すべての営みには時がある

takase222012-10-18


急遽、仕事で、北海道に出張してきた。
大雪山の旭岳は、もうすっかり雪化粧。
ここは日本で一番はやい紅葉の名所なのだが、今年は遅れに遅れて、紅葉したかと思ったらもう雪が降り、見ごろの期間はとても短かったようだ。
それでも、下の方ではまだ紅葉が残っていて、赤や黄色の葉っぱの向こうに白い雪山というユニークな景色を見ることができる。
撮影で歩き回っていたら、雪でスニーカーがびちゃびちゃに濡れて酷い目にあった。トレッキングシューズを借りてくるのだった。
大雪山は初めて行ったが、その雄大さに心が洗われた。すばらしい。今度は仕事抜きで、もっとじっくりと風景に浸りたい。
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出張前の数日は、嵐のような日々だった。
仕掛かり中の番組制作がちょうどたけなわになり、取材アレンジでてんてこ舞いになったところに、大きめのトラブルがドカーンと複数降りかかってきた。大変なことになったと頭を抱えていたら、追っかけるように10件くらいの懸案事項が一斉に湧き出てきた。いくつかの金融機関との返済交渉、二つのテレビ局との契約更改、事務所の大家との契約更改交渉・・・・。
怒涛のように押し寄せる問い合わせや詰問に、短時間でメールで答えなくてはならない。連日50本はメール送信していた。この間メールをやり取りしたのは、日本以外に海外6カ国の人。だんだん気分が高ぶってきて、「何でも来い」という感じになっていく。
ランナーズハイというのがあるが、こういうのは何と言うのか。
途中で、ロケ隊の航空便や宿泊場所の手配などの注文がいきなり入る。人手がないので、旅行代理店のようなこともやるのだ。
それでも、13日土曜日は同窓会に顔を出した。こういうのには無理しても出るようにしている。寝不足のまま、会場に駆けつける。41年ぶりに会う顔もあり、へろへろになりながら4次会まで付き合った。
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さて、10月15日は、拉致被害者5人が北朝鮮から帰国して10年。
メディアでは、これに関するニュースがいろいろ流れ、私もあらためて被害者奪還の決意を固めた。
この日は、横田夫妻の結婚記念日でもある。今年は金婚式を迎えた。
めぐみさんは48歳になった。こうした長く辛い時間を、拉致被害者と家族はどんな気持ちでおくってきたのだろうか。
横田早紀江さんの近著『めぐみと私の35年』(新潮社)から、早紀江さんの心境を紹介したい。運命との向き合い方を考えさせられる。
たったひとつ描いていた私の夢といえば、書道の師範になることでした。若いときから書道を続けてきたので、六十歳までに師範の資格を取って、家で子どもたちにお習字を教えたいと思っていたのです。
 何事もなければ、その夢も叶っていたかもしれません。けれど、四十一歳にして最愛の我が子を奪われ、行方の知れぬ娘を捜し求めて二十年。さらに北朝鮮に拉致されたことがわかり、取り戻すための活動に追われてきた十五年。私たちも二〇一二年で金婚式を迎えるとは信じがたく、穏やかな生活とはほど遠い日々を過ごすことになってしまいました。
 けれど私は、そうした人生を辛いと考えるより、その中にも生きる意味を見出してきました。人間にはそれぞれ宿命があり、天から与えられたことには人智を超えた定めがあります。いかなる苦しみもすべてマイナスではなく、そこで鍛えられながら、いろいろなことを学ばされました。自分自身も成長し、強くなったことを感じます。
 (略)
 自分の人生には悔いがない。あとはただ、めぐみにもう一度会いたいという望みだけです。
 「すべての営みには時がある」という御言葉もあります。神さまは「戦うのに時があり、和睦するのに時がある」とも語られました。振り返れば何もわからなかったあの二十年前を経て、めぐみが拉致されて北朝鮮にいること、結婚して子どもを産んだことなども、神が選んだ「時」に知らされたのでしょう。どんなに時間がかかっても、最善の時を選ばれる。それが私たちの神であり、希望なのです