北朝鮮に劉暁波はいない

中国の人権抑圧は二重構造になっていると私は理解している。
劉暁波リュウギョウハ)氏らのような政治的民主の拡大に関わるものと、チベット族ウイグル族などの民族自決に関わるものと。
天安門後に国外脱出した漢族の民主活動家が、チベット民族自決権を認めようとしなかったエピソードについて、以前書いたことがある。この二つの運動に少しづつ連携ができてきたことは喜ばしい。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20080323
今回の劉暁波リュウギョウハ)氏のノーベル平和賞で、中国の人権に世界の目が集るようになった。中国国内へのインパクトも、ダライラマの受賞より大きいだろう。
1975年、ソ連の反体制派サハロフ氏がノーベル平和賞を受賞し、ソ連・東欧圏の人権に焦点が当たっていったことを思い出させる。そこから、ベルリンの壁崩壊まで14年かかっている。中国に動きが出てくるのはいつになるのか。
短いスパンでこの世を見ると、全く何も改善されていないようで絶望したくなるが、大きな視野で歴史を見ると、やっぱり確実に進んでいるのだなと思わせられる。
きのう、明治大学で「北朝鮮の内実を知る講演会」があった。
http://hrnk.trycomp.net/news.php?eid=00388
金ヘスクさんという女性が韓国から来ていた。この人は13歳のときから、20数年にわたって政治犯収容所にいれられていたという。容疑は母方の祖父が朝鮮戦争のときに行方不明になったことが南に逃げたとみなされたこと。「連座制」といって、家族にも責任を負わせるのでまだ小さいのに収容所行きになった。家族を襲う悲劇を語るうち、ヘスクさんは涙声になってしまった。
写真は、彼女が描いた収容所内の公開処刑。多いときには毎日のように処刑があったという。

『開かれた北韓通信』の河泰慶(ハ・テギョン)代表は、金正恩世襲については北朝鮮住民に4人のうち3人が「よくない」「期待していない」と思っているとの内部情報を報告した。もちろん誰もそんなことは公言できない。公言したら、ただちに親族もろとも収容所に入れられ、外の世界には知られずに抹殺されるだろう。
劉暁波氏は北朝鮮には存在を許されないのである。
10日の軍事パレードで金正恩が壇上に姿を現したニュースの一方で、あの黄長除エ(ふぁんじゃんよぷ)元労働党書記の死亡が伝えられる。
数年前、ソウルでインタビューしたことを思い出す。
次の後継者は誰になると思いますか、と聞くと、憮然として「答えたくないし、そんなことは考えたくもない」と言う。彼にとって、このままの専制が続く「3代世襲」などということは絶対に許してはいけないことだからだ。
まるで天気予報のように次の後継者を予想し、「王子」、「若大将」と面白おかしく騒ぐ日本のマスコミには辟易しているようだった。
後継体制は大きな困難に見舞われると見るが、さてどうだろうか。
テレビ朝日が9日、中国で長男の金正男をインタビューしたところ、「個人的には、3代世襲には反対だ」とはっきり言った。とても気になる発言だ。