原発事故とコスト5−米国の原発事故試算

takase222011-05-22

自民党の谷垣総裁が17日の党役員会で、内閣不信任決議案提出を示唆した。
すると、これに呼応するかのように、西岡参院議長が首相退陣を要求した。
西岡武夫参院議長は17日、産経新聞のインタビューで、東京電力福島第1原発事故に対する菅直人政権の対応を批判し、「もうここら辺が限度」と述べ、退陣すべきだとの考えを示した。与党出身の議長が、内閣総辞職を要求するのは極めて異例だ。
 西岡氏は野党側の内閣不信任案の提出時期について「(6月22日までの今国会の)会期末では遅すぎる。サミット前が常道だ」と述べ、26日からの主要国首脳会議(仏ドービル・サミット)前の提出を促した》(産経)
与党の幹部が、野党に早く内閣不信任案を出せとまで言う、まさに異例な事態である。
これを見て、《公明党山口那津男代表は21日、内閣不信任決議案について、自民党と共同で提出する意向を示した》(日経)
与党野党両サイドから、首相を引き摺り下ろす動きが、唐突な感じで一気に出てきた。
菅首相発送電分離を前向きに検討するなど、内閣が東電に厳しい姿勢をしめしたのと同時期である。これは、たまたまタイミングが一致しただけなのだろうか。
発送電分離論に対し、電事連はすぐに反対した。
電気事業連合会八木誠会長(関西電力社長)は20日の記者会見で、菅首相らの発言が相次いでいる電力会社の発送電分離について、「安定供給の責任という点から(電力会社が)一体で行うことが重要」と否定的な見解を示した》(読売新聞)
日本の電力供給体制が、今後、重要な争点になっていくにつれ、激しい権力闘争を引き起こしそうな気配である。
ドラスティックな政策を実行するためには、その政権に強い政治基盤があるか、さもなくば国民からの厚い信頼があるなど、「求心力」が必要なのだが・・。
さて本題。
原発を先導し、世界に広めたのはアメリカだ。
53年12月、アイゼンハワー大統領が国連で「アトムズ・フォー・ピース」の演説を行い、アメリカが主導権をとって原子力の平和利用を促進することになった。
アメリカでは初の原子力発電所の稼動を前に、原発が事故を引き起こした場合のシミュレーションを行っている。
「大型原子力発電所の大事故の理論的可能性と影響」として1957年3月に公表された。
熱出力50万キロワット(電気出力では約17万キロワット)の原発を対象とし、結論は以下のように記されている。
「最悪の場合、3400人の死者、4万3000人の障害者が生まれる」
「15マイル(24km)離れた地点で死者が生じうるし、45マイル(72km)離れた地点でも放射線障害が生じる」
核分裂生成物による土地の汚染は、最大で70億ドルの財産損害を生じる」
WASH-740, Theoretical Possibilities & Consequences of Major Accidents in Large Nuclear Power Plants, U.S.A.E.C., March, 1957
小出裕章『隠される原子力・核の真実』(創史社 2010)P55〜より引用)
70億ドルを当時の為替レート(1ドル=360円)で換算すれば、2兆5000億円。
その年の日本の一般会計歳出合計額は1兆2000億円。
計算によると、この一基の原発事故の土地の汚染の損害(property damage)だけで、日本経済は沈没してしまうことになる
なお、この試算は電気出力17万キロワットの原子炉を想定しているが、福島第一原発の1号機は46万キロワット、2〜4号機は78.4万キロワットではるかに大きい。
実は60年、日本もアメリカにならって、原発事故の試算を行っていた。
だがそれは秘密扱いされ、99年になってようやく公開された。
「大型原子炉の事故の理論的可能性及び公衆損害額に関する試算」(60年)と題した報告の内容は破局的なものだった。
(つづく)
写真は、チェルノブイリ原発敷地内にある犠牲者追悼碑