クラスター爆弾廃絶への道1

5月30日にクラスター爆弾禁止条約が採択された、アイルランドのダブリン会議については以前書いたがhttp://d.hatena.ne.jp/takase22/20080530、ゆうべ、これを取材したNHK衛星第一放送で、「クラスター爆弾 廃絶への道−国際NGO12日間の闘い」が放送された。ジン・ネットからディレクター、コーディネーター、カメラマンなど6人を投入、5月19日から12日間続いた会議の前後を含め3週間以上の取材を行った。カメラ3台で、外交官やNGOの動きを追ったドキュメンタリーだ。
この会議で、111カ国が全会一致で条約を採択したのだが、これには、アメリカやロシア、中国、イスラエルなど、大量に生産・保有する国々が加わっていない。だからメディアのなかには、「条約の実効性に疑問がある」などと報じたものがあった。
だが、この会議で、クラスター兵器は、はっきりと「悪」の烙印を押された。つまり「潮目」が変わったのだ。今後、非締約国がクラスター爆弾を使用した場合には、国際世論からの厳しい糾弾が待っている。クラスター爆弾は使用できない兵器、少なくとも非常に使用しにくい兵器になったといえる。これは、その意味で、きわめて大きな「実効性」を持つ条約なのである。
最も感銘を受けたのは、国際NGOが駆使する戦略・戦術の巧みさだ。
70カ国250超のNGOを束ねるCMC「クラスター爆弾連合」という国際NGOは、各国でキャンペーンを展開し、ダブリン会議までに4回の国際会議を経て、すでに「全面禁止派」が8割を占めるところまでもってきていた。
だが、今回の会議開催時点でも、大量のクラスター爆弾保有国で、比較的ましなクラスター爆弾は禁止対象からはずせと主張する「部分禁止派」がいた。決議案への修正案が16カ国から出て、これらの国々にどう対処するかが焦点となった。
そのリーダー格がイギリスと見られた。CMCは、レバノンセルビアアフガニスタンなど世界から集めたクラスター爆弾の被害者を、直接にイギリス代表に面会させて、翻意を促し、会場の外ではダイインなどのパフォーマンスで盛り上げる。
5月21日、「部分禁止派」のうちドイツが、自国の代替兵器(各子爆弾が目標をピンポイントで捉えて破壊する機能をもち、自爆機能も備えてほとんど不発弾にならない兵器)を認めてくれるならクラスター爆弾全面禁止に賛成すると言い出した。
このドイツの動きを、CMCは「部分禁止派」を切り崩すチャンスと見た。CMCはドイツ案の賛成に回り、イギリスを孤立させようとする。
ところがCMC内部で大論争が起きる。やはり原則どおり、純粋な全面禁止で行くべきだとの強い反対意見も出る。だが、ドイツ案を支持しても、現存する99%のクラスター爆弾が禁止対象になり、実は取れるとCMC代表のサイモン・コンウェイが押し切る。
結果、16カ国あった「部分禁止派」から、ドイツ、フランス、オランダなど「代替兵器派」9カ国が分離し、堅い反対派はイギリス、日本、フィンランドなど7カ国だけになった。
見方をまとめながら、敵を分断する、国際政治や外交の教科書に出てきそうな、見事な闘いぶりである。
(つづく)