ロシアの言論状況は過去最悪に

 先週土曜日、武隈喜一さんの講演「ウクライナ戦争 日本のメディア報道の落とし穴と情報チェックの実践法」を聴いてきた。武隈さんはテレ朝の元報道局長で、現在はフリーのジャーナリストとしてテレビなどでロシア情勢を解説している。

講演する武隈喜一さん(筆者撮影)

日本にロシアが占領中のウクライナ領土を重ねてみた武隈さん作成の地図。この広大な面積にロシア軍がびっしりと地雷を敷設しているので、「反転攻勢」が一気に進まないのは当然。

講演の会場は早稲田大学戸山キャンパス。かつて革マルの暴力が吹き荒れた現場は夏の日差しの下で静かだった。


 日本のメディアが最前線に記者を送らないなどの取材体制の問題から、大量のフェイク情報があふれるなかでのリテラシーのあり方など学ぶことの多い講演だった。

 印象的だったのは、現在のロシアの言論の自由度はソ連時代より酷くなっていると武隈さんが断言したこと。例えば過激なイデオロギーの扇動罪というのがあるが、どういう行為がこれに該当するかが示されず、恣意的な適用がなされている。SNSの投稿で簡単に逮捕され、武隈さんの知り合い2人もいま獄中にいるという。

 去年、軍に大きな影響力をもつ退役将校が、プーチンウクライナ侵攻を批判したことを武隈さんが紹介したが、彼もまた今のロシアにおける抑圧が過去最悪だと言っていた。
 「(現在のロシアには)1937年の大粛清のような抑圧がある。「勝利勝利!」と叫ばされ、「戦争反対」と言っただけで投獄されるような法律はスターリンの時代にもニコライ二世の時代にもなかった」と。

takase.hatenablog.jp

 また、ウクライナ侵攻での20万人以上の戦死者のうち、モスクワやサンクトペテルブルグ都市部出身者は非常に少なく、地方の出身者が大量に亡くなっている事実も興味深い。こうした不条理な差別が可能なのも、言論の封殺ゆえなのだろう。

 この厳しい抑圧状況の中から、何か新しい「芽」が生えて来る可能性はあるのか。

 武隈さんは、今のロシアを理解するのに、ソルジェニツィンの『収容所群島がお勧めだという。以前読んだような気もするが忘れているので、こんどちゃんと読んでみよう。

・・・・・・

  マイナンバーカードをめぐる問題が大きくなって、内閣への支持率を急落させているようだ。この間参考になった情報をいくつか。

 ジャーナリストの青木理さん

 「政府は、マイナ保険証を持たない人には資格証明証を出すという。これをプッシュ型、つまり申請しなくとも自動で出そうと、それもこれまで1年といってたのを複数年にしようという話になってきた。となると、今の保険証のままでいい。さらに、認知症の人が暗証番号などを管理できないなどと施設からの不安の声もあって、こんどは暗証番号無しで発行しましょうという話になってきた。暗証番号がないマイナ保険証といったら、それは保険証と身分証明証の機能しかない。だったら今の保険証でいいじゃないですか。もうマンガのような状況で、与党からも見直しの声が出るのは当然だ。

 考えなきゃならないのは、行政のデジタル化によって我々が便利になると言われているが、その本質は何なのか。『東京新聞』によると、我々が各省庁に情報公開請求をする場合、デジタル化されてオンラインで請求できるのは主要15省庁のうち二つしかない。デジタル庁もまだ紙で受け付けているらしい。つまり、統治する側が国民、市民の情報を取るばかりで、統治される側が行政の情報を取るデジタル化、オンライン化がほとんど進んでないというところにこの問題の根本的なありようがある。これで市民、国民と政府が信頼関係結べるかといえばとても無理。この根本的な問題点に目を凝らすべきだと思う。」(サンデーモーニング30日OAより)

 本質的な批判だ。その『東京新聞』の記事は―

「国民が中央省庁などに情報の開示を求める「情報公開請求」を巡り、オンラインでの申請手続きを導入しているのが、主要な15の府省庁などのうち、厚生労働省国土交通省のみであることが取材で分かった。デジタル化推進の司令塔となるデジタル庁も書類申請のみで対応していた。政府はマイナンバーカードの普及など、行政手続きの簡素化に積極的だが、国民の「知る権利」に関するデジタル化は進んでいない。(大野暢子)」

 政府は昨年6月に閣議決定した「規制改革実施計画」で、行政手続きのデジタル化の一環として、文書の開示請求のオンライン化など、利用率向上に必要な措置を講じると明記。手数料のキャッシュレス化も含め、各府省庁などに対応を促した。それが進んでいないというのだ。

「03年度に始めた厚労省は21年度の約1万1000件の申請のうち、2割弱をオンラインで受理。省庁横断的なシステムを利用しており、来年度は手数料の電子決済も可能になる見通しだ。担当者は「労働保険や年金などオンライン手続きが多い省なので、情報公開請求でも進めやすかったようだ」と話す。

 情報公開のデジタル化に携わる政府関係者は、開示請求のオンライン化が政府全体に広がっていない現状について「さまざまな行政手続きに利用できる省庁横断的なシステムは既に構築されており、導入費もかからない。あとは各機関のやる気の問題だ」と語る。」

 いま政府の推進するデジタル化は、「国民ではなく、政府の『知る権利』に資するデジタル化になっている」(行政文書の開示のあり方を研究してきた龍谷大の本多滝夫教授(行政法))
https://www.tokyo-np.co.jp/article/259260

 

 私は福祉国家化と行政の効率化を進めるには、いわゆる国民総背番号制は必要だと考えてきたが、その前提は政府への信頼だ。ここが完全に抜け落ちたままでは、根本的な見直しが不可欠だろう。

takase.hatenablog.jp