共産の変心で「普天間」意見書見送りに

 物事が思うようにいかないといろいろ考えてしまう。そもそも自分の役割とは何なのか。何をどうすべきなのか。この仕事を続けていっていいのか。

 わだかまっていたが、高橋源一郎の文章で少し癒され、励まされた。彼は私より2歳上の1951年生まれだ。
 《僕は天才ではないので、今も時々スランプに陥ることがあります。小説のアイディアが見つからない、文章が書けない―。そんな時は「チャンスがきたーっ!」と前向きに捉えるようにしています。スランプだからといってすべてがゼロになるわけではなく、逆に自分の中でバージョンが新しくなっていく感じなんだと思っています。
 そんな僕も67歳になりました。老人になるって結構楽しいことなんですよ。もう怖いものがなくなる感じ(笑)。守るべきものがある40代とか50代のほうが保守的なんじゃないかな。“炎上”しちゃうから言えなかったこととか、腰が引けてできなかったこともどんどんやってみたい。過激な老人を目指していきたいと思っているんです。》(The Big Issue No343)
 
 たしかに「老人になるって結構楽しい」というのには同感だ。人生の大きな流れを俯瞰できるようになる。また、いま自分に起きていることを、これでいいのだと思えるようになる。闇夜を手探りで迷っていた若い頃には戻りたくない。
 さて、私も「過激な老人」を目指そうか。
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 沖縄問題に関する意見書が東京都小金井市議会で可決しそうになったのに、共産党の「心変わり」でお蔵入りになろうとしている。画期的な意見書だったので、とても残念だ。以下、東京新聞琉球新報の記事からざっと事態を説明する。

 沖縄出身で小金井市在住の米須清真(こめすきよさね)さん(30)が、「沖縄に米軍基地が偏在している状況を変えるため、国全体で議論を起したい」と、市議会が国に対し移設の中止などをもとめる意見書を提出するよう陳情したことから話ははじまる。
 意見書は、辺野古への移転中止と普天間飛行場の運用停止を求め、さらに、基地問題への当事者意識を持ってほしいと、「普天間の代替施設は沖縄以外の全国すべての自治体を候補地とし、代替施設が国内に必要か否か国民的議論を行い、一地域への押しつけにならないよう公正で民主的な手続きで決定する」と盛り込んだ。
 このブログで、米軍基地を「引き取る」運動があることを紹介した。米軍基地を沖縄にだけ押し付けるのではなく、本土の我々も負担しましょうよというものだ。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20180225
 この意見書はその方向に沿った議論を呼びかけるもので、非常に重要な問題提起をしている。米須さんは同様の意見書を国に提出するよう各地の議会に働きかける市民グループ「新しい提案実行委員会」の一員で、たった一人で市議会の各会派を訪ね、陳情の趣旨を説いて回ったという。陳情は9月25日の市議会で反対が自民党会派と無所属の6、公明が退席、共産党4人や旧民進党系会派3人など賛成13で可決された。
 ところが、共産党市議団がすぐに態度を変える。
《10月5日の本会議に先立つ議会運営委員会で、共産党小金井市議団の水上洋志市議が「陳情は沖縄以外の全国全ての自治体を等しく候補地とすることが明記されており、わが党の基本的立場と異なっている。陳情に賛成した共産党市議団の態度は間違っていた」と賛意を翻し、陳情者から提案された意見書にも賛成できないとの立場を明らかにした。その上で陳情者や賛成した市議らに陳謝した。》琉球新報10月7日付)
 琉球新報は《共産市議が賛成撤回で「普天間」意見書見送り 東京・小金井市議会》という見出しの大きな記事で、この事態を取り上げた。陳情の提案者や関係者は、共産党の「翻意」を批判した上で「論点が浮き彫りになった」「沖縄の自由を奪っている構造が明らかになったのはとても重要だ」と指摘している。

 共産党のドタバタは、おそらく、いったん共産党市議団が賛成した意見書案を党中央がチェック、基地の移設先を「全国の自治体を候補地とする」という点に拒絶反応を起こし、市議団をどやしつけて土壇場で潰しにかかったのだろう。共産党は米軍基地の存在そのものに反対なのだから、どこに作られようと基地は認められないというのだろうが、それでは、沖縄だけに米軍基地を押し付けている現状への政策的な対案を提起することはできない。沖縄問題はイデオロギーではないという、故翁長知事の言葉を思い起こすべきではないか。
 この意見書には、基地問題に関心を持つ人々が大きな期待をしていただけに、共産党の対応にはみな愕然としている。12月議会までに共産党が目を覚まして、採択への道が開けることを祈る。以下は琉球新報の訴え。正論だと思う。

《米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の中止を掲げ、国内全体で議論する必要性を訴えた陳情に伴う意見書提案を小金井市議会は見送った。いったんは陳情に賛成した共産党会派が賛意を翻す異例の事態となったからだ。陳情を採択した議会としての責任も問われる。沖縄の基地負担を自分の事として考える全国的な動きの先駆けとして注目されていただけに、賛成撤回はその流れに逆行していると言わざるを得ない。
 内閣府世論調査によると国民の77・5%が日米安保は役立っていると答え、81・9%は日米安保自衛隊で日本の安全を守ると回答している。
 保革の区別なく沖縄の歴代知事は「安保容認なら国民全体で応分の負担を」と本土に訴え続けてきた。民主党政権時代、普天間飛行場は「最低でも県外」という公約が辺野古移設に回帰し、沖縄への負担押し付けが一層可視化され、構造的差別がより強く指摘されるようになった。
 その一方で、沖縄の訴えに呼応する形で、本土の側から国民全体で議論しようとする動きが出始めた。翁長雄志前知事の提案に応え、全国知事会日米地位協定改定を要求した。
 小金井市議会の陳情採択はその流れの一つに位置付けられる。陳情は「普天間基地の代替施設の移設場所は当事者意識を持った国民的な議論で決定すべきだ」とした上で「国内に(代替施設が)必要だという世論が多数を占めるなら、公正で民主的な手続きで決定することを求める」と訴えている。本土での移設先を決めることより国民的議論の喚起に重点が置かれている。まずはその認識が不可欠だ。》