香港で一日の逮捕者が287人に

 あす11月15日は、横田めぐみさんが北朝鮮工作員に拉致された日だ。1977年のことだから42年になる。母早紀江さん(83)がきょう川崎市内で会見した。
 「42年というのは腹が立つほど長い時間。早く解決策がみつかることだけを願っている」と訴えたという。以下、新聞各紙より。

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 去年4月から入院中の父親の滋さんは今日が87歳の誕生日。早紀江さんは「本当なら大好きなお酒を飲み、明るい誕生日にしてあげたかった。食事も思うようにできず、会話も難しいが、めぐみと元気に再会するため、懸命にがんばっている」と語った。
 早紀江さんがめぐみさんの写真を見せて、「必ず帰ってくるから頑張りましょう」と話しかけると、滋さんは「頑張る」と口を動かすという。
 拉致被害者家族の高齢化に伴い、救出活動はめぐみさんの弟拓也さん(51)や哲也さん(51(51)らが引き継ぐようになった。早紀江さんは「2人とも頑張ってくれている」と述べる一方、「長い時間解決できないことがおかしい。(2人には)いつまでもこんなことを続けてほしくない」と胸の内を語った。――

 会話もままならない寝た切りの滋さん、拉致問題が進展しないことに焦りながら滋さんを介護する早紀江さん。二人の気持ちを思うと何と言っていいかわからない。
 そもそも被害者家族が運動の前面に出なければならないこと自体がおかしい。安倍首相は「内閣の最重要課題」と言いつづけながら何をしているのか。
 解決が見えないことについて早紀江さんは「国家の問題なので委ねるしかないが、求めているのは早く知恵を出し合って、本気になって取り返す行動を起こしてほしいということだけです」と話した。
 早紀江さんの目にも「国家の本気」が見えないのだろう。あらためて政府の猛省を促したい。
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 さて香港情勢。政府と市民との亀裂はこれまでで最も深刻になっているようだ。
 《香港の警察は、12日会見し、11日各地で行われた抗議活動に関連する逮捕者は、12歳から82歳までの男女合わせて287人に上ったことを明らかにしました。
 これはことし6月以降の一連の抗議活動で、1日に逮捕された人数としては最も多く、多くが警察への攻撃や違法な集会に参加した疑いなどが持たれています。
 また、逮捕者287人中、190人が大学生や、高校などに通う生徒だということです。》(NHK
 逮捕者の年齢が12歳から82歳までと非常に幅広い。黒づくめで「前線」に立つのは10代後半から20代前半の学生中心の若者たちだが、広範な市民がともに闘っていることがわかる。政府への信頼は地に落ちている。
 《香港のシンクタンク「香港民意研究所」は今月1日から8日までの間、市民1000人余りを対象に電話による世論調査を行い12日、その結果を発表しました。それによりますと、林鄭月娥行政長官の支持率は11%で、1997年の香港返還以降、歴代の行政長官の中で最も低い水準となっています。(略)支持率の低迷は市民の警察や政府への反発が続いていることを示しています。》(同上)
 香港政府や中国共産党はデモ参加者を「暴徒」と呼ぶが、市民の多くは非難の矛先を政府や警察に向けている。つまりデモ参加者は暴力を行使しても、市民からは単なる「暴徒」とは見られていないのである。ここは多くの日本人に知ってほしいところだ。

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香港中文大学は9月に取材で訪れた。11月12日夜、香港警察機動隊は大学に侵入し、2356発の催涙弾とゴム弾を学生たちに向けて発射した。少なくとも100人が負傷したという。あの緑豊かで静かなキャンパスが戦場のようになっている・・

 注目されるのは、今月24日に予定されている区議会議員選挙だが、香港情勢に詳しい倉田徹立教大教授は《「親中派からは選挙を延期すべきだという意見も根強いが、法的には14日間しか延期できない。仮に延期した場合でも“人為的な延期”と見なされ、世論の反発は避けられない」と述べ、香港政府は難しい判断を迫られるという見解を示しました。》(同上)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191112/k10012174641000.html
 これから24日にかけての動きに注目していきたい。

 

スローガンは「攬炒」(死なばもろとも)

