温暖化の風物詩

 朝8時すぎ、娘が「遅刻する!」と騒ぎだすころ、連続朝ドラまでのNHKは、たいてい日本各地から季節のニュースを流している。今朝は富士山麓の「新しい冬の風物詩」だった。
 カメラは富士山とその前に広がる山中湖の雄大な風景を映し出す。ズームインしていくと湖上に浮かぶ屋形船が見えてくる。船の中へとカメラが切り替わる。すると船の中には20人くらいの人たちが座り、船縁に近いところから湖水に糸を垂らしている。アナウンサーが、みなさんが釣っているのがこれなんですと釣り上げたワカサギを指した。
 山中湖は氷上のワカサギ釣りが名物で、1万人もの人でにぎわったと当時の写真が出る。一面氷結した湖面に穴をあけて釣りを楽しむ人がたくさんいた事が分かる。ところが、「温暖化の影響で氷が張らなくなった」とナレーターが説明したあと、アナウンサーが出てきて「そこで登場したのが、この《屋形船のワカサギ釣り》なんです!」ととても楽しそうにリポートした。
 「新しい風物詩」とは、温暖化によって出現したものだったのである。
 複雑な気持ちになって観ていると、画面は現場からスタジオに戻って、キャスターが「けっこう釣れているようですね」と爽やかな笑顔でしめてそのコーナーは終わった。
 観終わってどうにも納得できない気持ちが後を引いた。
 東北地方のゴルフコースが、やはり温暖化で、冬でもプレイできるようになって地元もゴルファーも喜んでいるという記事を読んだことを思い出した。こういうのを見聞きすると、私は、沈みかかっている地球という船の中で、夜な夜なパーティを楽しんでいるというイメージをどうしても持ってしまう。
 こんな報道の仕方でいいのだろうか。
 娘はいいと言う。
 「桜も、他のいろんな花も、温暖化で早く咲いたりしているんだよ。いちいち目くじら立ててたら、楽しいニュースなんかなくなっちゃうよ」。
 たしかに温暖化が進めば動植物の生態も変り、それによって経済を含む人間の諸活動も影響を受ける。「風物詩」が様変わりするのは当然だ。
 新しい風物詩に私たちはどう向き合えばよいのか、考えさせられる。