全体主義とジャーナリスト

雑誌『諸君』の書評欄が面白い。特に三浦小太郎氏が勧める本は、ぜひ読まなくてはならないという気にさせる。三浦さんは尊敬する友人で、見識ある真のアジア主義者。9月号では、暗殺されたジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤの『ロシアン・ダイアリー』を絶賛している。さっそく読もう。もう一人の『諸君』の書評欄の常連、東谷暁氏は私の高校(山形東高校)の同級生で、彼の批評も鋭く毎月楽しみだ。

ロシアのジャーナリストには、生命の危険にさらされながら、素晴らしい仕事をしている人がいるが、かの国のジャーナリズムが花開いて、まだ20年にならない。ソ連スターリンが死んでから次第に全体主義の解体が進んでいたが、90年のソ連崩壊ではっきりした「体制崩壊」を見た。全体主義体制崩壊すると、どんなことになるのかを見せつけたのが、アンドレイ・イーレシュたちの一連の仕事で、日本では、大韓航空機撃墜事件の真相を書いた『ブラック・ボックスの謎』や隠蔽されてきたソ連の核事故を暴いた『核に汚染された国』(ともに文藝春秋刊)が出版されている。前者では、83年にサハリン上空で起きた撃墜事件で、「撃墜したのはスパイ機で、ブラックボックスはない」とのソ連の発表を覆している。彼らの執拗な追及で、エリツィンはついにないはずのブラックボックスの解読資料をアメリカと韓国に引き渡した。

私はこの展開を、北朝鮮拉致問題にも起きることを夢見ているのである。イーレシュたちが事実を追求できたのは、全体主義の解体という条件があったからだ。私は北朝鮮は「普通の独裁」ではなく、全体主義だと見ている。拉致問題を含む北朝鮮のさまざまな問題は、金正日体制という全体主義を倒すことによってはじめて全面解決に向かうことができると思う。
(私の全体主義論については『金正日体制は平和的に打倒すべきである』http://moura.jp/scoop-e/seigen/pdf/20060417/sg060417_kimu_01.pdf

アジアプレスの石丸次郎さんは、北朝鮮国内に住む李準(仮名)という青年をジャーナリストとして教育しているという。最近のアジアプレス発の北朝鮮国内映像は李準撮影のものが多く、取材も上達している。「お前は、北朝鮮のジャーナリスト第一号になれと言っているんですよ」と石丸さん。金正日体制が崩壊するときには、世の中をひっくり返すような報道で、改革を速めてくれるのではないか。そんな日が来るのを期待したい。