 立派だなと思う著名人の一人に、スピードスケートの小平奈緒選手がいるが、座右の銘についてこう言っている。
 「私『小平奈緒』っていう生き方をしていきたいなと思っているので、『永遠に生きるかのように学べ、明日死ぬかのように生きろ』っていう(ガンジーの)言葉があるんですけど、そういう言葉のようなシーズンを送れたらいいかなと」(2017年4月会見)
    ほんとはこれガンジーの言葉ではないらしいのだが、まあ、それはどうでもい。「日々、自分超え」をモットーに精進あるのみ、失敗してもめげない小平選手の言葉として受けとめよう。

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 「永遠に生きるかのように学べ、明日死ぬかのように生きろ」
 いいですねえ。思い通りにいかないことがたくさん出てきてめげそうになると、こういうスケールの大きな格言が身にしみる。
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 今朝の朝日新聞は社説も川柳も「桜を見る会」と「香港の混乱」だ。

 正体を明かせぬ人を招待し (広島県 今本正人)
 うまい!結局、モリカケもみな日本国はオレのものという公私混同から起きたのだなと納得させられる。
 遅滞なく廃棄するほどヤバイもの (福岡県 牧 和男)
 共産党の田村智子副委員長(参院議員)の追及に安倍首相はボロボロだった。まともな答弁ができず、今日になって「来年は中止します」。幕引きをはかるが、逃がさないで追及すべし。

 内戦の様相帯びる香港島 (東京都 三神玲子)
 警官を強気にさせるお墨付き (兵庫県 岸田万彩)
 たしかに昼間からビジネス街に催涙ガスが漂っておもてに出られない香港はまるで内戦。混乱を招いた警察の強硬姿勢は、今月4日に習近平が林鄭行政長官に与えた「お墨付き」からだ。
 習近平国家主席は林鄭に「中央政府は高度に信頼し、あなたの仕事を十分に評価している」「暴力と混乱を阻止し、秩序を回復させることが香港の当面の最重要任務だ。法に従って暴力を止め、処罰することが香港民衆の幸福を守ることになる」と告げたという。妥協はするな、抗議行動の息の根を止めろと言ったのだ。

 きのうも今日も香港は抗議活動で都市機能がマヒしている。

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金融の中心「セントラル」に集まるデモ参加者や会社員(13日)ブルームバーグより

 《香港の金融街・中環(セントラル)では13日も抗議デモ参加者が集まり、交通に支障を来した。李家超保安局長は同日、暴力が続いた場合は「想像もできない」結果を伴いかねないと警告した。
  デモ隊は香港政府の対応と警察の戦術に対する怒りを示すため、朝のラッシュ時の交通を妨げるよう呼び掛けたことから、列車は始発から混雑した。破壊行為などを受けて東鉄線は全線で運転を見合わせた。多くのバス路線も停止し、複数の学校が休校となっている。》https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-11-13/Q0VQUHDWLU6I01
 「想像もできない」結果とは?怖い表現である。

 火炎瓶を投げたり、交通を妨害する実力行使に出る若者たちの中には、遺書を書き置いている人も多い。すごいなと思う反面、そんなことをしたら香港の経済も社会もめちゃめちゃになってしまうのではないか、と案じた。
 なぜ、そこまでの行為に出るのか。
 彼らのスローガンに「攬炒」(らむちゃう)という言葉をときどき見かけた。香港の知り合いに聞くと、これは若者の気持ちを表すキーワードの一つだという。
 これは4年前の雨傘運動の時に出てきた流行語でもあったそうで「翻訳道場:香港大專日本語學同學會」のFBには、
《「攬炒」=敵に抱きついて(「攬」)落ちる。意味:共倒れ、自爆攻撃》とあった。
 相手を道連れにする意味で、「死なばもろとも」という訳がぴったりくる。
 香港はこのまま行ったら「中国化」されるだけで、もう失うものはない。死なばもろとも。あわよくば肉を切らせて骨を断つ。というわけか。
 立教大学の倉田徹教授も「攬炒」に注目し、若者たちが、「中国の銀行が呼吸する肺」である香港を破壊することで、北京にダメージを与えることができると考えていると解釈している。
 この言葉を知ってから、香港の若者たちの絶望に裏打ちされた悲壮な決意を少し理解できるように思ったのだった。
 さらに今、「玉砕」という言葉もスローガンで使用されているという。死なないでほしいと切に願う。

