光合成が起こした地球の大革命

 きのうは自転車で遠出して紅葉狩り新座市の(金鳳山)平林寺に行ってきた。片道16~17kmでいい運動になった。

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 はじめて訪れたのだが、緑豊かな風情あるすばらしい場所だっだ。

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紅葉のピークは来週以降とのことだが、紅葉し始めた葉も美しい

 まず、境内の植生面積がとんでもなく広い。雑木林としては国内唯一の天然記念物指定で、およそ43h(東京ドーム約9個分)が指定範囲となっているそうだ。

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静かな林がどこまでも続く。「永遠」を感じる

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かわいいお堂も。明の僧、独立禅師の像を祀る「戴渓堂」

 上皇は2回、美智子妃とここを訪れ、こんなお言葉をのこしている。
 「このかけがえのない武蔵野の自然を訪ねる訪ねる人々が、生態系の微妙な仕組みに十分留意することによって、美しく豊かな自然が保たれ、いつまでも人々を楽しませてくれるよう願っております」(昭和52年11月10日)
 「生態系の微妙な仕組み」とは上皇らしい。

 拝観料500円とちょっと高いが、古い建物や史跡も多く、歴史散歩も楽しめる。

 平林寺は、お寺の解説によると、700年近く前、南北朝時代の永和元年(1375)、武蔵国(むさしのくに)埼玉郡、現在のさいたま市岩槻区に創建。開山には鎌倉建長寺住持の石室善玖(せきしつぜんきゅう)禅師が迎えられ、山号「金鳳山」は、石室禅師が元に渡って修行した金陵の鳳台山保寧寺に由来する。寺号は、寺の伽藍が平坦な林野に見え隠れする様子から「平林寺」とされた。

 戦国時代、関東一円は豊臣秀吉による小田原征伐の戦禍を受け、平林寺も多くの伽藍を失った。関東に領地替えとなった徳川家康が鷹狩に訪れたさい休息のために立ち寄り、寺の由緒を聞いて再興を約束、復興資金と土地を寄進したという。さらに家康は、今川家の人質だった幼少期に世話になった駿河臨済寺出身の鉄山宗鈍禅師を、平林寺住持として招聘した。天下をとる前の天正20年(1592)のことだった。

 平林寺は家康の家臣として三河国から共に上京した大河内秀綱が、寺の大檀那となって山門や仏殿等の伽藍の再建を行った。
 秀綱の孫で、松平家の養子となった松平伊豆守信綱も徳川家に仕え、第3代将軍家光、第4代将軍家綱のもとで幕府老中を務め、その才知から「知恵伊豆」と呼ばれた。平林寺は松平一族の菩提寺となり、岩槻にあった平林寺は、寛文3年(1663)信綱の遺命によって、現在の野火止(のびとめ)に移転された。

 ここには、信綱が開削した玉川上水から分水された野火止用水が流れ、一帯の農業を支えることになる。野火止用水については次回に。
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 「玉川上水46億年を歩く」プレウォークの地球史解説のつづき。
 11月14日、第3区(鷹の台駅三鷹駅)の9.6kmを歩いた。プレウォークは隔週で行われている。この日は小金井公園で解説した。

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 きょうは、おおよそ30億年から20億年前くらいを歩く。
 このあたりは、目に見えないような小さな生物ばかりで、「たいくつな10億年」などと呼ばれている。しかし、生物史の大革命、地球史にとっても特筆すべき大事件が起きた。

 その一つはなんと言っても、酸素を出す光合成を行う生き物が登場したことだ。
 まず、光合成とは何かをおさらいしてみる。
 光合成とは、太陽光線をエネルギーを使い、二酸化炭素と水を原料にして栄養(炭水化物)を作り酸素を出す反応をいう。
 その化学式は、
 CO2(二酸化炭素) + 2H2O(水) → (CH2O) + H2O(水) + O2(酸素)
 CH2Oは炭水化物で、グルコースブドウ糖)はC6H12O6、グルコースの集合体のデンプンは (C6H10O5)n

