日本もミャンマーに標的制裁を

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街を歩くとタチアオイが目立つ。ここ数年明らかに増えていると思うが、育てやすいとか何か増える理由があるのだろうか

 ミャンマーのクーデター政権は、きのう紹介したように「政府」を発足させ、本格的に既成事実化をはかる動きに出ている。

 ロシアは武器市場として軍事利権が、中国は経済利権があり、国軍のクーデターを追認している。二つの常任理事国がこれでは、国連は動けない。

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6月、ミンアウンフライン総司令官はモスクワを訪問。多くの高官に会い、ロシアが後ろ盾であることを見せつけた

 東南アジア諸国連合ASEAN)は、加盟10カ国の全会一致での意思決定が原則で、タイ、カンボジアベトナムなどが足を引っ張って明確な態度を打ち出せないでいる。

 日本は強い非難声明を出す一方で、「国軍との太いパイプ」を強調して独自の立場をとってきたが、実際には何の役割も果たしていない。「パイプ」といっても、数名の個人がミンアウンフライン総司令官と電話で(あるいは会って)話せることを意味し、話しても総司令官の機嫌を損ねるようなことは伝えられないでいる。

 では、どうすればいいのか。
 ミャンマー問題に詳しく、私もお世話になった根本敬上智大教授は以下のように提言している。

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根本敬教授


 4月16日、不服従運動の広がりを追い風にして、クーデターで政権を奪われた与党の国民民主連盟(NLD)と親NLD系の少数民族政党が中心となり、国民統一政府(NUG)が結成された。
 いまミャンマーには、正統性ゼロでも国土の8割を支配する国軍(クーデター政権)と、オンライン政権とはいえ国民の支持を得ている正統政権のNUGがある

 仲裁外交が全く機能しないなか、現状を改善に向かわせる方法としては、国際社会ができる限り一致して、正統性に決定的に欠ける国軍と国軍幹部個人、それを支える関係企業に対する標的制裁を行なうことが必要だ。一部の先進国が実施しているような、軍事政権の収入源をターゲットにした標的制裁を強める方法をとるしかない。

 国家全体ではなく人権侵害を犯した個人と団体(軍・政府部局などの組織)に範囲を絞って制裁を行なうことができるマグニツキー法(グローバル・マグニツキー人権説明責任法)の制定が求められる。G7では日本だけが未制定だ。
 
 日本は2019年度のODA1900億円の縮小や停止を検討している。これはとりあえず日本の最大の準制裁カードだが、まずは完全実施をすべきだ。そして、国軍が、暴力停止、拘束者の解放、NUGとの話し合い開始など、妥協の姿勢を見せるのであれば、段階を踏みながら停止を解除するなどの基準を設けることが大事だ。

 並行して正統性を有するNUGとの関係を強化することも大切で、日本政府もNUGとの交渉を開始すべきだ。(『世界』8月号より)

 これもできない、あれもダメというなか、消去法でこれだけはやろうという提案で合理的だし説得力がある。

 9月の国連でのミャンマーの代表権確定で加盟国は「踏み絵」を踏むことになるが、日本政府にとっても正念場だ。「太いパイプ」などと思わせぶりはやめて、明確な態度を見せるべきだろう。