香港警察に「報復」を叫ぶ若者たち

 きょうは満月。
 このところ、心配ごとが立て続けに起きているのだが、月を見ると癒される気がするのはなぜだろう。
 やれるだけやって、結果は天に任せるしかない。そんな気持ちになってくる。
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 香港がすごいことになっている。

 中国共産党から徹底したデモ取締りを命じられたとみられる香港政府は、市民の抗議活動にいっそうの強硬姿勢でのぞんでいる。その結果、市民からのさらなる反発をまねいている。
 週末だけでなく毎日、同時多発的に各地で抗議行動が起きて、交通機関もまともに動いていない。11日には丸腰の大学生が警官に至近距離から銃撃された。この動画があっという間に広がり、若者は「報復」を叫んで実力行使をエスカレートさせている。
 周庭(アグネス・チョウ)さんのツイッターから。

 

 

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近づいてきた抗議活動参加者に警官はためらいなくピストルを発射した。警察による銃撃の負傷者としては3人目となるが、この動画がショッキングである。

学生が撃たれた動画 https://twitter.com/i/status/1193727379811647489

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大学に警察が入るのは異常事態で、学生はじめ教育界に与えた衝撃は大きい。

https://twitter.com/i/status/11941992930384568

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ジャッキーチェンの香港警察の映画と実態は全く違う。この妊婦一人にスプレーを何度もかけて数人がかりで押し倒す。

 日本にいると、警察の暴力を香港市民がさかんに批判するのが理解しにくいかもしれないので、これはぜひ動画を観ていただきたい。
witter.com/i/status/1194199293038456832

 香港の市民の大多数は、暴力の応酬がエスカレートしたのは警察の責任だと考えている。10月の調査でも、警察による暴力についての独立調査を支持する人は88%にのぼった。警察への評価は地に落ちている。以前の香港警察は、統率のとれたジェントルマンだったという人もいるが、「中国化」したのか。

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明らかに人を轢こうとしている。露骨な暴力行為だ。

動画 https://twitter.com/i/status/1193735862325919747

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セントラル(中環)は香港の政治経済のまさにセンター。催涙弾は土日の夜デモとの衝突で使用されるのがこれまでだったが、週日の昼間の目抜き通りが催涙ガスでけむるという事態になっている。都市機能もマヒしかかっている。

セントラルで催涙弾(動画)https://twitter.com/i/status/1193798507938762752

 

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ビジネスマンやOLが街の真ん中で抗議行動を起こしている。

 5ヶ月続く抗議活動で、香港の経済が悪化しているのはたしかだ。交通機関のマヒで仕事に差し支える人もいるし、市民の間で利害対立が起き、傷つけあうことも多くなってきている。

 それでも、「世なおし」のために、中高生を含む学生たちが授業ボイコットをし、多くの市民が経済の悪化さえも耐えようとしている。むしろ経済に打撃を与えることで政権に圧力をかけ事態を動かそうとしている。これはもう革命である。

