政府はイスラム国と交渉する気があるのか?

takase222015-01-22

日本政府の方針がまったく不可解だ。

《政府は22日、過激派「イスラム国」とみられるグループから殺害警告を受けた後藤健二さん(47)と、湯川遥菜さん(42)を救出するため、グループとの交渉ルート確保に向け、中東諸国などとの情報交換を続けた。菅義偉官房長官は記者会見で、犯行グループから連絡はなく、2人の安否も確認できていないと説明した。現地対策本部を置くヨルダンや、イスラム国からの人質解放に成功した経験を持つトルコなどが頼りになりそうだ。
 英国を訪問中の岸田文雄外相は21日夕(日本時間22日未明)、イランのザリフ外相と電話会談し「情報収集、邦人の早期解放に向け、支援してほしい」と要請した。》(共同)
72時間で「悪夢になるぞ」と向こうが言っているときに、情報交換?協力要請?・・・
「犯行グループから連絡はなく」って、向こうから連絡してくるのを待つだけのか?
そして、二人の安否も確認できない・・・
なんと、いまだにイスラム国と直接接触することさえできていないようなのだ!
いったい、どういうことなのか。

東京にすむ後藤健二さんの家族に、「イスラム国」の関係者を名乗る人物からメールが届き、約10億円の身代金の支払いを要求してきたのが去年11月上旬。これはすぐに政府に通報されている。
また、後藤さんの取材に協力してきたシリア人通訳のアラッディン・アルズィームさんによると、10月25日にイスラム国に向かう直前、「1週間後までに連絡がなければ(家族や知り合いに)電話してほしい」と言われ、《11月1日ごろ、後藤さんの妻らに電話した。トルコの首都アンカラから日本大使館員が3回ほど事情を聴きに来たが、その後はなしのつぶて》だという。(朝日新聞22日夕刊)
後藤さんがイスラム国に拘束された可能性を日本政府が知ってから、2か月半以上経つことになる
去年8月に湯川さんの拘束が明らかになってからだと、もう5か月にもなる
そのかん、政府はいったい何をしていたのか。
今回の脅迫映像が出てからの政府の慌てぶりをみると、「人命第一」と言いながら、全く何もしていなかったのではないかという疑問がぬぐえない。

日本政府がまだイスラム国との交渉ルートを見つけられないでいるなか、ついに中田考さんと常岡浩介さんがそれぞれ会見を行い、交渉に尽力する用意があると表明した

まず、午前10時から、日本外国特派員協会で中田さんが会見。
http://blogos.com/article/104005/
《私被疑者の立場にありますので、出来る限り、マスコミの露出を避けておりましたし、イスラム国とのコンタクトも避けておりました。それは私自身にとっても問題ですし、先方に対しても迷惑が掛かるということもあったのですが、今回、こういうことで人命が掛かっておりますので皆様の前でお話しさせていただくことにしました。》
と話をはじめた中田さん。
以下のところはそのとおりだと思う、
《テロリストの要求をのむ必要はもちろんないわけですが、しかし、そのことと交渉するパイプを持たないということはまったく別のことだと思います。例え、無条件の解放を要求するとしても、実際に人質2人を解放するために安全が確保されるのか、その間、空爆を止めることができるのか、誰が受け取りに行くのか、どこで受け取りに行くのか。そういったことを正しい相手と、正しく話をするパイプがないことにはそもそも話になりません。》

さらに、中田さんは個人的な提言を語った。
《国際赤十字、中東地域では、赤新月社と言われていますが、ここはイスラム国の支配下のところでも人道活動を続けてきていると聞いております。ですので、私の提言といたしましては、イスラム国の要求している金額、これはあくまでも日本政府の難民支援に対して、それと同額のものということですので、これを難民支援、人道支援に限るということで赤新月社を通じ、そしてトルコに仲介役になってもらって、そういう条件を課した上で、日本はあくまでも難民の支援を行う。イラク、シリアで犠牲になっている人たち、その家族の支援を行うという条件を課した上で行う。これが一番合理的で、どちらの側にも受け入れられるギリギリの選択じゃないかと思っています。》
選択肢の一つとしてもよいと思う。ただ、具体策をうんぬんするには、まずは交渉をはじめなければ。

