李明博とチョンゲチョン 

takase222008-04-20

きょう李明博(イミョンバク)大統領がアメリカから来日する。

サンプロでジンネット取材制作の特集「経済大統領の素顔−きょう来日!「対日重視」の真相−」が放送されスタジオに出た。取材は総がかりで、VTRには、取材者として私を入れて4人が登場している。

李明博は、韓国でサラリーマン神話を作った人である。「現代建設」は「漢江(ハンガン)の奇跡」といわれる韓国の超急成長を担ったトップ企業だが、わずか32歳でその副社長、35歳で社長に就任した。彼が「現代建設」に入社した65年には、まだ社員90人の中小企業だったが、会長を退いた92年、社員は16万人になっていた。国家、企業、個人と三位一体の目がくらみそうなサクセスストーリーである。大統領選挙では、かなりの国民は、この夢の再現を念じて彼に投票したのではないだろうか。

彼のスケールの大きさは普通の経済人の枠には収まらない。「現代建設」会長時代の89年には国交のないソ連を訪問、ソ連各地の地方政府とも渡り合い、91年にはゴルバチョフと会談して資源開発で歴史的合意に達した。

「現代建設」を辞めると国会選挙に出た。ノムヒョンと同じ選挙区で一騎打ちになり勝利したというエピソードもある。2002年にソウル市長になるが、彼は市長を大統領への足がかりとしてとらえていた。国会レベルで自分の政治勢力を育てるのは時間がかかるが、ソウル市長で実績を挙げれば、一気に国民的ヒーローになれる。大統領選挙は全国民による直接選挙なのだ。そして、彼は、理屈でなく目で見てわかる「成果」を重視する。それが清渓川(チョンゲチョン)の清流復活だった。後々まで、川を見るたびに国民は、あれは李明博がやったのだと思う。いわば李明博のシンボルであり、これが彼を大統領に押し上げたのだ。李明博は大変な戦略家である。

今月ソウルに出張したさい、帰国便までに時間があったので、朝チョンゲチョンを歩いてみた。写真が清渓川だ。川は道路から一段低くなっていて、階段で下りると川のそばに散歩道がある。週日のせいか人影はまばらで、静かだった。ほっとする空間である。コンクリートではなく、雑草が生えた自然な川岸が良い。

この川は覆蓋工事が61年末に完工し、下水が流れる暗渠になっていた。71年にはその上に高架道路が完成している。高架道路をとっぱらい川を覆う蓋を壊して、05年に清流を復活させたが、大変なことをやったものだ。これを李明博は市長一期目で実現した。

http://japanese.seoul.go.kr/chungaehome/seoul/main.htm

これだけの事業であるから、当然困難は多かった。一帯にあった露天商を含むたくさんの商店が反対運動を展開、警官隊とぶつかる激しいデモもあったという。李明博は市側と商人連合の会合を4200回も開いて説得に成功し、工期を短縮して完成させた。いったん目標を決めたら、そこに向かって突進していく馬力はすごい。チョンゲチョンを歩きながら、李明博の実行力のすごさに感じ入った。

サンプロ特集の常連、池東旭(チドンオク)さんが、今回も傑作のコメントを寄せてくれた。

李明博さんは田中角栄さんと似ているんですよね。両方ともあだ名が《ブルドーザー》なんですよ」。

李明博は「コンドーザー」と呼ばれてきた。コンピューターつきブルドーザーの意味だという。田中角栄との共通点を並べると、貧しいなかで育ち、土建業に携わり、大衆的な人気があるが、金銭にまつわる噂が絶えない、などだ。そして経済の急成長が支持のベースになっているだけに、それが実現できないと一気に求心力を失うというのだ。

李明博の基本的な考え方は新自由主義で、規制緩和、民活主導、小さな政府を主張している。サッチャーレーガン、小泉の流れに連なる人である。だから、もしマクロの経済指標が数字としては上がっても、格差は拡大し、庶民が生活向上を実感するのは難しいだろう。