 いよいよ正念場を迎えた様相をみせる香港情勢から目が離せない。

命はそこにあるだけで意味がある

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 香港では区議会の選挙を24日に控えているが、香港議会にあたる立法会の民主派の議員が逮捕され、区議選の実施が危ぶまれている。
 《香港のデモの発端となった「逃亡犯条例」改正案の審議を妨害したとして、香港当局は9日までに立法会(議会)の民主派議員3人を立法会条例違反の疑いで逮捕、訴追した。厳しい対応を求めた中国政府の指示を踏まえた措置と見られる。当局はさらに4人の民主派議員の逮捕手続きを始め、計7人を訴追する方針だ。香港はデモ拡大から9日で5カ月を迎えたが、前日に死亡した学生の追悼集会に主催者発表で10万人が集まるなど市民の反発は高まっており、再び緊迫の度合いを強めている。
 7人の議員は5月11日、改正案の審議中に親中派の議員らともみ合って議事の進行を妨げたとの疑いが持たれている。7人は民主派議員団(24人)の約3割に相当し、民主派にとっては大きな打撃となりそうだ。
 香港では立法会と区議会の議員の兼職が認められ、7人のうち4人が今月24日の区議会選挙に立候補している。区議選で民主派の伸長が予想されるなか、政府は社会不安などを理由に投票日の先送りを検討している。そのため、民主派議員団は8日の声明で「(7人の逮捕で)市民を怒らせて情勢を混乱に陥れ、区議選を取り消そうとする策略だ」と非難した。》https://www.asahi.com/articles/ASMC94Q6SMC9UHBI01D.html
 民主派としては、当局が情勢の混乱を口実に区議選をキャンセルする事態を避けたいところだが、先日のデモ現場での死亡事故もあり、若者たちがどう動くか。
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 最近心に残った言葉から。
 藤井理恵さん(淀川キリスト教病院チャプレン)は、病院付きの牧師チャプレン(chaplain:教会・寺院に属さずに施設や組織で働く聖職者)を26年つとめてきた。藤井さんが亡くなっていく人々との関わりのなかで何を感じ、考えてきたのかが「それぞれの最終楽章」という朝日新聞の企画で連載されていた。以下に紹介するのはその最終回「命はそこにあるだけで意味がある」。https://www.asahi.com/articles/DA3S14175041.html

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藤井理恵さん

 「たましいの痛み」に苦しむ方々と、どのように関わってきたかを7回にわたりお話ししてきました。
 人は、人間同士の関わり、「水平の関係」の中で生きています。それを「垂直の関係」とでも言いますか、宇宙とか大自然とか「人間を超えた何か」といった絶対的存在との関係の中で命や人生を眺めると、見方が全く変わってくると思います。牧師である私にとって、それは神様です。
 命を与えた存在が「この時代に、この家族のもとでこうした状態で生きるように」と、この世にあなたを置いて下さった。そう受けとめれば、この世に置かれたこと、「生きてここにあること」自体に意味があると気づかされます。「自分の人生に意味がない」などと自己否定しても、あなたの存在は絶対的に肯定されているのです。
 障害を持って生まれた、病気になった。それで他の人が出来ることが出来ない、出来なくなった。だから劣った、かわいそうな存在だという人がいます。確かに生きてゆくのはつらいことが多く、治療の苦しみや痛みを負うのは、かわいそうと言えるかもしれません。でも決して「かわいそうな存在」ではありません。
 生産性、効率性、有用性といった価値観にしばられて「(何かが)できる(do)」から価値のある人生で、「できない」から意味のない人生だ、という考えから距離を置いてほしいのです。人はそこにいる(be)だけ、つまり生きているだけで、意味があると知ってほしいからです。
 同じことを、みなさんもよくご存じのマザー・テレサがこんな言葉で述べています。「私は神様の手の中の鉛筆に過ぎない。神が考え、神が書くのです」。私はそこにあるだけでいい。私を使って下さるのは神様だから、何かを果たせたかどうか、そんなことは私が判断することではない、ということでしょう。
 年を取ると聞こえなくなった、歩けなくなったと不満が出ます。それをマイナスと捉えるのは人の価値観です。そうではなく、自分で得たものではない聴力や歩行能力をちょっとお返しする。いただいて預かったものを手放し、次々に返していって、最後は魂一つになって、神様のもとに帰ってゆくと考えてみるのです。
 「どうすれば自分の死を受けいれることができますか」とよく尋ねられます。死の受容は、人生が「与えられたものである」と了解していくときに可能になっていくのでしょう。与えられた命をもって生まれて、生きて、死んでゆく。そのプロセスの中で死を終点と捉えれば、「自分が無くなってしまう」となりますが、帰るのであれば、その先も続きます。私はそう信じ、ここに希望を見いだしています。(構成・畑川剛毅)

 藤井さんの「神」を「宇宙」と言い換えれば、すべてがすっと心に入ってくる言葉である。

社会の分断進む香港2―ついにデモ現場で死亡事故が

 11月2日の夕方、香港島銅鑼湾(コーズウェイベイ)で始まったデモ隊と警官隊の衝突は夜になって九龍(カオルーン)半島側に移った。香港を代表する目抜き通り「ネイザンロード」では北へ移動するデモ隊を警官隊が催涙弾を発射しながら追っていく。辺り一面が催涙ガスで白く霞み、市民が目や鼻にハンカチを当てながら裏通りに逃げていく。そこから朝方まで、警官隊が催涙弾を撃っては蹴散らされたデモ隊を追いかけて逮捕する、英字紙が“cat and mouse battles”(追いかけっこ戦闘)と呼ぶゲームのような逮捕劇が展開された。

