フリーランスの金と自由

 オーストラリアの旅から。

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 私が泊ったモーテルは、主にオートキャンプ客用の施設で、広大な駐車場にキャンピングカーが何台も停まっている。衛星アンテナやボート、さらにはペットまで携えて休日を楽しんでいる。木陰でのんびりと本を読む老夫婦の姿にはうらやましさを感じる。

 白い犬を散歩させている老婦人と挨拶を交わしたら、近づいてきていろいろおしゃべりした。退職して夫と4ヶ月オートキャンプの旅をしているという。4週間ではなく4ヶ月。豊かである。孫娘が日本語を学んでいて日本に留学したが、東京は人が多すぎて適応できなかったそうだ。ここの暮らしのありように身を置くと、さもありなんと思う。

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 急に真夏日がきた。オーストラリアの熱帯より暑い。
 きのうは第6回山本美香記念国際ジャーナリスト賞の授賞式が日本記者クラブであった。今年は対象者なしで、「奨励賞」が大川史織氏(31)に贈られた。

 

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 大川さんはマーシャル諸島で餓死した日本兵の日記を手掛かりに70歳代の息子が辿った慰霊の旅を追ったドキュメンタリー映画「タリナイ」と書籍『マーシャル、父の戦場 ある日本兵の日記をめぐる歴史実践』が評価された。大川さんは大学を出てから3年もマーシャルに住みこんだという。志と行動力を兼ね備えた若い人たちが次々に出てくるのは頼もしい。
 この賞の対象者は女性に限っていないが、第1回(伊藤めぐみ)、第4回(林典子)、第5回(笠井千晶)そして今回と女性の受賞者が目立つのもうれしい。
 式のあとは、シンポジウム「ジャーナリズムと民主主義」が歴代受賞者を招いて行われた。これには、シリアでの拘束中に第4回の「特別賞」を受賞した安田純平さんも参加した。

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 印象に残ったのは、司会の野中章弘さん(早大教授)が「フリーランスとしてプレッシャーに感じることは?」との質問。安田さんがすぐに「それはお金ですね」と答え、隣の桜木武史さん(第3回受賞者)に「そうだよね」と同意を求めると、桜木さんも笑ってうなづいた。桜木さん「でもお金がないこと自体はあまりプレッシャーには感じない。逆にどこかから100万円もらって取材するのはもっとプレッシャーになる。だからフリーランスの方がいい」という。林典子さんも「そもそも写真で食べていこうとは考えていない。別の仕事でお金を稼いで、撮りたい写真を撮ればいいと思う」と発言した。全体として、やりたいことをやるにはフリーランスとして生きたいという話になった。

 シンポジウムが終わって桜木さんと話していたら、明日も4時起きなので早く帰らなくては、という。彼は毎日トラックの運転手をして暮らしを立てているのだ。

 詩人とジャーナリストは職業ではないという。誰でも名刺に詩人と書けば詩人だが、それで食べているわけではない。この賞の受賞者たちは、この世界では相当の実力者であるが、その彼らにして、ジャーナリストを続けるのにバイトで生活を支えなくてはならない。彼らの意気軒昂な発言には敬意を表しつつ、この現状で日本のジャーナリズムは大丈夫なのかと心配になった。
 「食べられるジャーナリズム」をめざして会社を立ち上げたものの、なかなかお金が稼げない上に、仕事でジャーナリズムを実践できているか疑問になっているわが身をも振り返って、いろいろ考えさせられた夜だった。