安田氏の画像公開をなぜ憂慮するのか

きのう、安田純平氏の画像が出たことについていくつかのメディアからコメントを求められた。当たり障りのないことしか話せなかったが、ここではちょっと踏み込んでコメントしてみたい。
実は、去年6月下旬に安田純平氏が失踪すると、その直後から、彼の友人などの有志が、身代金なしでの安田氏解放に向けて内々に努力を開始した。
その努力の中から、かなり有望な交渉ルートも開拓されたが、途中でヌスラ戦線指導部からつぶされてきたふしがある。その背景に、身代金でことを解決しようとする自称「仲介人」の存在があったと思われる。

去年末の「国境なき記者団」を舞台にした誤報騒ぎも、スウェーデン人Aと自称「仲介人」のからんだ策謀だったのだが、これをふくめ、ここ半年以上、身代金路線とそれに反対する路線の闘いが続いてきた。http://d.hatena.ne.jp/takase22/20151224

ヌスラ戦線の指導部に、身代金をとって安田氏を解放するのと、タダで解放するのとどちらを採るか、と聞けば、答えは決まっている。自称「仲介人」が、お金を取れそうですよと指導部に報告すれば、こちらのルートで行こうとなってしまう。
困ったことに、日本から一部のグループが、この人物に、安田氏の家族にだまって、家族の代理人であるかのように装って接触、具体的な金額まで「交渉」していたという。
一部のグループがやっていることは犯罪的である。まだ解放されていない安田氏の(いくら怪しい自称「仲介人」の要求であっても)身代金の金額をおおっぴらにうんぬんするなど、神経を疑う。
安田氏の奥さんは、彼らが家族の了解を得ずに自称「仲介人」と「交渉」することに激怒しているが当然である。

安田氏の映像が、自称「仲介人」から出たことで、メディアが競ってこの人物に接触し取材するということになれば、このルートの存在感がますます高まってしまう。
その結果、日本政府に、自称「仲介人」と交渉せよという圧力になりかねない。このルートは潰すべしと考える安田氏の友人たちの多くにとって、望ましい方向ではない。
今回の映像公開に憂慮する所以である。

以下、きのう目についた私の知り合いの面々のツイートから

桜木武史(ジャーナリスト『シリア 戦場からの声』著者)
ヌスラ戦線が人質を利用して金銭を要求するなんてあり得ない。そいつらはヌスラ戦線の名を借りた犯罪者集団だ。現在、ヌスラ戦線と共闘しているイドリブ在住の反体制派の友人が怒ってました。少なくとも彼が知ってるヌスラ戦線はそんなことしないそうです。
https://twitter.com/takeshisakuragi/status/737204862253830144

これに対して・・・
鵜澤佳史(元イスラム戦士『僕がイスラム戦士になってシリアで戦ったわけ』著者)
ヌスラの本来的な理念や、現地での彼らの士気の高さを見れば僕もそのように思います。今回はそれとは別の「組織運営」という観点から見た「実利」の部分でしょうね。
https://twitter.com/uzawa_yoshifumi

さらに、これに対して・・・
中田考イスラム法学者
ヌスラの中でも意見が割れているのは事実ですが、残念ながらジャウラーニー自身が身代金を望んでいます。ただ、自分たちが身代金を要求した、と言われたくないので、ろくでもない提携集団を間にかませている、というのが実情です。(伝聞情報ですが)
https://twitter.com/HASSANKONAKATA/status/737208712754954244

激怒するツイートも・・・
常岡浩介(ジャーナリスト)
こいつがご家族にも外務省にも了承なく、犯人側に荷担して、犯人側の要求を垂れ流すマシンになってきた結果が今の安田くんの窮状。 https://t.co/2BNyIRy8dm
https://twitter.com/shamilsh/status/737206784503521280