韓国のメディアが入手したという平壌市民のデータは、非常に興味深い。
ロイヤルファミリーや軍人など「特殊層」は除かれているそうだが、210万人分もの生年月日や血液型も流出したとは。これはまさに情報の宝庫である。
これを捏造することは不可能だ。「工作」するとすれば、一部だけを変更する形になるだろうが、そういうことができるデータかどうか、見ていないのでわからない。
《週刊朝鮮によると、この名簿は「平壌市民280万人の身上資料」。北朝鮮の秘密警察、国家安全保衛部が2002年ごろから収集したデータを基に05年に作成したとされる。》(産経新聞)
曽我ひとみさんの朝鮮名「ミン・ヘギョン」と「チャールズ・ロバート・ジェンキンズ」という米国人が夫婦として記載されていることから、拉致被害者を排除していないことが分かる。
疑問が出ているのは、北朝鮮が2002年の小泉訪朝後に発表した、めぐみさんの朝鮮名が「リュ・ミョンスク」だったのに対して、今回のデータが「ハン・ソネ」である点。そして、めぐみさんの血液型がB型なのに「ハン・ソネ」はA型だということ。
北朝鮮の発表では、めぐみさんの夫は、再婚したことになっており、「ハン・ソネ」がその再婚相手という可能性もありうる。しかし、生年月日が、めぐみさんと同じだなんてありえない。どうしたことか。
そして、「もうひとりのキム・ウンギョン」とその父親も、めぐみさんと無関係とは考えられない。このリストは「2002年ごろから収集したデータを基に05年に作成」したというから、収集時期の差によるダブル記載の可能性はないか。
記載情報に「ゆれ」があるのは、あるいは、めぐみさんも夫も特殊機関に所属したため、名前などの属性が住民リストに載る場合に変更されたのかもしれない。
新聞記事からだけでも、さまざまなことを推測させられる。
もし北朝鮮が、この名簿に拉致問題にかかわる「メッセージ」を入れ込みとすれば、こんなパズルのような記載はしないはずだ。この「混乱」は、むしろ、北朝鮮がよくやる単純なテクニカルミスか、特殊機関員用の特殊な記載方式から説明できそうな気がする。
日本政府は、このデータをぜひ入手し、重点的に解明してほしい。
政府は、情報収集に力を入れるとしているが、実際は非常に不十分だと思う。例えば、200人近いといわれる日本に定住している脱北者からまともに事情聴取していない。彼らのなかには、ロイヤルファミリーを直接に知っている人もいるというのに。情報収集に大きな予算をつけて、人員も確保しているのだから、もっとアクティブにやるべきだ。
横田めぐみさんらしい女性が04年ごろ生きていたと聞いたと証言した脱北者に対して、韓国に来てから何年も経つのに、いまごろそんな証言をするのはおかしいという声も上がっているが、本人によれば、「この情報は、韓国に来てすぐに事情聴取で話している。その後、複数の政治家にも会ったが、関心を持ってもらえなかった」そうだ。
まずは、しっかりした聞き取りが必要だ。
すぐにできることはいくらでもある。