怖れていた事態が起きてしまった。
イスラム国が8月に拘束した湯川遥菜さんとジャーナリストの後藤健二さんにナイフを突きつけ、身代金2億ドルを72時間以内に払わなければ「このナイフが悪夢になる」と脅してきた。
後藤さんは10月23日のツイッター発信を最後に連絡が途絶えている。
https://twitter.com/kenjigotoip
異常に早くから気がついていたのがジャーナリスト常岡浩介さんで、私は11月3日にこんなメールを彼にもらっている。
「シリアを取材していた後藤健二さんが帰国予定の(10月)29日を過ぎても連絡が取れず、講演会や雑誌のインタビューの予定などをすっぽかしているそうです」
この時点で「不測の事態が起きたと考えた方がよい」と私と常岡さんの見方は一致し、情報収集しようということになった。
後藤さんの知合いなどに問い合わせると、みな心配し、後藤さんの家族や、後藤さんが行動をともにしていたシリア人コーディネーターに問い合わせてくれたのだが、いずれも「何も話せないし、いっさい詮索しないでほしい」という反応だったという。
イスラム国に人質にされている可能性が最も高いと思ったが、もし、解放交渉など水面下の動きがあるのであれば、こっちが勝手に騒ぐわけにはいかないと思い、ずっと伏せてきたのだった。やはり捕まっていたのか・・・
このさい、分析は後回し。日本政府や安倍首相のいたらなさにも目をつぶる。
人命第一というのなら、政府は、とにかく二人の日本人の殺害阻止に尽力してほしい。
二つのことをやるべきだと思う。
まずは安倍首相が約束した2億ドルが、軍事用には決して使われないことを全力で訴えることだ。
この2億ドルとは;
《エジプトを訪問中の安倍晋三首相は17日、カイロで中東政策の演説を行い、地域全体で新たに25億ドル(約2940億円)相当の支援を表明した。過激派組織「イスラム国」の台頭や、パレスチナ和平交渉の見通しが立たない中で、首相は「日本は中東の伴走者」と位置づけて積極的に関与する姿勢を示した。(略)
25億ドルのうち、「イスラム国」への対応としてイラクやシリアなど最前線にある国や周辺国の難民・避難民支援などに総額2億ドルの無償資金協力を行う。首相は「ISIL(『イスラム国』の別称)がもたらす脅威を少しでも食い止める」と訴えた。》(朝日新聞)
黒ずくめのイスラム国の男は、この2億ドルがイスラム国に軍事的に敵対する目的の金だと理解している。彼はこう言った。
《あなたは我々の女性や子どもを殺したり、イスラム同胞の家々を破壊するために、誇らしげに1億ドル(約118億円)を拠出している。だから、この人の命を救うためには1億ドル必要だ。イスラム国の拡大を阻止するために、我々の聖なる戦士に対抗する背教者を訓練しようとさらに1億ドルも拠出した。これで、日本人を救うためにはもう1億ドルかかる。》
http://withnews.jp/article/f0150120005qq000000000000000G0010301qq000011417A
あらゆるメディア、とくに英語、アラビア語で流れそうなアルジャジーラやBBC、NHKワールドなどを重点に純然たる人道目的のお金だとアピールし「誤解」を解くことだ。
次には、常岡浩介さん、中田考さんの力を借りて、すぐに交渉に入ることだ。
日本政府は「関係国と協力しながら人質の解放に全力を尽くす方針だ」と伝えられるが、事実上何もできない。シリア政府、イラク政府はイスラム国の「敵」であって何の影響も与えられない。しかも72時間という時間制限があるのだ。
いま日本で、というより世界で、イスラム国幹部と直にやり取りできる人物は常岡浩介さんと中田考さんしかいない。
しかも二人は、拘束された湯川さんの通訳としてイスラム国に招かれている。向こうに信用されているわけだ。彼らほど適任の交渉窓口はないではないか。
それなのに、公安警察は10月あたま、二人の自宅をガサ入れし、「被疑者」として動きを封じてしまった。この措置を解除して、二人に協力をあおぎ、知恵を出してもらって、すぐにイスラム国と接触し交渉に入るべきだ。
さっき、常岡さんに「政府から接触は?」と聞くと、一切ないとのこと。
時間はない。重大局面で思い切った行動が求められている。