被災地の「こころ」


 ここは赤坂の「東北バル・トレジオン」。
 いぶりがっこ入りポテトサラダ」から「仙台の牛タンステーキ」までメニューは東北一色。注文するたびに話がはずむ。岩手県陸前高田どぶろく風の酒(活性原酒というらしい)「雪っこ」は甘くてうまい。
 きょうは宮城県亘理町(わたりちょう)から臨床心理士の木原英里子さんが研修で上京したので、フリーディレクターのNさんと一献傾けることに。
 木原さんは2年前の2016年3月に日テレの「NNNドキュメント」大 震災シリーズ「傷む心」に登場してもらった。こうやって今もお付き合いがつづくのはありがたいことである。この番組は、被災地の癒えない心の傷と、ケアを続ける支援スタッフの活動をドキュメントしたもの。

 以下、番宣。
《東北の被災地では一見して生活再建が進むが、心に癒えない傷を抱えた被災者がいる。 津波で妻を失った複雑性悲嘆の夫。震災でアルコールの量が増えた夫、疲れ切ってしまった妻。一方で彼らと向き合い、支えようと奔走する支 援スタッフがいる。被災者の多くが仮設から復興住宅など新たな住まいに移るとされる2016年。今も消えない喪失の痛み。先が見えず深まる不安。壊れそうな家族の絆。5年目の「心の風景」とは。》
 木原さんはもともとは中国地方の出身だが、3.11後、被災地に移住して「心」の問題をケアしている。
 例えば、家庭内がぎくしゃくしていたある家族。3.11の震災を経て、夫はうつになり、家族に暴力をふるうようになった。しばらくして夫は自死。妻は子どもと残された義母を支えるために必死で働くが、家庭を見る余裕もなく、子どもは不登校に・・・。こんなふうに、家庭内矛盾が震災をきっかけに「激化」することが珍しくないという。心のケアは非常に重要だ。
 ただ、逆にいうと、被災地には重点的に臨床心理士はじめ専門家が投入されて日々リサーチ、インタビューしているから精神的な問題が「表面化」しているともいえる。他の地域は調査さえも不十分なので、心を病んでいる人は、公表される数字よりはるかに多い可能性がある。つまり、日本が抱える問題が被災地でクリアにあらわれる。「被災地は日本の縮図」というのはこういう意味なのだろう。
 震災はすっかり忘れられたかのようだが、木原さんのように、今も奮闘している人の話を聞くと、何かしなければという気持ちにさせられる。