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路上に落ちていたゴム弾と発射筒。人に向けて発射しないようにと筒に書いてあるが警察は守っていない。左下は催涙弾の薬きょう。

 この夜の大きな事件としては、前回書いたように民主派の区議選候補者3人が逮捕された他、湾仔(ワンチャイ)の中国国営新華社通信香港支社のビルが若者らに襲われ、入り口のガラスが破壊され放火されたことだった。これは中国当局を相当刺激しただろう。

 翌11月3日(日)は、午後1時から7ヵ所で警察の暴力に抗議する集会が予定されたのでうち1カ所に行ってみた。ところが正午には警官隊が周辺をブロックしていてとても集会ができる様子ではない。きょうは何もなしかと思い、香港の知り合いとレストランでご飯を食べていると、店のテレビがガス弾を撃つ警官隊を映し出した。中心部からちょっと離れた太古(タイク)という街でいま衝突しているのだという。香港のテレビはデモや集会、さらには警官隊との衝突をライブで中継するのだ。

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レストランのテレビでのライブ放送。警察は、記者証を見せて抗議するこの男性を逮捕した。最近は取材者に対して警察が敵意をあらわにする場面も多い。

 ショッピングモールで「人間の鎖」を作ろうと集まった市民に男が刃物で切りつけ6人が負傷したという。刃物で襲った男は普通語(北京語)を話していたといい、止めに入った区議会議員の男性が男に耳をかみ切られた。この騒動で警官隊がショッピングモールに突入した。
 また、大埔(タイポ)や沙田(シャティン)などでもショッピングモールの中で若者たちがスローガンを叫び「集会」を行ったため、警官隊が規制に入り衝突した。
 若者たちは、警官隊が警戒態勢をしく公園などではなく、買い物客で賑わう日曜のショッピングモールを抗議活動の場所にしたのだった。

 香港の警察は4日会見し、先週金曜日から3日までの週末に、武器を所持したり、違法な集会に参加したりした疑いなどで325人を逮捕したと発表。6月以降逮捕された人は3000人を超えた。地元紙によれば、このうち専門学校生を含む大学生の逮捕者は702人だという。

 6日には親中派の区議会議員候補者(何君尭―ユニウス・ホウ、ホウ・クワンユウ議員57歳)が刃物を持った男に刺され、負傷した。7月、覆面と白いTシャツの集団が元朗区の地下鉄駅で民主派活動家や通行人を襲撃する事件があり、民主派は何氏が襲撃に関与したと非難していた。
 いま香港では、このように民主派と親中派の双方が刃物などで襲撃される事件が相次いでいる。警察とデモ隊との暴力がエスカレートする一方で、市民間の暴力を伴う対立が頻発しているのだ。


 いつか死者が出るのではと心配していたが、ついに一人の学生が亡くなった。私が香港滞在中にあった抗議活動での事故によるものだという。
 香港科技大学の周梓楽さん(22)は11月4日未明、デモ隊と警察が衝突する現場近くで、駐車場の3階から2階部分へ転落した。頭を強く打って病院に運ばれたが、8日朝に死亡したという。


 すでに8日から周さんが警察に殺されたとして抗議が始まっているが、まだ事実関係がはっきりせず、警官隊の規制が原因だとは決めつけられない。抗議活動に関連する死者だとすると、自殺を除いては初めてだ。

 

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周さん死亡の報は大学の卒業式の日にもたらされた

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周庭さんのツイート

 まずは真相究明を優先し、冷静にと呼びかける現地英字紙を支持したい。
 《先鋭化する事態に、地元英字紙「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」は社説を発表。香港を「深刻な2極化が進んでいる」とした上で、「周さんの死は、暴力や混沌とともに記憶されるべきではない。真相が究明されるまで、私たちは皆、過激な行動ではなく自制心をもって彼の死に敬意を払うべきだ」と、冷静さを保つよう呼びかけた。》https://www.huffingtonpost.jp/entry/hongkong-protest_jp_5dc61ba1e4b00927b2333d64

