていた。つまりメディアの沈黙によって新たな被害者を出してしまったのだ。

 日本のメディアは痛切な反省をすべきだと報道特集はスタジオで自己批判した。しかし、未だにきちんと報じていないテレビ局もある。

(つづく)