坂茂Projects in Progress

 先日書いた、アフガンで奮闘する中村哲さん。私は掛け値なしに世界に誇れる日本人として紹介できると思う。
 内村鑑三の「代表的日本人」のひそみにならって、もう一人素晴らしい日本の誇りを紹介したい。
 TOTOギャラリー・間」で、建築家、坂茂さんの「SHIGERU BANプロジェクツ・イン・プログレス」が、先週まで3カ月にわたって開かれていた。ぜひ見なくてはと、17日の最終日に行ってきた。坂さんには、7年前に「情熱大陸」で取材するご縁をいただいて以来、注目している。
(ラ・セーヌ・ミュジカル)
(スウォッチ本社と工場)
 完成したばかりのフランスのラ・セーヌ・ミュジカルやいま進行中のスイスのスウォッチ・オメガ本社と工場など新しいプロジェクトが展示の中心だったが、坂茂さんといえば、被災地支援、熊本、ネパールなど近年の被災地での活躍も見ものだった。
 東日本大震災後には、避難所でのプライバシーを守るための間仕切りを提供したことがニュースになった。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20110414
 間仕切りは、阪神大震災のときに考案し、その後、改良を重ねて進化している。柱は紙管(しかん)だ。トイレットペーパーやサランラップの厚紙の芯の部分が紙管で、このもっと大きく長いものを坂さんは仮設住宅や間仕切りに使う。
 世界中どこでも安く手に入り、余震で倒れても怪我をしない。軽くて大量に輸送でき、素人にも簡単に組み立てられる。そして施設が要らなくなったらリサイクルできる。 
 去年の熊本地震でもその間仕切りを提供している。さらに、御船町の依頼で、木造仮設住宅の設計も行った。どこも仮設住宅の建設で大工さんがいない。そこで誰でも素早く簡単に作れる独特の工法を開発。隣の音が筒抜けになるという仮設の欠点を克服しようと隣室との間に作り付けの収納を設置するなど、様々な工夫をほどこしている。
(熊本木造仮設住宅のモデル)

 2014年、坂さんは、「建築界のノーベル賞」とも呼ばれるプリツカー賞を受賞した。
 審査委員長を務めた英国のピーター・パルンボ卿は、受賞理由を以下のように述べている。「自然災害などで壊滅的な打撃を受けて家を失った人々に対して、自発的な活動を展開する坂氏はまさに第一人者だ。深遠な知識によって、最先端の素材や技術を追求する姿勢も絶やさない」。http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/building/news/20140324/656349/
 災害支援はつねにボランティアだ。お金にならないどころか、大きな持ち出しになる。しかも売れっ子で超多忙のなか、支援に時間と労力をひねり出すのは大変なことだ。
 大御所といっていい建築家の坂さんが、被災者に目を向けるのには、彼の人生哲学があった。
(つづく)