最後に中田さんは、アラビア語で、日本人の釈放を望んでいることを訴え、さらに《72時間という時間は、あまりにも短すぎます。時間をもう少しいただきたいと思っています。》とイスラム国向けに訴えた。
とりあえず、72時間のタイムリミットを外すようにもっていくのは交渉の定石だ。
多くの外国人記者の前で、英語とアラビア語で訴えるのは、いま考えられる良いアピール方法の一つだ。
政府が率先してやるべきなのに、やらないから中田さんがやったかっこうだ。

常岡さんは、同じ日本外国特派員協会で、午後3時から会見を行った。
http://blogos.com/article/104020/

常岡さんは、まず、去年9月の中田さんと一緒にイスラム国に向かったのが、拘束されている湯川さんの解放のためだったことを説明。10月の家宅捜索と被疑者扱いが、湯川さんの解放に否定的な影響を与えたと警察を非難した。

《家宅捜索のもっと深刻な影響がありまして、それは私が持っていたイスラム国関係の連絡先なども押収されたために、取材源の秘匿が不可能にされてしまったということです。他の秘匿するだけではなく、取材源の保護も難しくなってしまいました。 ですから、例えば私がオマル司令官に連絡をすると盗聴される危険性が大きくなる。向こうの連絡先がわかっているということは、逆探知されて、発信元を突き止められて攻撃されることもありえる。(略)
もし警察が妨害をすることがなければ、私は湯川さんにイスラム国で会えた可能性があったと考えています。私たちは彼の裁判に立ち会って無罪にする見通しもありました。というのも、彼は自分の日記に"シリアでイスラム教に改宗した"と書いていました。イスラム法では、改宗した人間は、改宗前の罪が許される。ただ、イスラム国はそれを知らないまま、裁判を行おうとしていますので、彼がイスラム教徒になったということを証明すれば、裁判で無罪を取れる可能性がある、助けることができたかもしれない。 もしそうなれば、後藤健二さんは無理してイスラム国の圏内にはいることはなかった。 言ってみれば、警察の捜査が、湯川さん後藤さんの危機的状況を引き起こしたとすら言えると思います。 (略)
72時間という期限が切られて初めて捜査本部が立ち上げられる。過去5ヶ月間、誘拐犯とのチャンネルが作れなかった捜査当局に、3日間で何ができるのか疑問です。この期に及んでも、私と中田先生を容疑者扱いしているからだと思うのですが、チャンネルになってほしいと言ってこない。外務省も同じです。邦人の命を救うつもりがあるのか、首を傾げざるを得ない
《どんな協力でもしようという意思を持っています。必要であればイスラム国にも行こうと思います。それでインターネットに、自分は救出活動に協力する用意があると書いたところでした。 今の所、日本の捜査当局、外務省からの協力依頼、それ以外からの接触もない状態です。時間が迫る中、なぜ日本の警察や外務省に積極性が見られないのか、疑問です。》

こんなことは考えたくないのだが、ひょっとして安倍内閣は、イスラム国とは交渉しないつもりなのでは?
脅迫ビデオの存在が明らかになってすぐの安倍首相の声明(20日エルサレム)には、
《人命を盾にとって脅迫することは許しがたいテロ行為であり、強い憤りを覚える。2人の日本人に危害を加えないよう、ただちに解放するよう強く要求する。(略)
政府全体として人命尊重の観点から対応に万全を期すよう指示した。今後も国際社会と連携し、地域の平和と安定のために一層貢献していく。この方針は揺るぎない方針であり、変えることはない。》とあるが、イスラム国との交渉の呼びかけや、交渉への前向きな言及はない。

さらには、人命はどうでもよくて、軍事面を含めた「テロとの戦い」を一段と強化しようとしているのでは?
そうではないと思いたいのだが・・・