この夏の戦争ドキュメンタリー

この夏は日本の戦争を題材にしたドキュメンタリー映画が豊作だ。
私は『ひめゆり』、『TOKKO特攻』、『蟻の兵隊』を観た。いずれも考えさせられる名作で、まわりの人にも勧めている。

ひめゆりは、これを題名にした映画がすでに何本も作られており、手垢のついた型どおりの話ではないかと、あまり期待しないで観に行った。ところがその先入観は完全に打ち砕かれた。ひめゆりの生き残りの多くは、戦後長く沈黙を守り、過去の「ひめゆり」の映画には「事実ではない」と拒否反応を示していたという。体験を残そうと「ひめゆり資料館」ができたのは、ようやく1989年のことだった。言葉の真の意味で「極限の体験」をした心の傷はそれほど重かったのだろう。
映画は「資料館」と柴田昌平監督(元NHK)の共同制作で、インタビューはなんと13年もかけて行われた。その間に、映画に登場する証言者が3人亡くなったという。2時間15分の映画はナレーションなし。そのほとんどがインタビューだが、全く飽きさせない。人間のインタビューとは、これほど迫力を持つものなのかと感じ入った。多くの驚き、発見があり、私がいかに沖縄の戦争に無知だったかも思い知らされた。
彼女たちが言う、「戦争はもう絶対にしてはいけない」という言葉ほど説得力のあるものはない。

『特攻』の監督、リサ・モリモトは日本人を親に持ち、ニューヨークで生まれ育った。9.11の同時多発テロを「カミカゼ・アタック」と表現するアメリカ人と同じく、彼女にとっての「カミカゼ」は、《丸眼鏡をかけた出っ歯の獰猛なジャップ》だった。ところが、母親の兄、つまり伯父さんが特攻隊にいたと知って衝撃を受ける。あの優しい伯父さんがなぜ?という疑問から特攻とは何かを追い求める旅を映画にした。ナレーションも監督の語りで進行していく。この設定が成功して、素直に謎解きに入っていくことができ、新鮮な「発見の旅」に仕上がっている。特に、戦争を知らない日本の若い人には勉強になるだろう。
映画は、特攻作戦そのものは無謀で残酷なものだと批判しながら、特攻隊員一人ひとりには敬意を払っている。日本兵を「人間」として描いたイーストウッドの「硫黄島」に通じるものを感じる。気に入らない人々をすぐに「テロリスト」とレッテルをはるアメリカの人々にもぜひ見せたい映画である。

3年前『延安の娘』に衝撃を受け池谷薫監督のファンになった。蟻の兵隊のテーマは「日本軍山西省残留問題」で、こんな問題がまだ解決されていないとは驚きだ。
2,600名もの日本軍部隊が終戦後も武装解除されずに中国に残留し、国民党の軍閥に合流して共産軍と4年間戦った。
映画の主人公は、昭和29年になってやっと帰国した奥村和一さん(80)。上官の命令で残留したのに、勝手に残ったとして恩給を拒否されたため、13名の元残留兵が軍人恩給請求棄却処分の取消を求めて国を訴えた。国との闘いでは彼らは明らかに「犠牲者」である。ところが奥村さんが当時を検証するために中国に行くと、そこでは彼らは地元住民を殺した「加害者」であることが見えてくる。この逆転が印象深い。
日本軍に40日にわたって暴行された劉面煥さんという女性の証言は胸に迫る。私は戦争被害者の証言の信憑性にはかなり慎重だが、彼女は真実を語っていると感じた。
大きな問題提起となる映画だが、奥村さんの中国旅行が撮影のために仕込んだという印象が残ることだけが残念だった。

今年の夏は映画だけでなく、テレビや出版でも日本の戦争を問うものが目立つ。NHKスペシャルで放送した8月14日の「東京裁判」、15日の「パール判事」も力作だった。ジン・ネットは、去年はフジTVの「硫黄島戦場の郵便配達http://www.fujitv.co.jp/fujitv/news/pub_2006/06-387.html)を手がけたが、今年はやっていない。反省。
ひめゆり」のように一見手垢がついたように見えて、全く新しい問題を提起するような題材にじっくり取り組んでみたいものだ。