金賢姫招請には「覚悟」を

この間、せわしくてまともに新聞も読んでいなかった。
投票数日前に、オフィスでテレビをつけたら、中東問題の研究家として知られた大野元裕さんが出ていて立候補しているのをはじめて知った。それほど、ニュースについて無知だった。
そんな中でも、ちょっと時間があると北朝鮮関係のサイトはチェックしていた。「守る会」(北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会)のホームページで印象に残る論説があったので、紹介したい。
まず6月26日の《金賢姫来日?それなら国会証言と反テロ決議を》。三浦会長によるもので、今月中に企画されている金賢姫来日に疑問を投げかけている。
「金元工作員は死刑が確定後、特赦を受けている。出入国管理・難民認定法は、懲役・禁固1年以上の刑が確定した外国人の入国を認めていないが、法務省は特別に入国を許可する方針だ」(時事)つまり超法規的措置で呼ぶのであるが、そこまでして呼ぶならば「覚悟」せよと三浦さんは言う。正論だと思う。

金賢姫氏の来日は、本人の主観はどうあれ政治的行為です。そして、日本の法律をあえて言えばまげて特例を作ってまで会うのならば、それなりの政治的意義を持たせなければいけない。(略)
重要なのは、大韓航空機爆破事件で、彼女ともう一人の工作員が日本人の偽装パスポートを使って爆破テロを行ったというのは、日本国が『冤罪』をしかけられたということ。そして、この事件はおそらく第一義的にはソウル・オリンピックへの妨害活動だったわけで、もしも金氏が自殺に成功していたら、あの爆破事件は日本人テロリストの行動と疑われ、日韓関係もオリンピックも大変な混乱が起きた可能性がある。

その意味で、金賢姫氏の証言の重要性は第一に大韓航空機事件です。もしも彼女を日本に招請する、しかも『超法規的』に招請するのならば、金氏を国会に招請して大韓航空機事件などへの証言を行い、かつ、北朝鮮のテロ行為を批判する国会決議を行うくらいの覚悟を持たなければいけない。同時に、日本人として拉致に加担した八尾恵氏も同時期に国会に招請し、北朝鮮の国際テロについての総合的な証言が行われればもっとよい。さらに言えば、専門家などを招き、ラングーン事件、文世光事件、最新の哨戒艦爆破テロに至るまでの、様々な北朝鮮のテロ行為を総括し、国会で「北朝鮮の国家犯罪に抗議する国会決議」が行われ、その決議を踏まえて、議員立法の形であれ、「日本政府が北朝鮮をテロ・人権抑圧国家認定」する法律を制定する方向に踏み出すくらいの意志をもつことはできないのでしょうか。
(略)
それだけの準備も覚悟も無く、参議院選挙で全政党が内閣も含めて選挙にかかりきりの中、ただ金氏をお呼びしてご家族と合わせることに意味がどの程度あるのでしょうか。急ぐことではない、準備を整え、たとえば秋口に招請しても、その来日の効果は高まりこそすれ低くなることは無いのではないでしょうか。

このような招請が、正直なところ『政府が拉致に取り組んでいる』というアリバイに利用される危険性すら私は感じます。ご家族への、酷い言い方をすれば『サービス』にもなりかねない。そして、特定失踪者家族は、おそらくこの来日の蚊帳の外でしょう。

(略)
繰り返しますが、金賢姫を『超法規的』に来日させるのならばそれなりの準備と覚悟がいります。よど号犯が北朝鮮に無事旅立っていったのも、また赤軍のハイジャックに屈して「人命は地球より思い」と、ダッカ事件のときに政治犯らを釈放したのも「超法規的」です。金賢姫氏は、仕方が無かったとはいえ多くの無実の人命を失わせました。そのことで彼女を責めようとは思いませんが、実際にご家族や友人、恋人を失った韓国人の方々にはやはり許せない気持ちは残ると推測されます。その方を超法規的に呼ぶ以上は、すべてのテロと悲劇の根源である北朝鮮独裁政権への有効な攻撃になるよう、最大限政治的な作戦を立てるべきでしょう。

アメリカが再び北朝鮮テロ支援国家認定することを期待するのはかまいませんが、それを言う前に、実際に国民を拉致され、日本人妻を殺されている日本国が、北朝鮮を「テロ国家」「人権抑圧国家」認定しなければ説得力はありません。それができないのなら「拉致議連」は、集会での演説はしても政治家としては何の政治的行動もしていないことになります。

三浦さんが主張する北朝鮮のテロ行為を批判する国会決議は、金賢姫来日を拉致問題だけでさわぐことよりも、拉致問題を前に進めるうえではるかに有効だと思う。
こういう対応を考えないから、日本政府には「戦略」がないと言われるのだ。