見渡すとどこにも雑草が花をつけている季節だ。
十年ほど前のちょうど今ごろ、公園で数人のおばあさんが、かがんで足元の草を眺めていた。
「オドリコソウ、可愛いわね」「こっちは、ホトケノザがいっぱい」・・・
「どれがオドリコソウなんですか」と尋ねた私に、おばあさんたちは親切にいくつもの雑草の名前を教えてくれた。雑草に興味を持つようになったのはそれからだ。
品種改良を繰り返し人に見られるために鮮やかな花をつける園芸種に対して、雑草は「人知れず」生えて咲くというのがいい。
朝、駅に行く途中、イヌフグリの群生があった。写真は、イヌフグリの青の中にピンクの花を咲かせるオドリコソウ。この二つは相性がいいのか、よく一緒に生えているのを見る。ともに可憐な花なのだが、名前が連想させるイメージの違いはどうだ。まるで植物格差社会。
ホトケノザと聞くと、なんだかありがたい気がするし、ヘビイチゴには気味の悪さがつきまとう。
柳宗民の名著『雑草ノオト』には、ヘクソカズラ(屁糞蔓)などという、名前を聞いただけで逃げ出したくなるような草が載っている。命名した人は恨みでもあったのかと疑ってしまうが、この草、別名があるという。それはサオトメバナ(早乙女花)。がぜん、可愛らしくてそばに寄って行きたいと思わせるではないか。
私たちは何から何まで言葉で考えているのだなあ。言葉で喜び、そして苦しむのも言葉によってだ。それはイヌフグリもオドリコソウも知らない世界である。