放送の公平原則撤廃が生んだトランプ大統領

 松井孝典(たかふみ)さんの訃報を新聞で知った。前立腺がんで77歳で亡くなったという。

松井孝典さん(wikipediaより)

 日本の惑星科学の第一人者で学際的な地球学を唱えている。1986年、英国の科学雑誌『ネイチャー』に海の誕生を解明した「水惑星の理論」を発表し世界の地球科学者から注目を集めた。千葉工業大学学長、東京大学名誉教授。

 松井さんは、自然を客観的に研究する科学者であるとともに、現代という宇宙史における画期をどう生きるかという哲学をも探求していた。

 『宇宙人としての生き方―アストロバイオロジーへの招待』(岩波新書、2003年)では、「地球システムの中に新しく人間圏が出現し、地球システムの構成要素が変わったのが現代という時代だ」という時代認識のもと、「私は個人的には、我々は宇宙を認識するために人間圏を築いたと考えています」と人類を位置づけた。そして人間中心主義的なふるまいで地球がおかしくなってきている事態に警鐘を鳴らし、「宇宙人としてどう生きるかを考えない限り、これからの地球システムと調和的な人間圏=文明はありえないと思う」と読者に語りかけている。

 私もたくさんの学びをいただいた。ご冥福をお祈りします。
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 国会で総務大臣に「放送法」の解釈を変える答弁を行わせるよう画策した問題。これは徹底して追及してもらいたい。

 安倍晋三首相は、放送法の解釈変更からさらに進んで、放送法自体を撤廃しようと考えていたようだ。2017年10月、衆院選公示の2日前、放送法が適用されないネットテレビに出演したが、国会で「技術革新によって通信と放送の垣根がなくなるなか、(略)放送事業の大胆な見直しが必要だと考えています」と「政治的に公平であること」という努力など必要ないと言いたげな答弁もしている。

報道特集(25日放送)より

 現に「通信・放送の改革ロードマップ」という文書には、「放送特有の規制の撤廃」として放送法第4条の「番組準則」(注:ここに「政治的公平」も規定されている)が挙げられ、「放送(NHKを除く)は基本的に不要に」との文言がある。

報道特集(25日)

 つまり、安倍内閣は、テレビに「停波」の脅しまでかけて、放送法の公平原則を、政権批判を封じることに使っておきながら、その一方で、公平原則自体をなくし、NHK以外の「放送」もなくして、偏った主張を垂れ流すネットメディアのような媒体だけにしようと考えていたのだ。

 これはアメリカに追随しようというのだろう。

 アメリカでは1987年、レーガン政権のもとで、放送の公平性を担保するための「フェアネス・ドクトリン」(公平原則)が廃止された。その結果は、FOXニュースをはじめ、政治的に偏ったメディアがたくさん出現し、トランプのような大統領を生み、アメリカ社会は決定的に分断されてしまった。

 砂川浩慶・立教大学教授(メディア社会学)は「アメリアは一つの失敗例だと考えた方がいい」という。

むくれた子どものような答弁。自制心に問題がありそうだ(サンモニ26日OAより)

報道の自由度で凋落する日本(報道特集25日)

 民主主義の根幹に関わることであり、この問題はゆるがせにできない。