自爆するトランプ


 トランプがまたやらかしてしまった。
 イスラエル建国から70年を迎える14日、米国は在イスラエル大使館を商都テルアビブからエルサレムに移した。トランプ米大統領エルサレムイスラエルの首都と宣言したことを受けて、「エルサレムの地位はイスラエルパレスチナの和平交渉で決める」としてきた従来の中東政策を転換させた。パレスチナ側は猛反発しており、米国が主導する形での中東和平交渉は絶望的になった。》(朝日新聞)
 激しい抗議が巻き起こったが、これにイスラエル軍が実弾射撃を行い、多数の死傷者が出ている。
 《ガザ保健省によると、14日午後6時(日本時間15日午前0時)現在、イスラエル軍の銃撃などで子ども6人を含むパレスチナ人43人が死亡、2200人超が負傷した。》
 イスラエル当局は力で反対を押さえこむ自信があるのだろう。
 これまで、曲がりなりにも米国が仲介者として振る舞い、何とか交渉による解決をする試みがあったが、今回のことですべてご破算になった。
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 ETV「紛争地から声を届けて」という番組があった。来日したイスラエル人ジャーナリストのアミラ・ハス氏を紹介するもので、ハス氏はユダヤ人でありながら、パレスチナ人とともに暮らして、彼らの声を世界に発信している。
 彼女の両親は迫害された東欧からイスラエルに移住してきた。両親もハス氏もともに、迫害されてきたいわば被害者としての立場と、パレスチナ人を迫害するイスラエルの国民としての立場との矛盾に悩みながら生きてきたという。
 厳しい道を歩んでいることに敬意を持つ。ユダヤ人にこういう人がいることは、わずかな救いである。

 ハス氏は言う。「パレスチナ人たちは、人生のあらゆる場面で、毎日構造的な暴力が振るわれているのです」。いまや分断壁がはりめぐらされ、パレスチナ人の居住地は「ポケット」と呼ばれる孤立した小さな集落に押し込められている。今の抑圧体制をハス氏は「軍事占領、進行中の植民地化プロセスそしてアパルトヘイト体制の複合なのです」という。もう身動きできないほどがんじがらめにされているというわけである。

 パレスチナ問題を論じるとき、「イスラエルパレスチナという当事者たちが決めるべきことだ」とよくいわれる。しかし、パレスチナ人たちは「当事者」たりえないところに落とし込められている。
 パレスチナ自治区の集落のリーダーのなかには、抗議行動を抑えにかかるものもいるという。それは、イスラエルに弾圧の口実を与え、さらに不利な生存条件を課せられることを怖れるからだ。圧倒的な力による弾圧が日常化し、声を上げる事すらためらわれるのだ。

(この支配地息の変遷(緑がパレスチナ)を見ると恐ろしくなる)
 今回のアメリカ大使館移転が強行されたことには、ごく穏健な、いわばノンポリイスラム教徒でさえ、強烈な反発を抱くに違いない。当面のパレスチナ人たちの反抗は抑え込めるかもしれないが、中東そしてイスラム社会へのインパクトは今後も広がっていくだろう。
 トランプはみんなで消そうとしている火に油を注いでいる。そして米国自身の権威を凋落させている。トランプを見ていると、「自爆」という言葉が思い浮かぶ。