 「周さんの死」で市民の警察への反発が一段と強まることが予想される一方で、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は今週、習近平国家主席から抗議活動の取り締まり強化を指示されている。
 きょう9日は抗議活動が始まって5カ月になるが、香港の今後がますます見えなくなってきた。

社会の分断進む香港

 もう暦の上では冬。明日8日から立冬だ。北海道では初雪が降ったという
 11月8日から初候「山茶始開」(つばき、はじめてひらく)。「つばき」と読むがサザンカのこと。13日から次候「地始凍」(ち、はじめてこおる)。18日からが末候「金盞香」(きんせんか、さく)。「きんせんか」と読むが金盞は金の冠のことで、黄色の冠をつけた水仙の別名だそうだ。今年はどこかに紅葉狩りに行けるだろうか。
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 連休に香港に行ってきた。
 今回は特定の仕事ではなく、個人としての取材行だった。
 前回の香港取材時、たくさんの若者に突っ込んだ質問をして彼らの悲壮な心境を知った。デモの前に遺書を遺してくる人もいた。
 一人の若い女性に「これから香港はどうなると思いますか」と尋ねた。私には今後の展望が見えないなか、若者たちが今の状況をどう捉えているのか知りたかったのだ。
 その質問に、女性は言葉に詰まったように数秒沈黙した。顔を覆っていた大きなマスクが少し動いた。マスクの下は泣き顔になっているようだ。目にはみるみる涙があふれてきた。
 「香港がどうなるか私はわかりません。考えたくもありません。でも、私たちは諦めません」。
 涙がぽろっとこぼれるのを見て、私ももらい泣きしそうになった。
 巨視的に見れば、いま香港は自由世界の最前線で闘っている。敵はあまりにも強大な中国共産党。若者たちの要求を実現するのはきわめて困難だろう。しかし、展望があろうがなかろうが、命がけで闘い続けるしかない。そういう彼らを最後まで見届けたいとその時思ったのだった。
 10月31日のブログで「彼らがこれからどうなっていくのか、気になって仕方がない。あさっての土曜は大規模なデモが予定されている」と書いたが、ほんとに気になって、急遽11月1日(金)の深夜便で香港に向かった。

 2日(土)の午後3時から香港島のショッピング街、銅鑼湾(コーズウェイベイ)のビクトリア公園で大集会が予定されていた。今月24日に予定されている区議選にむけた民主派の選挙集会だった。
 これまでならデモ行進に移り、若者が道路にバリケードを作って交通を遮断したりしてから姿を現す警官隊が、この日は集会の前に公園入口に展開していた。そして早々と「解散しないと武力を使用する」と警告の黒い旗が上がった。4時前には警官隊が公園に突入し、つぎつぎに催涙弾を撃ち込んで集会参加者を逮捕した。逮捕者の中には区議選の3人の候補者もいた。警官隊の規制は一段と強化されていた。

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集会が始まる前に警告の旗を掲げる警官隊

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警官隊を公園に入れまいとグラウンドの入り口にバリケードを作る勇武派。若い女性の姿も多い。