 地球にはそれまで酸素は(ほとんど)なかったが、ここから酸素ができはじめる。その結果の一つは、オゾン層が形成されて、地球の表面全体が生物にとって安全になったことだ。いまオゾン層は地上20~40kmにあって、生命にとって有害な紫外線をほとんどブロックしてくれている。
 紫外線は皮膚がん、肌の老化や白内障の原因になるとされ、UVクリームやサングラスなどの対策が勧められるが、上空でほとんどブロックされ、ごくわずかしか漏れてこない紫外線ですら、これほど危険なのだ。

 では酸素とオゾンはどう関係するのか。
 酸素O2が大気中にあると紫外線の作用で原子OとOに分解され、再び結びついてO3になるものが出てくる。このO3がオゾンだ。オゾンは酸素から作られたのである。

 酸素を出す光合成を始めたのはシアノバクテリア。シアン色(緑がかった青)の細菌だ。

 光合成の開始には大事なお膳立てがあった。
 前回、「鉄の惑星」である地球に磁場ができて、生命に有害な宇宙線太陽風が地上に降り注がないようになったことを解説した。そのために深海にいた生き物が浅瀬で生きるられるようになり、浅い海に差し込む太陽光でシアノバクテリア光合成を始めたのだった。
 ここから生き物の三つの大敵、宇宙線太陽風、紫外線が排除され、地球の表面は安全になった。これがのちに生命が海から陸上に進出し、大繁栄することを可能にする

 24億年前には一定の濃度の酸素が地球にあったことが分かっているので、シアノバクテリアはその前のどこかで光合成を始めたのだろう。

 光合成が行われている浅瀬の海のいたるところで、ごく小さな泡がプクプク立ちのぼり、気泡が水面でプチっと破裂してわずかな酸素が大気に放出される。こうしてシアノバクテリアのその営みが何億年もかけて少しづつ少しづつ地球に酸素を増やしていったかと想像すると感動をおぼえる。

 さて、光合成のおかげで上から降り注ぐ危ないものは取り除かれたが、実はシアノバクテリア以外の生物にとって酸素が増えるのは大迷惑だった。
 生命はもともと酸素のないところで40億年ほど前に創発し、酸素なしで生きてきた。酸素は必要なかったのだ。
 酸素は非常に不安定で、何にでも結びつくという性質がある。例えば鉄に結びついてサビ(酸化鉄)をつくる。酸素が結びつくことを酸化といい、酸化して分解してしまうのだ。
 生命にとっては、たまってものではない。

 酸素が海中と大気中に増えていったことで、大量の生き物が絶滅した。22億年前にあったこの生物の絶滅は「酸素ホロコーストと呼ばれる。

 地球の生命史をみると、生物の絶滅は20回ほど起きており、うちもっともはげしい5回を「ビッグファイブ」というが、実はこうした生命の絶滅期は生物進化を加速することが多い。なぜか絶滅期のあと、生物が一気に高度化、多様化するのだ。
 
 「酸素ホロコースト」のあとに現れた救世主のスターが「真核生物」だった。
 それまでの「原核生物」は、細胞膜の中にDNAが入っているだけの単純な構造だが、「真核生物」では細胞の中にもう一つの膜(袋)があってDNAはその中に整理され、その他に様々な機能をもったもの(細胞小器官)を持つようになる。多機能化したのである。
 その細胞小器官の一つ、ミトコンドリアこそ、生物が酸素とともに生きられるようになった立役者だ。酸素をつかってエネルギーを引き出すミトコンドリアは「細胞の発電所」といわれる。
 生き物にとってとても危険だった酸素は、うまく利用すれば非常に効率よくエネルギーを取り出せる。ここから生物は巨大化し進化のスピードが速められた。

