メディアは安田氏報道で反省を

もう6月か。
節気は「立夏」に次ぐ「小満」。「あらゆる命が満ちていく時期。太陽を浴び、万物がすくすくと育つ季節」だそうだ。
候でいうと5月31日からは「麦秋至」(むぎのとき、いたる)に入る。

一昨日の朝日俳壇に「新緑の万緑となりゆく疾(はや)さ 」という句が佳作に選ばれていたが、もう初夏だなあ。
ドクダミが満開です。

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きのうは、インターネットTV(テレ朝にあるabemaTV)とFMラジオのJ-WAVEの生放送に出てくれと頼まれ、ちょうど夜空いてたので依頼を受けた。
どちらもテーマは安田純平拘束事件。
ネットTVでは、内藤正典教授(同志社大学)と小川和久氏(軍事アナリスト)と一緒になった。お二人に「ご無沙汰してます」と挨拶して20時からスタジオに入る。
キャスターがはじめに私に振ってくれたので一気にしゃべった。そのあと、内藤先生のコメントに移ったところで私はスタジオを退出。常岡氏が海外からスカイプで発言すると進行表に書いてあったが、先に出たので聞けなかった。
https://abematimes.com/posts/879061

スタジオを出るとすぐ20時20分からのJ−WAVEのJAM THE WORLDの掛け合い。テレ朝の玄関に腰を下ろして、携帯電話でキャスターの堀潤氏の質問に答えた。
http://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/cut/index.html

テレビとラジオで私がコメントしたのは以下。
第一に、拘束者であるヌスラ戦線がどんな集団か。
ヌスラ戦線は本来、宗教的倫理に厳しく、一般人に危害を加えたり迷惑をかけたりしないことで知られている。シリアの地域住民に支持され信頼されて強力になった集団で、身代金誘拐などという汚いことは決してしないという建前をとっている。
事実、ヌスラ戦線本体はこれまで、安田氏について身代金要求を一切していない。意外に見過ごされているが、現在にいたるまで、家族にも政府にも身代金要求がないことは確認しておきたい。
ヌスラ中枢に「正義」を標榜するエートスがあることは、身代金なしでの解決をめざすさいに無視してはならない。
一方で、ヌスラ本体が実は資金難に見舞われており、金は欲しいが、立場上身代金要求をできないという事情が、自称「仲介人」を登場させることにつながってもいる。知らんぷりしてやらせている、という感じか。
自称「仲介人」が、あと1ヵ月がリミットだなどと言っていることに動揺すべきではない。すでに去年12月にも、自称「仲介人」は、スウェーデン人A、そして「国境なき記者団」を通じて、身代金を払わないと安田を殺すか他の組織に売りわたす、その締切が「カウントダウン」つまり秒読み段階に入ったとして脅してきたではないか。
ただ、憂慮されるのは、こうして注目を浴びることで自称「仲介人」ルートが何か唯一の解決への道のような扱いになることだ。
内藤先生はこの点、私と同意見で、「スタジオでこんなことをいうのはなんですが、メディアがこれを取り上げること自体を反省しないと・・・」とクギをさしていた。

ラジオでも「政府そして私たちメディアは、安田さん解放のためにどうすればいいんでしょう」と聞かれたが、どう答えていいかわからない。
こういうケースの場合、解決への努力はほとんど水面下での「工作」である。
誘拐事件を考えたら分かると思うが、事実関係をおおっぴらにして、「さあ、警察はどういう方法で誘拐被害者を救出したらいいでしょうか」などとメディアで議論したりしない。事実関係自体の報道を控える。
だから、今のように、安田氏の画像が出るたびに大きなニュースになったり、身代金の金額を報じたりすることは、本来異常なことなのである。スペインでも解放までは報道は非常に抑制されていたという。これについてはまた後日書こう。
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ところで、きのう「一部のグループ」について書いたら、「驚いた。でも、善意でやっているのではないか」という反応があった。
たしかに「善意」かどうかの見分けはむずかしい。

しかし、こんなことがあった。
この「一部のグループ」は、安田氏の奥さんに「活動費」として大金を要求した。
「とても、そんなお金は・・・」と困惑する安田夫人に、「トルコへの渡航費くらいは払ってもらわないと」と迫った。そこで、夫人は要求額の一部をなんとか工面して彼らに渡してしまった。
渡したのは、格安航空券ならトルコに5回以上往復できる金額である。
彼らはその後、その金でトルコに渡り、安田夫人の了解をえずに自称「仲介人」と「交渉」するわけだから、夫人にとっては二重に裏切られた思いだろう。
夫人がお金を渡したと後で知った安田氏の友人たちは、みな絶句し激怒した。
安田氏の友人たちは、もちろん手弁当で救出に協力している。中東など海外に行く時の運賃や宿泊費をすべて自弁するのは言うまでもない。
夫がいなくなって精神的にも経済的にも追い詰められている安田夫人から金をせびり取るとは・・しかもフリージャ―ナリストを名乗る人が・・・
それでも「善意」というなら、その意味は私の理解できないものだろう。

安田氏の友人たちは、武士は食わねど高楊枝、サムライなので、こういう恥ずかしい話を公にすることを好まない。
そこで私が代わりに語ることにした次第。