 集会参加者たちは蹴散らされたのだが、その後が大荒れになった。
 政治・経済の中心地である銅鑼湾から中環(セントラル)にかけての地域で、警官隊と黒ずくめの若者たちが激しく衝突した。何本もの火炎瓶が目抜き通りで投げられ、警官隊からゴム弾や催涙弾が発射される。私の足もと3メートルほどのところで火炎瓶が炸裂して火の手が上がり、記者の誰かが私の背のシャツを引っ張って後ろに下がらせてくれた。
 ひと段落して、「ものすごい迫力の映像が撮れた」と思ってビデオカメラを再生したら、一番激しい一連のシーンが全然映っていない。なんと逆スイッチだった。すぐそばでの急なドンパチに慌ててしまったようだ。
 催涙弾を撃ち込んだ後は、追い駆けっこになる。火炎瓶隊などの中核メンバーは全速力で走って逃げるのであまり捕まらない。逃げ遅れて歩道にいる人が拘束されたりする。デモに参加すらしていない人が捕まることも。
 歩道で衝突を見ていた初老の男性から「日本人ですか」と日本語で声をかけられた。近くのラーメン屋で働いているという。男性は台湾に7年、香港に30年いるのでマンダリン(北京語)も広東語も分かる。「中国人が大好き」なのだそうだ。
 「この辺は戦場で、もう何回もぶつかっていますよ。観光客も来なくなって、知り合いの旅行代理店なんかつぶれる寸前です。何とか収まってもらいたいけど、警察もひどいからね。先が全く見えないですね」と半分諦めたようすだ。
 何度かの衝突のあと、裏通りで若者二人を見かけた。近くで捕り物がはじまると、二人は飛んで行って警官が容疑者を地面に押し倒して逮捕する瞬間をPRESSのカメラマンたちと並んでスマホで撮影するのだった。逮捕現場を警察官チームは見られたくないので、人垣でカメラを遮ったり、ペパーガス(刺激性の液体)の噴霧器を取材者たちに向けたりする。まして記者でないことがばれると危ない。撮影するのは、インスタグラムに載せてデモ、集会の様子をできるだけ多くの人に知らせたいからだという。
 聞けば、二人は10年生、日本でいうと高1で15歳と16歳だった。家族との関係はどうなのか。15歳の子は、「うちは親も黄色(デモ隊支持)で助かっているけど、この人(16歳の子)は両親が青(体制支持)なのでかわいそうです」という。
 色の話が出たが、いま香港のレストランはじめ様々な店が、黄色か青色かに色分けされているという。デモに参加するような若者たちは青とレッテルを貼られた店には絶対に行かないという。
 そういえば知り合いの香港人ジャーナリストとお茶を飲もうと店を探していたら、「この店は黄色だから」と色で選んでいた。
 市民の間の分断が進んでいるようだった。
(つづく)

ハロウィーンの渋谷に香港のデモ隊が

 きょう河井克行法相が辞任。25日に菅原一秀氏が経産相を辞任したばかりだ。わずか1週間で2人の重要閣僚が「政治とカネ」で辞めるという事態となった。いやはや。

    二人の政治家を追い込んだのが雑誌で、新聞、テレビが後追いだけというのが情けない。

 ツイッターより;
【備忘録】
二階幹事長「予測されていたことから比べると、まずまずに収まった」
河野防衛相「地元で雨男と言われた。私が防衛相になってから既に台風は三つ」
安倍首相「夢のような一ヶ月間でした」(ラグビー南アフリカ戦の後)
萩生田文科相「身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで」
官房長官「適材適所だと思う」
http://twitter.com/red_hohshi/status/1189345544805801985

 

 うーん、憮然としてしまう。(憮然=本来の「失望してぼんやりとしている様子」 28.1%という意味でも「腹を立てている様子」56.7%と誤って理解した意味でも)
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 きょうハロウィーンの夜、在日香港人が渋谷の街を練り歩いた。私の知り合いも何人か参加した。黒衣装に蛍光ベスト、ヘルメット、防塵マスクをつけ、手で右目を覆っている。これは、警官隊がデモ参加者の女性の目をビーンバッグ弾で撃ったことへの抗議を意味する。応援してくれる人が多かったという。

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 また、26日には習近平のお面をつけて渋谷に集合。お決まりの魔女や妖精のコスプレよりはるかにインパクトがある。香港人の遊び心のある闘いぶりに感心させられる。

 日本ではハロウィーンはお祭りさわぎだが、香港では「覆面禁止法」への抗議となっている。

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 「香港で10月31日、民主活動家らがハロウィーンの仮装姿で抗議活動を行った。覆面を禁止する緊急条例を無視した格好で、警察と再び衝突した。香港のデモは概して指導者がいないが、この日はハロウィーンをテーマにしたマスクで抗議するようインターネット上で呼び掛けがあった。」(AFP)

 香港は自由世界の最前線で闘っている。これは世界の闘いでもある。
 SEALsの奥田氏ら日本人も連帯の意を示しに現地まで行っている。https://www.facebook.com/umbrella.movement.exhibition/videos/378905739638951/

 前回の取材で、若者がデモに参加する前に書いた遺書を見せてもらい、悲壮な覚悟に胸が詰まった。

    彼らがこれからどうなっていくのか、気になって仕方がない。あさっての土曜は大規模なデモが予定されている。