三宮麻由子さんの悟り

takase222009-11-01

元国立環境研究所所長の大井玄さんが、最近のエッセイで、4歳で視力を失った三宮麻由子(さんのみや・まゆこ)さん(写真)の「悟り」について触れていた。
面白そうなので、三宮さんの『鳥が教えてくれた空』を読んだ。彼女は野鳥の声を二百以上も聞き分けられる。そして、自然との触れ合いから「覚醒」していくという。
巻末の阿川佐和子さんとの対談がとても味わい深いのでここに紹介したい。
三宮さんは、山に入って鳥の声を聞いていると、自分のいる位置関係が立体的に理解できるし、天気も分かるという。
《天候によって鳥の鳴き方が違うんですね。そういうふうに鳥の声を聞いていたら、自然と同化する感覚というのが強く生まれてきたんです。音波って直接鼓膜に入ってくるものだから、鼓膜で小鳥に触っているというか、山の景色がそのまま体に入ってくる感じなんです。
そうすると、「山は美しい」という、そんな距離を置いた表現ではすまなくなって、こういう自然の中にいて、こうやって私は生かされているんだなと悟るわけです》

そして彼女は、自分が生きている意味へと「覚醒」を進めていく。
《仕事で翻訳をするときに(注:三宮さんは翻訳の仕事をしている)、晴眼者と同じレベルのことを要求されると、どうしてもハンディキャップがあるんです。私としてはこれ以上ないくらい上達したと思っても、他のみんなはそれ以上に上達していて、アキレスと亀じゃないですけど、永遠に追いつけない。そこで私というものをどうやって位置づけていくのかと問うたときに、私は障害者であっても努力して百パーセント発揮しているわけだから、そこにおいては他の人と同じはずだ、できることをやって結果として戦力になった、そう考えることで、仕事のことは決着がついたんです。
でも、人生、生きる人間社会の中では結果が出てこないんですね。そのときに、鳥たちのことを思ったんです。鳥たちは自分の位置づけはどうかなんてことを考えずに生きている。(略)その生きる姿を見て、こんなにちっちゃいけど、もしこの世に鳥がいなかったら、ほんとに世の中は味気ない。だから弱い強い、できるできないじゃなくて、その存在自体に意味があるんだ。ということは、私だってできないことがいっぱいあって、小さい存在だけど、ここに生まれたということは存在する意味があるんだろうなと。(略)そう思ったときに、やっと私の居場所というか、心の置き場所が見つかったような気がして。

阿川:それはとてつもない発見ですね。
三宮:自分、自分とだけ思っていたり、私はどうすればいいかとばかり問いかけていると、そういう答えは出てこない。鳥とか生命(いのち)のレベルでようやく初めてわかるものなんですね。よくわかりました、それまでの私は自分というものに束縛されていたんだなと》
日本では、痛ましくも、たくさんの子供が自ら命を絶っている。
そういう子供たちに、三宮さんの《私だってできないことがいっぱいあって、小さい存在だけど、ここに生まれたということは存在する意味があるんだろうな》というメッセージを聞かせたいと思った。
みんな、みんな、生きている意味があるんだよ!

参考:大井玄「野垂れ死にも悪くない」(『サングラハ』107号)