クラスター爆弾廃絶への道2

国際NGO、CMCのコンウェイは頭でっかちの理論派ではない。かつては、自らクラスター爆弾の不発弾を処理してきた軍人だった。99年、NATO軍がコソボに大量にばら撒いたクラスター爆弾のほとんどがイギリス製だったことに衝撃を受け、この運動に飛び込んだ。車椅子の不発弾犠牲者たちを、イギリス大使に直接に面会させて泣き落としに出たり、泥臭い行動派ぶりを見せている。
会議の重要な争点の一つに、第一条第一項、締約国は「他国がクラスター爆弾を使用・保有することを援助・奨励してはならない」があった。
これでは非締結国の同盟国(たとえばアメリカ)との共同作戦ができなくなる。それなら条約に賛成しないという強く反対する国が何カ国もあった。イギリスは会議から離脱する可能性も示唆した。
アメリカが会議中、露骨な妨害に出た。アメリ国務省が各国の大使を呼びつけて、条約が通れば、共同作戦ができなくなる、四川大地震のような人道救援にも支障が出るなどと脅したのだ。
これを知ったコンウェイ、すぐにNGOスタッフを率いてアメリカ大使館へ抗議のデモをかける。実に腰が軽い。また、ダブリンの路上でダイインをしてメディアに撮影させたりと、縦横の活躍である。
10日間の議論を経て、議長国のアイルランドは、採択2日前に決議案を提示したが、そこには「非締約国との軍事協力に従事してもよい」との条文が入っていた。一つの大きな妥協である。
イギリスは、同じ日、これまでの立場を一変させ、現有のクラスター爆弾すべてを廃棄するとの決断をブラウン首相自ら発表した。決議案の妥協に加え、この決定をもたらしたもう一つの要因があった。それは、イギリスの新聞に載った「クラスター爆弾は役に立たない」という退役将軍グループの声明である。声明に名を連ねた元大将は、我々のインタビューに、コンウェイの発案で新聞に載せたと語っている。これもCMCの仕掛けだったのだ。
CMC代表のコンウェイの状況判断はこうだった。「賛成してもよいと考えているイギリスの外務省と首相官邸を強く牽制しているのは国防省だ。国防省の反対の立場を弱めるには退役軍人を引っ張り出すのが効果的だ」。
戦略・戦術を冷静に駆使して、CMCはターゲットだったイギリスの攻略に成功したのだ。
さて一方、「非締約国との軍事協力に従事してもよい」の条文に、CMCが大もめになる。とても認められない、原則を貫くべしと強硬に抗議するNGOも出るなか、コンウェイが各国代表と密会を繰り返し、最終的に妥協する決断をする。こういうエピソードが私にはとても面白かった。政治には妥協はつきものだ。これを駆使できないと現実を動かせない。問題は妥協をするさい、戦略がはっきりしていなければならないということだ。その計算の上で、妥協の内容とタイミングを決めていく。この按配がCMCは実にうまいのだ。
その結果、条約案が全会一致で採択された。これで99%のクラスター爆弾が禁止されることになった。
いまやNGOは、とりわけ軍縮の分野では国際政治における「キープレイヤー」であり、それにふさわしい見事な政治判断の能力を備えている。そういう時代になったのだ。
他のNGOも、もし本当に国際政治を動かそうと思ったら、善意だけでは通用しないことを知るべきだ。そのために、この番組はとてもよい教材になるだろう。
見損なった人へ再放送のお知らせ:「クラスター爆弾 廃絶への道−国際NGO12日間の闘い」は、NHK衛星第一放送で、8月6日午前10時から再放送されます