 「真核生物」の出現は生物進化の大きな節目となり、ここから「性」による生殖、植物と動物の出現などへと道を拓いたのだった。

 さて、以上のような生命と環境のダイナミックな相互作用が分かってきたことから、私たちの「環境」を見る目は大きく変わってきた。
 以前は、「生物と環境」というふうに二つを別々にとらえ、環境が一方的に生物の生存条件を規定し、生物はそれに適応するかどうかが問題で、適応すれば生き延び、適応しなければ死に絶える、と理解されてきた。
 しかし、生物(シアノバクテリア)は環境に一方的に適応するのではなく、大気の組成をはじめ地球環境をガラリと変えたりもする。そして、その変わった環境のもとで生物が(酸素で生きるように)自己変革して進化する。このプロセスからは、地球環境は生物が作り上げてきたものでもあり、地球が一つのエコシステムを成していることがわかる。
 さらにミクロのレベルでも生物と環境のあいだの微妙で緊密な相互作用がつぎつぎに解明され、1960年代にはイギリスのラブロックという学者によって「ガイア」という概念が打ち出された。「ガイア」とは、地球全体を一つの生命体のような自己調整システムとしてとらえるものだ。

 ここで一つクイズ。
 真核生物になって、植物と動物が登場するが、それらの違いはなにか
 「動物は動くが、植物は動かない」という答えは間違いではないが本質的な相違ではない。

 中学、高校で学んだと思うが、「植物は葉緑体をもっており、動物はもたない」という答えは正解。
 いま周りにたくさんの緑が見えるが、植物の葉っぱの細胞の一つ一つにすべて葉緑体が入っていて、この瞬間にも光合成をおこない酸素を出している。

 いま1,2の3でどれだけ息を止めていられるか試せば1分かせいぜい2分しかがまんできないと思うが。ヒトは10分酸素を絶たれると、ほぼ死亡する。その酸素は植物が作ってくれていることをあらためて確認したい。

 この葉緑体とは、じつはシアノバクテリアを真核細胞が中に取り込んだものだ。シアノバクテリアが変身したものと考えてよい。
 つまり、いま私たちは無数のシアノバクテリアに囲まれていることになる。そう考えると、風景が違って見えないだろうか。

 光合成で放出された酸素を私たちはどう使っているのか。
 肺から入った酸素は、血液のヘモグロビンで体のすみずみにまで運ばれる。そこで酸素に炭水化物を酸化させ、出てきたエネルギーを体が受け取る。結果、二酸化炭素と水ができ肺から大気中に放出される。
 この過程全体を「呼吸」という。このおかげで人体は36℃以上の体温を保っていられるのだ。
 これは、まるで光合成(太陽エネルギーで二酸化炭素と水から炭水化物と酸素をつくる)の逆のプロセスだとわかる。燃焼(酸素で炭化物を酸化して、二酸化炭素と水蒸気を輩出する)と同じことで、私たちの体が受け取るエネルギーは、もとをただせば、光合成で取り込んだ太陽エネルギーだ。この自然の妙には驚くしかない。

 植物と動物のもう一つの違い、こんどは動物にあって植物にないものはなにか。
 答え。動物には「口」がある。なぜか。
 動物は自分で栄養をつくれないから、探して外から採ってこなくてはならない。
 一方植物は光合成で栄養(炭水化物)を作れるので動く必要がない。動物が動き、植物は動かないのは、この違いの結果だった。

 植物だけが栄養(炭水化物)を作ることができる。だから動物が植物を食べ、その動物を別の動物が食べる。草食動物を肉食動物が食べる食物連鎖である。

 こうした地球の生物の成り立ちとシステムをしっかりわきまえれば、ことさらに「緑を大切に!」などと言われなくても、植物が元気で生きられる地球にしたいと自然に思えるはずだ。

 最後に、またクイズ。
 シアノバクテリアが地球環境に大革命を起こしたが、もう一つ別の生物種が大気の組成など地球環境を変えた。それは何という生物か。

 それはわずか20万年前に地球に現れた私たちヒトだ。温暖化物質を大気中に放出して組成を変え、気候危機を招くというすさまじいことをやってきた。
 このままだと、さらに多くの生物種を絶えさせ、せっかく生き物たちが営々と築いてきた地球を破壊してしまう。
 他の生物から「ヒトは生き物の風上にも置けない」と言われないようにしたい。